(本記事は、髙島一夫氏、髙島宏修氏、立石守氏、今吉貴子氏の著書『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

日本の“借金”は壊滅的な規模

富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
(画像=Webサイトより※クリックするとAmazonに飛びます)

バブル崩壊から続く不景気とともにあった平成が終わり、お祝いムードの中で令和が始まりました。しかし、コロナウイルスというブラックスワンによって、令和という時代は一変しました。日本経済や社会にさらなる問題を生み出し、将来の不安は高まり続けています。

日本が抱える諸問題の根本原因は、「莫大な国の借金」と「世界に類を見ない高齢化」にあります。このことは、2015年にT&T FPコンサルティングが上梓した『なぜ、富裕層はスイスにお金を預けるのか?』でも触れました。

これら2つの問題について、残念ながら解決への道筋は見えず、むしろコロナ禍で悪化しているのが現状です。その行き着くところは富裕層をターゲットとした「大増税時代」に他ならず、すでにマイナンバー制度が始まるなど、増税に向けた動きが出てきています。

現状認識として、「日本が抱える借金」について、あらためて確認しておきたいと思います。

日本銀行(以下「日銀」)の統計によると、政府が2019年3月末に保有する金融負債は1316兆円に上り、対GDP比で239%まで達しています。これは国民1人当たりに換算すると、1000万円に上る値です。

令和2(2020)年度予算における国債の発行額は、「借換債」という、いわゆる隠れ借金まで含めると約153兆円あり、毎年のように140〜170兆円程度の借金が蓄積されています。このような状況にあっては、多少GDPが成長したとしても、焼け石に水といえるでしょう。

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(画像=『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』より)

さらに不幸なことに新型コロナウイルス対策に伴い、歳出が膨張しています。第1次、第2次補正予算で2020年度の一般会計歳出は当初計上していた予算と合わせて、160.3兆円に拡大しました。これは過去最大といわれた2019年の104.7兆円の1.5倍になります。補正の財源は全て国債発行で賄まかない、今年度の国債発行額は90.2兆円となります。

一方、コロナウイルスによる営業自粛などにより、企業業績悪化などで税収の減少は避けられません。緊急性が高いのでやむを得ないのは理解できますが、アフターコロナ時代を見据えた中長期的な視点から見れば、このさらに悪化した財政を立て直すためにどのような政策が実行され、どのような税制が検討されるかは冷静に見ていく必要があります。

世界の先進国のなかで、これだけの借金を抱える国は他にありません。例えばユーロ圏では、財政破綻をしたギリシャに次いで多い債務を、イタリアは抱えているのですが、それでも138.4%です。また、EUに加盟するには、「債務残高が対GDP比で60%を超えないこと」という条件がありますが、この条件に照らしても200%を超えている日本の債務残高は異常に高いことが分かります。

国債金利1%の上昇が致命的

日本の借金の問題は、「アベノミクス」が絡んでさらに複雑化しています。

日銀の黒田東彦総裁は、アベノミクスの下で2013年に“異次元金融緩和”を開始し、巨額の国債買い入れを続けてきました。2019年3月末時点で国債の46.3%を日銀が保有している状況ですが、これは他国では類を見ない事態です。通常、国債を発行するときには貸し手となる金融機関や投資家を募る必要がありますが、日銀に国債を買わせることで政府は大規模な借金を重ねられる構造となっています。

この流れはコロナ禍でより加速し、2020年4月27日に「新型感染症対策の影響を踏まえた金融緩和」ということで追加の緩和が行われました。これまでは日銀の国債買い入れは年間80兆円が事実上の上限とされていましたが、今後は無制限に買い入れることが決定されました。コロナウイルスが終息したとしても、現状の仕組みが大きく変わらない限り、今後も日本の債務残高は増え続けていくことでしょう。

それにもかかわらず、多くの日本人は危機感を持っていないようです。これは、「国債の金利が上がっていない」ということも影響しているのでしょう。確かに、国債の金利が低ければ、日本政府の金利負担は少なくなります。

しかし、本来、「政府の債務残高が増えれば、国債金利は上昇する」というのが経済学の常識です。財政赤字が拡大し債務残高が積み重なれば、デフォルト(破綻)への懸念から市場の信任が失われる。そのままの金利では国債を買ってもらうことができないため、金利を上げざるを得ない。こうした事態になってもおかしくはないはずですが、事実として日本の国債金利は1%を下回っています。これはなぜなのでしょうか。

