(本記事は、髙島一夫氏、髙島宏修氏、立石守氏、今吉貴子氏の著書『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

プライベートバンクの口座開設の手順

富裕層,プライベートバンク
(画像=SFIO CRACHO/Shutterstock.com)

プライベートバンクのさまざまなサービスを活用するための第一歩は、口座を開設することです。しかし、プライベートバンクは、一見さんお断りとなっています。信用できる人の紹介がなければ、絶対に口座を開けません。そもそも必要な書類は英語で書かれているので、よほどの英語力がなければ日本人一人でやりとりをすることもできないでしょう。

そこで必要となるのがエクスターナル・マネジャーです。

資産運用と保全の両方を希望している顧客で、相応の規模の資産があり、その人物の信用性にも基本的な問題がないと判断できた場合、エクスターナル・マネジャーは、プライベートバンクの口座開設に必要な手続きを開始します。

プライベートバンクの口座開設手続きは、基本的に書面で行います。最近ではインターネットで口座開設手続きの大半を済ませられる金融機関も多くなっていますが、プライベートバンクはこうした利便性には積極的ではありません。

プライベートバンクから最初に送られてくる書類には、口座開設に際しての質問事項がいくつかあります。その内容は次のようなものです。

・資産規模(資産総額と預け入れを希望する金額)
・資産の内訳(現金、株式、不動産などの比率)
・職業
・家族構成
・過去の投資経験(株式、ファンドへの投資、海外金融機関での運用の有無など)
・運用目的(希望する運用パフォーマンス、資産継承時の希望など)
・リスク許容度(安全重視か、リターン重視か)

当然ながら、こうした情報は正しく伝えなくてはいけません。虚偽の情報を記入すると、口座が開設できなくなります。このようなことがあればエクスターナル・マネジャーの信用も落ちてしまいますから、エクスターナル・マネジャーはしっかりと審査を行うこととなります。

このため、エクスターナル・マネジャーを経由すると、それだけでもプライベートバンクからの信用を得やすくなり、口座開設もスムーズに運びます。直接プライベートバンクに申し込むのではなく、エクスターナル・マネジャーにまずコンタクトを取ることをオススメします。

エクスターナル・マネジャーは、希望者がプライベートバンクに口座を開設するのが適当なのかをヒアリングなどで審査するとともに、他により適した資産運用方法があれば、別の方法を提案することもあります。

誰でも口座を開けるわけではない

プライベートバンクに口座を開設する際、エクスターナル・マネジャーを経由した場合であっても、必ず信用調査が行われます。

例えば、現役の政治家や外交官は、ご本人がクリーンであれ、ダーティーであれ、口座開設はできません。国家機密に関わっている人のお金を、プライベートバンクが受け入れることのリスクを避けるためです。

また、金融スキャンダルなどの前科がある人も開設できません。こういった事件に関しては、プライベートバンク側も独自リストを持っていますから、仮に本人以外の家族などの名義を使ってごまかそうとしても、簡単にばれてしまいます。

なお、日本からスイスのプライベートバンクの口座を開くことは可能ですが、今後については注視する必要があるでしょう。

すでに、アメリカ国籍の顧客は海外のプライベートバンクに口座を開設できません。これは、アメリカ国内の法律で規制されているためです。法の抜け穴を突いて口座を開設しようとするアメリカ人もいますが、当然、プライベートバンクはそうしたリスクがある顧客と取り引きをしません。したがってスイスのプライベートバンクの場合、アメリカ国籍の顧客の口座開設を拒んでいます。

日本も、これに近い動きをしています。段階的に手を打ちながら、最終的にはプライベートバンクが日本人の資産を受け入れない方向にもっていきたいという意向を感じます。

なぜなら、国内の資産が海外に出てしまうよりも、日本国内にあったほうが課税しやすいからです。国外財産調書やCRSなどにより、以前より把握されやすくなったとはいえ、 「あらゆる抜け道を塞ごう」と日本政府が考えれば、プライベートバンクの利用にメスが入る可能性もゼロではありません。

