経済
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地価も下落局面へ、都市部商業地の落ち込みは長引く

三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 フェロー リサーチヘッド / 大溝 日出夫
週刊金融財政事情 2020年10月5日号

 毎年、9月下旬に都道府県による地価調査が公表される。地価調査は、7月1日時点における全国2万カ所を超える基準地の価格を評価するものだ。今回は、調査期間の前半で昨年来の地価上昇傾向が続いた後、後半にコロナ禍の影響を受けたので、動きがつかみづらいながらも、地価の変調がある程度現れた結果となった。なお、地価については、国土交通省が実施する1月1日時点の公示価格も重要な指標である。

 これとは別に、国土交通省からは地価LOOKレポートという地価の動向が公表されている。同レポートは、全国の都市部から100地点を選び、3カ月置きの地価の変動を、0~3%、3~6%のように3%刻みの幅で表している。調査の周期が短い上に、地価のボラティリティーが高い都市部の傾向をつかめることから、地価調査や公示価格に比べると、マーケットの動きを反映しやすい。

 図表は、地価LOOKレポートから、「上昇地点」「横ばい」「下落地点」の数を数えてその割合を時系列で並べたものである。昨年第4四半期時点から半年の間に上昇地点数と下落地点数が逆転した。ちなみに、下落地点の割合は2014年第3四半期から5年以上もの間、0%が続いてきた。

 図表の左側は、リーマンショック前後の地価下落の動きを示している。当時も、07年末から半年で上昇地点と下落地点が逆転している。08年第3四半期に0%に落ちた上昇地点割合が20%を超えて回復し始めたのは、12年第2四半期であった。

 地価の評価においては、対象地点の土地が実際に取引されるとは限らないため、不動産鑑定士が類似の取引事例を比べたり、対象地における賃貸事業を想定したりして査定する。特に都市部の商業地では収益性の見通しが重視される。今年第2四半期(7月1日)においては、新宿・歌舞伎町や大阪・心斎橋などの商業地がマイナス6%~マイナス3%と判定されていることからすると、収益の落ち込みが一時的ではなく、中長期にわたって続くと判断されたものと考えられる。これに対し、住宅地は今のところ横ばいが多い。

 コロナ禍は、もはや一過性でなく今後の産業構造を変えてしまうほどの影響がある。この影響を受ける不動産は、一定のショックを受け止めた後、じわじわと時間をかけて回復する低反発クッションのようなものだ。コロナ禍のネガティブインパクトは思ったより大きく、地価も数年の減退期間を覚悟しなければならないかもしれない。

きんざいOnline
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(提供:きんざいOnlineより)