(本記事は、髙島一夫氏、髙島宏修氏、立石守氏、今吉貴子氏の著書『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

実は知られていないスイスのユニークさ

プライベートバンク
(画像=スイスのプライベートバンク「ジュリアス・ベア」Pixeljoy/Shutterstock.com)

プライベートバンクを「発明」したのはスイスです。

ここで、プライベートバンクが生まれたスイスという国の特色について少しだけお伝えしましょう。

国土の面積は、日本の九州本島よりもやや大きいくらいですが、この国からはグローバルなビジネスが少なからず生まれています。例えば、食品のネスレ、製薬のロシュ、ノバルティス、時計メーカーのロレックス、オメガ、スウォッチといった誰もが知っている企業はスイスで設立されたものです。

このような産業をスイスが生み出せたのは、外部からよいものを取り入れる柔軟さを持っているからと考えられます。スイス人は保守的な国民性で有名なのですが、実はスイス人の3分の1は外国にルーツがあるといわれており、4つも公用語があるのです。

ドイツ語、フランス語、イタリア語、昔のラテン語に近いロマンシュ語を話す人々がともに暮らすのがスイスという国であり、そうした多様性のある文化が、グローバルにビジネスを拡大する原動力となっているのかもしれません。

また、スイスでは権力の一極集中を嫌う姿勢も見て取れます。

国内には「カントン(Kanton)」と呼ばれる26の州があり、それぞれに独自の憲法や政府、議会が存在します。地方自治が当然のものとして受け入れられ、なかには独自のパスポートを発行しているカントンもあるほどです。

スイス政府は連邦制を敷いていて、「連邦大統領」と呼ばれる役職を、連邦参事が年齢順に持ち回りで1年間担当します。連邦大統領といっても、国家元首としての機能は持たず、外交などで国家の代表として儀礼的に振る舞う程度です。

国民投票が行われることも多く、直接民主主義的側面もあります。このため、政治家の暴走によって法制度が大きく変えられるなどのリスクが極めて低いと評価されています。

今は、日本や中国、アメリカなど、権力の一極集中により国内情勢が不安定になっている国は少なくありません。国が不安定であれば、資産運用のパフォーマンスにも少なからず影響がありますから、この意味からも、安定したスイスに資産を預けることには一定の合理性があるものと思います。

スイスではペイオフの不安なし

日本の銀行が倒産した場合、ペイオフによって1口座あたり1000万円までの預金元本とその利息は保護されます。逆に言えば、1000万円以上の預金に関しては、ほぼ戻ってこないと言ってよく、多額の金融資産を持つ資産家にとっては悩ましい問題です。

かといって、例えば3億円の資産を30口座に分けるような対策をすると、その管理が非常に煩雑になります。通帳などが散逸するリスクがありますし、銀行とのやりとりも膨大になるため、現実的ではありません。

まず、スイスの銀行は全て、日本の金融庁にあたる銀行当局の管理下にあります。スイス連邦銀行委員会から業務許可を得なくては、銀行業を営むことはできません。そして、ほぼ全ての銀行がスイス銀行協会に加盟していて、協会が定めた顧客情報の保護や、ガイドラインに沿った資産保全が義務付けられています。

株やファンド、債券などの顧客の金融商品は、完全に分離口座で管理されており、万が一口座を管理する銀行が倒産しても、預けている資産が戻ってこないというケースは99%ないのです。

また、預金にしても、プライベートバンクのポートフォリオでは、顧客の資産を「預金」として保有・運用するケースはわずかです。スイス・フランで保有することもほぼありません。

資産をプライベートバンクで一括管理しながら、しかもいざというときの保護も受けられる点は、大きな強みです。

プライベートバンクを選ぶなら

スイス国内には20〜30行のプライベートバンクが存在します。それらは、主に所在地により、ジュネーブ系、バーゼル系、チューリッヒ系、ルガーノ系の4地域に分類されます。

