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コロナ禍でばらつく欧州各国のGDP計測手法

BNPパリバ証券 チーフクレジットストラテジスト / 中空 麻奈
週刊金融財政事情 2020年11月9日号

 EUが発表した第3四半期GDPの速報値は、年率換算で61.1%の大幅増となった。コロナ禍の影響を最も受けた第2四半期からの回復は当然といえるが、欧州では早くも第2波懸念が台頭し、景気後退のリスクが高まっている。

 そんななか、経済データが記録的なばらつきを見せていることを指摘したい。原因の大部分は新型コロナウイルスの感染状況やそれに関連した規制措置の厳格さにあるとみられるが、それだけではない。都市封鎖の下での公共部門GDPの計測手法の違いによる政府消費支出のばらつきが実態以上に広がっているのである。通常、GDPは「所得、支出、生産」という経済の3基準の一つを集計することにより計測する。ただ、教育や医療などの公共サービスやコロナ禍における助成金など公的支出に対しては各国の捉え方に違いがあり、それが公共部門GDPの差を広げている。

 例えば、労働者が生産していなくても助成金等で賃金が支払われる限り、計測上のアウトプット(GDPへの寄与率)は落ち込んでいないと捉えるべきか、実態に合わせるべきか。また、オンライン授業への移行により対面時間が減り、教育の質が低下している場合にはどうするか。前者は、賃金などの投入コストをアウトプットの基準とする場合が多いため、変化させずに捉えるのが通常の措置だが、フランス国立統計経済研究所(INSEE)では従業員の労働時間が縮小している場合にはそれを反映させる決断をした。後者については、英国国家統計局(ONS)が変化をより正確に反映させるため、通常と比べどの程度の時間を教育に費やすことができたかを教員に報告させて、正規の学校教育の縮小を考慮し、全体的アウトプットの変化をより精緻に捉えるべく調整を加えた。

 こうした判断がそれぞれの政府消費の違いを生み、2020年前半の各国GDPに相当な影響をもたらしたといえる。フランスでは3%、英国では4%の落ち込みにつながった一方で、統計上そうした選択をしなかったドイツやスペインでは、むしろ政府最終消費支出はGDP成長率を押し上げていることが分かる(図表)。しかも、こうした統計手法の違いは危機からの回復を経ておのずと修正されることになるため、コロナ禍の影響がピークアウトすれば、フランスや英国のGDPは相対的に追い風を受けることになる。

 今後もコロナ禍が継続すれば、こうした統計上の齟齬が解消されないままになることで、ミスリードしないよう注意しておくべきであろう。当社では、ユーロ圏20年第4四半期GDP成長率を1.5%と予測している。

きんざいOnline
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(提供:きんざいOnlineより)