答えは、日本の場合、国債の多くが「国内の金融機関」によって保有されている点にあります。日本の国債を保有する海外投資家の割合は全体の8%ほどですから、「金利を上げよ」という強い圧力にならないため、金利を上げずに済んでいるのです。この点は、国債の外国人保有率が70%にのぼり、国債金利が上昇を続けた末に財政破綻を起こしてしまったギリシャとは違う点です。

ただし、この状況も、いつまで続くかは分かりません。

「日本はまだまだ大丈夫」と考えている日本人は多いかもしれませんが、海外からの評価は辛辣です。日本国債は海外の格付け機関による評価を落とし続けています。ムーディーズによる2019年11月の格付けでは、日本は「A1」であり、同じランクに位置づけられているのは中国とチリです。1990年代には最高の評価である「Aaa」を付けていたにもかかわらず、そこから9回にわたる見直しにより、今や新興国と同程度の格付けとなっています。

また、日銀の統計によると、2018年末における日本の短期国債の海外保有比率が初めて7割を超えました。日本国内の金融機関は、日銀によるマイナス金利政策を受けて、国債への投資を敬遠するなか、為替差益を狙った海外からの投資が増えているためと考えられます。

このような動きが加速すれば、日本国債は海外への依存度を増し、海外投資家によって金利上昇の圧力がかかる事態も考えられます。しかし、国債の金利を上げるということは、日本政府の返済が増すことを意味し、財政破綻にもつながりかねません。2016年度以降の国債残高に当てはめた場合、金利が1%上昇しただけで、1年目に国債費(債務償還費、利子など)が1兆円、2年目には2.4兆円増えていくことになります。

ただでさえ財政赤字を克服できない日本で、これだけの国債費が増えると、国民生活に影響が出ることは必至です。

こうした事態に加え、日本はもう1つ大きな問題を抱えています。それが、「高齢化」です。

日本の高齢化は他国と比べ圧倒的に速い

内閣府の発表によると、2018年10月1日現在における総人口に占める65歳以上人口の割合は28.1%。つまり日本は「4人に1人が65歳以上」という超高齢社会に突入しています。高齢化の勢いはとどまることなく、今後50年以内に「3人に1人が65歳以上」「4人に1人が75歳以上」になるとの予測も出ています。

こうした事態を受け、現在の社会保障制度を維持するのは、すでに限界が来ているといった指摘もなされています。働き手が減り、給付を受ける高齢者が増えるわけですから、当然のことです。

もちろん、社会保障制度はその時々の状況に合わせて見直されていくものですから、それなりの改正は行われるでしょう。事実、厚生年金の受給開始年齢は制度が始まった昭和17年には55歳だったものが、現在は65歳まで伸びています。安倍晋三首相は、2018年の自民党総裁選の討論会で、年金の受給開始年齢について70歳を超える選択もできる制度改正を検討し、「3年で断行したい」と述べており、社会保障費の抑制に進むことは明らかです。

しかし、このような対応も十分であるとは言えません。なぜなら日本が迎えている少子高齢化の変化は、史上どの国も経験しない速度で進行しており、制度改正では現実に追いつけないからです。

ここで、日本の高齢化がどれくらい早いのかを、他国と比べてみたいと思います。高齢化率(65歳以上人口割合)が7%から21%に上昇するまでの年数で比較します。

日本の場合、高齢化率が7%を超えたのは1970年のことです。その後、21%に達したのは2007年。つまり、日本の高齢化率は37年かけて7%から21%に上昇しています。

次に、他国において高齢化率が7%から21%になるまでにかかった、もしくは人口動態統計上かかると見込まれる年数は次のとおりです。

・フランス:161年(1865年〜2026年)
・スウェーデン:136年(1890年〜2026年)
・ドイツ:82年(1932年〜2014年)
・韓国:28年(1999年〜2027年)
・中国:33年(2002年〜2035年)

このとおり、欧州諸国においては、高齢化はゆっくりと進んでいます。国民の意識改革や社会保障制度の改革にも時間をかけることができているようです。

例えば、ドイツでは2013年以降、社会保障制度改革が進められ、介護保険や年金制度の見直しなど、安定的かつ持続可能な社会保障制度に向けた運用が行われています。

一方、アジアに目を向けると、韓国や中国も日本に劣らないスピードで高齢化が進展していることがわかります。しかし、いずれの国も、高齢化率21%を迎えるのはまだ先。日本の高齢化率がすでに30%に迫ろうとしていることを踏まえると、やはり日本が世界で最初に、しかも急速に超高齢社会を迎えていることは間違いありません。

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(画像=『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』より)

