結果の概要:賃金・労働時間は改善が続くものの、雇用の明確な改善は見られず

英国雇用関連統計
(画像=PIXTA)

11月10日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。

【10月】

・失業保険申請件数(1)は前月(266.35万件)から2.98万件減の263.37万件となった(図表1)。
・申請件数の雇用者数に対する割合は7.3%となり、前月(同7.4%)から減少した。

【9月(7-9月の3か月平均)】

・失業率は4.8%で前月(4.5%)から上昇、市場予想(2)(4.8%)と同じだった(図表1)。
・就業者は3250.7万人で3か月前の3267.1万人から16.4万人の減少となった。
増減数は前月(▲15.3万人)から減り(減少幅の拡大)、市場予想(▲15.0万人)を下回った。
・週平均賃金は、前年同期比+1.3%で前月(+0.1%)から改善、市場予想(+1.1%)も上回った(図表2)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)求職者手当(JSA:Jobseeker?s Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
(2)bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

結果の詳細:ロックダウンの再実施で、先行きの不透明感は急拡大

10月の失業保険申請件数は9月から微減、申請者数の割合は7.3%とやや低下した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

失業保険申請件数と同じく10月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、8-10月の平均求人数は52.5万件で改善が続いている(図表3)。ただし、ONSは求人数の増加が見られるものの、コロナ禍で求人と求職のミスマッチが起きているため、2021年にかけて雇用のマッチが難しくなる可能性を指摘している。

給与所得者データ(3)を見ると、10月の給与所得者は2821.1万人で前月差▲3.3万人となった。先月公表された値では8月から9月にかけて増加に転じていたが、今月の公表値では減少が続く形に修正されている(4)(図表4)。一方、月あたり給与額(中間値)は前年同月比+4.6%と高い伸び率が維持されている。流出(退職など)と流入(就職など)のフローを見ると、流出・流入ともにコロナ禍による影響が薄れているものの、流入の回復がやや遅い傾向にある(図表5)。9月に引き続き、給与(中間値)に上昇圧力が生じている一因としては、給与水準の低い新規流入者が抑制されていることが挙げられる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

続いて9月までのデータを確認する。

7-9月の失業率は4.8%となり、失業者は162.4万人まで増加した(前掲図表1)。ONSは失業率や非労働力人口の増加に関して、若年層が労働市場悪化の影響を大きく受けている点を指摘している。一方、賃金関係では、7-9月の平均賃金が前年同期比+1.3%(実質は+0.5%)となり、実質ベースでもプラスに転換した(前掲図表2)。労働時間は28.5時間(前年同期差▲3.6時間)、フルタイム労働者で33.0時間(同▲4.3時間)となり、賃金や労働時間の面は改善が続いている。 10月までのデータを見ると、労働時間など全体的な労働環境を見ると改善が続いているものの、雇用者数などは明確な増加が見られない状況となっていることが分かる。英国では、11月5日からイングランド全域でロックダウン(外出制限)が再実施され、娯楽施設などのサービス産業は閉鎖されるなど、回復の腰折れ懸念は高まっている。政府は、外出制限とあわせて既存の雇用維持政策を延長することも決定したが(5)、先行きの不透明感は急拡大していると言える。

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(3)歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した実験統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
(4)雇用維持制度(Job Retention Scheme、CJRS、10月末まで)により一時休業している従業員は給与所得者としてカウントされるため、雇用維持制度の恩恵を受けられなかった人が一定いると見られる。給与所得者の減少の方が、労働力調査(LFS)ベースの就業者減より大きいが、ONSは無給の人が労働力調査において「就業者」と報告している可能性を指摘している。
(5)コロナ禍後の雇用維持制度(CJRS)は8月1日に社会保障を政府負担から雇用主負担に変更、9月以降は賃金の政府負担率・上限額を段階的に引き下げたのち10月末で終了する予定となっていた。今回は8月時点の制度で20年11月から21年1月まで延長、その後、2月に見直しを行ったのち3月まで当該制度を実施する予定。


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高山武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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