このうち傭兵たちの資産を守る銀行としてスタートしたのがチューリッヒ系やバーゼル系です。それぞれ、スイス北部のドイツ語圏のプライベートバンクです。こちらは東欧不安によって流れてきた資金も集まっています。

一方、スイス西部のフランス語圏のジュネーブなどは、17世紀のルイ14世の宗教迫害を受けたユグノーたちが逃れてきて、彼らの資産を管理するための銀行としてスタートしたのが起こりです。そして、南スイスのルガーノは、イタリアの資産が多く流れてきていることで知られています。

地域による分類の他に、規模による分類をすることもできます。

大規模といわれているものは、ピクテ、ロンバー・オーディエ・ダリエ・ヘンチ、ジュリアス・ベア、EFGといったところです。ただし、大手といっても、スタッフ全員で1000〜2000人程度ですから、日本のメガバンクなどと比べると、ずいぶん小規模といえます。

中小規模のものとしては、ミラボー、ホッティンガー、ラ・ロッシュといったところです。さらに小規模なプライベートバンクも存在し、スタッフ数百人規模で、代々続く老舗商店といった趣です。

これらのプライベートバンクの店舗を訪れると、そのコンパクトさに驚かれるかもしれません。こぢんまりとした一軒家でやっているプライベートバンクもあるくらいですから、日本のメガバンクのような建物をイメージしていると、ギャップを感じられるのは当然です。

スイスのプライベートバンクは、顧客の資産保全・運用に長けたスペシャリストの集まりです。そのノウハウによって顧客との信頼関係を築いていることから、顧客の財産を毀損するような広い建物や華美な装飾などにコストをかけようとしないのです。

では、複数あるプライベートバンクのなかで、どれを選べばいいのでしょうか。

スイス国内のプライベートバンク間では当然、競争があります。この競争は熾烈ですが、非常にフェアなものです。そのため、今は、手数料などはどこもほぼ同じになっていますし、サービスの内容にも、それほど大きな差はありません。

差が付くポイントがひとつあるとすると、「預かり資産の運用成績」ということになります。こちらも激しい競争が行われています。

スイスのプライベートバンクは自らの資産を運用しているわけではないので、収益源とするのは手数料(管理費)収入に限られます。だからこそ、必死に顧客の資産を運用し、高いパフォーマンスを維持できているのです。

大手は株式会社化が進み、従来のパートナーシップ制から変わってきている様子が見られるのですが、中小規模のプライベートバンクは、そんなことはありません。顧客をじっくりフォローする体制を維持しています。

ただし、中小規模のプライベートバンクは、規模が小さくスタッフも少ないため、日本語での対応ができないところも少なくありません。もし、現地の担当者と直接やりとりができる語学力がある、もしくは後ほど説明するエクスターナル・マネジャーと呼ばれる、現地とのやりとりを代行してくれる専門家に依頼するのであれば、中小規模のプライベートバンクを選択するメリットは多くありそうです。

富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
髙島一夫(たかしま・かずお)
株式会社T&T FPコンサルティング代表取締役社長CFP。早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSA にて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役 として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
髙島宏修(たかしま・ひろのぶ)
株式会社T&T FPコンサルティング取締役CFP。1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBT グローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、 資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
立石守(たていし・まもる)
みらいウェルス株式会社代表取締役税理士。専門学校講師、税理士法人を経てみらいコンサルティンググループへ入社。事業承継・組織再編を中心に、法人ソリューション業務としてタックスプランニング・人事労務を含めたチームコンサルティング案件に多数関与。長年の経営支援の経験から、将来の資産形成・活用の重要性を痛感し、資産形成サービスを展開している。これまで以上に幅広いサポートを行うため、みらいウェルス株式会社を設立した。
今吉貴子(いまよし・たかこ)
みらいウェルス株式会社税理士。2002 年に税理士試験合格後、個人税理士事務所・大手テーマパーク運営会社にて会計・税務業務に従事し、その後、みらいコンサルティンググループに入社。中小企業から大企業まで幅広く法人税務に関与し、中堅企業を対象とした組織再編や、事業承継に纏わる資産税など多数の案件に関与している。

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