経済成長が困難となる人口オーナス期

高齢化が経済成長にとってマイナスになる理由は、「成長会計」から説明することができます。成長会計とは、GDP成長率を、その内訳に注目して成長の要因を明らかにしようとするもので、次の3つの要素が経済成長に影響するといわれています。

(1)労働投入
(2)資本投入
(3)生産性

人口が減少する影響として、最初に思い浮かぶのが、「労働力の低下」ではないでしょうか。高度成長期の日本は人口増加によって労働力人口(15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの)が増加する「人口ボーナス期」にありました。

人口ボーナス期では多くの人々が働き、収入を得ているわけですから、年金などの社会保障費の負担は少なくて済みます。その分、国家予算を経済政策に重点的に充てることができるため、ますます経済成長が加速します。

一方、現在の日本は人口減少が続く「人口オーナス期」に突入しています。人口減少と高齢化が同時に進む日本では、「支えられる人」の数が「支える人」の数を上回るため、どうしても社会保障費は重くなってしまいます。これは、現状の日本の財政状態を見れば明らかでしょう。

次に、「資本投入」の側面から考えてみます。

人口が減少すれば、住宅へのニーズや、企業による資本設備への投資も比例して減ります。したがって、市場に投入される資本は減少し、やはり経済成長にはマイナスに働きます。貯蓄する若者は減り、高齢者は貯蓄を取り崩すため、日本社会で使える資金は減ることになるでしょう。

最後の要素が、「生産性」です。

昨今は、デジタル化や働き方改革などの整備が進められ、生産性の向上が図られていますが、実は生産性を高める1つの要素に「人口」があるといわれています。なぜなら生産性向上には、既存のやり方を打破するイノベーションが必要であり、新しいアイディアを持つ若い世代が増加し、経験豊かな世代と融合することによってイノベーションが促進されることが期待できるからです。

人口が少なくなれば、多様性が失われ、イノベーションにつながる種が少なくなってしまうかもしれません。これは、生産性の向上が停滞することにつながります。

このように、成長会計の3つの要素それぞれにおいて、鍵となっているのは「人口」なのです。経済成長のためには人口増加が望ましく、少子高齢化時代を迎えた日本が不利であることは否めません。

では、なぜ少子高齢化がこれだけの経済停滞を招くことが明らかであったにもかかわらず、これまで問題視されてこなかったのでしょうか。その理由は、高齢化が進行している一方で、「総人口」は増加し続けていたことがあったと考えられます。日本の総人口は、2010年までは、短期的には減少があったとしても、基本的に右肩上がりに増加を続けてきました。

ただ、人口増加が続いていた時代においても、やがて来る少子高齢化の未来は見えていたはずです。というのも、高齢化の兆候はずっと早い段階で表れていたからです。年少人口(0~14歳)のピークは、現在から60年以上も前の1955年です。そして1995年には生産年齢人口(15~64歳)のピークを迎えていました。

医療制度や福祉制度の進歩により長寿化が進み、それに伴う食糧生産の限界や教育コストの増加などの理由によって、生まれてくる子供の数は減少し、今のような少子高齢化が目に見えるようになったというわけです。

こうして考えると、もっと早い段階から人口減少を見越した対策ができていれば、という考えがよぎりますが、過去を悔やんでも仕方ありません。

今、日本が直面しているのは、世界的に見ても例を見ない超高齢社会です。こうした現実を認識した上で、過去のパターンにとらわれず、新しい発想で立ち向かっていく必要があるのです。

富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
髙島一夫(たかしま・かずお)
株式会社T&T FPコンサルティング代表取締役社長CFP。早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSA にて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役 として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
髙島宏修(たかしま・ひろのぶ)
株式会社T&T FPコンサルティング取締役CFP。1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBT グローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、 資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
立石守(たていし・まもる)
みらいウェルス株式会社代表取締役税理士。専門学校講師、税理士法人を経てみらいコンサルティンググループへ入社。事業承継・組織再編を中心に、法人ソリューション業務としてタックスプランニング・人事労務を含めたチームコンサルティング案件に多数関与。長年の経営支援の経験から、将来の資産形成・活用の重要性を痛感し、資産形成サービスを展開している。これまで以上に幅広いサポートを行うため、みらいウェルス株式会社を設立した。
今吉貴子(いまよし・たかこ)
みらいウェルス株式会社税理士。2002 年に税理士試験合格後、個人税理士事務所・大手テーマパーク運営会社にて会計・税務業務に従事し、その後、みらいコンサルティンググループに入社。中小企業から大企業まで幅広く法人税務に関与し、中堅企業を対象とした組織再編や、事業承継に纏わる資産税など多数の案件に関与している。

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