こうしたアメリカなどの政府の動きは、「脱税防止」という美名のもと、国民の資産に大きな負担を負わせようとしているように思えてなりません。

プライベートバンクの口座開設に必要な書類

口座開設に際しての質問に回答すると、いよいよプライベートバンクから口座開設書類が届きます。この書類はすべて英文で書かれた非常に分厚い書類で、詳細な説明事項や注意事項が記されています。いわば、プライベートバンクとその顧客になる資産家との間で交わされる契約書といってよいでしょう。

これらの文書を理解するのは困難であり、ましてや英語がそれほど得意でない人にとっては非常に大変です。そんなときには、エクスターナル・マネジャーが、内容の説明を行いながら、記入のアドバイスをします。

ただし、これらの書類の翻訳文書などを作成することは、プライベートバンク側が一切認めていません。これは、訴訟時のリスクが絡むためです。

したがって、プライベートバンクとのやりとりに関しては、翻訳業者などに依頼するのではなく、マンツーマンで書類作成のケアができるエクスターナル・マネジャーに一任することが望ましいといえます。

近年はこれらの書面のやりとりのなかで、顧客のTax Identification Number(納税者識別番号。通称TIN)を聞かれるようになっています。日本人の場合は「マイナンバー」が該当します。これから口座を開こうとする人はもちろん、すでにプライベートバンクに口座を持っていた人も、マイナンバーを報告する必要があります。

「執行口座」と「一任勘定口座」の違い

日本の銀行に普通預金口座や積立口座などがあるように、プライベートバンクの口座にもいくつかの種類があります。

まず、口座の名義による種類としては、顧客個人のみの単独口座、複数で口座を共有する共同名義口座の2種類です。共同名義口座の場合は、名義の登録が3人まで認められます。

さらに、プライベートバンクで希望する運用方法によって、「執行口座」と「一任勘定口座」に分けることができます。

「執行口座」とは、自分で運用方法やその配分を決定するタイプの口座です。この口座では、口座の名義人である本人が、資産の運用方法を指示する必要があります。

例えば、「資産の3分の1をヘッジファンドで運用、残りを債券ファンドと現金預金に」といった指示をすると、プライベートバンクがそれに該当する金融商品のなかからパフォーマンスの優れたものを選択するという流れです。また、名義人本人が希望すれば、個別の金融商品を指定することも可能です。

一方、プライベートバンクに運用を全面的に任せる「一任勘定口座」を利用すると、プライベートバンクのノウハウを活かしながら、手間なく資産運用をすることができます。

名義人は希望するパフォーマンスを伝えるだけで、後はお任せでプライベートバンクが動いてくれます。もちろん、「パフォーマンスはゼロでもよいので、とにかく資産を保全すること」というリクエストでも問題ありません。しかし、プライベートバンクでは一般的に日本人へは執行口座でのアドバイザリー契約を勧めております。この理由については、おそらく日本に支店を持たないプライベートバンクが一任勘定口座で運用を行うことに対するリスクヘッジだろうと考えられます。

プライベートバンクは、顧客のリクエストを実現するために世界のあらゆる金融商品を駆使して資産を運用します。

アドバイザリーサービスを利用した執行口座での運用であっても、一任勘定口座であっても、よほどのことがない限り、年間で3〜8%くらいのパフォーマンスの実現が期待されます。運用成績は、まさにプライベートバンクの存在意義に関わることであり、顧客をつなぎとめておくためにも、プライベートバンクは運用成績を上げようと必死に努力します。

プライベートバンクに口座を開設し、運用することは、「本業に集中したいから、運用はお任せしたい」といったニーズにぴったりです。顧客がやることは、定期的に報告書をチェックし、必要に応じて追加の送金をするくらいですから、まさにプライベートバンクがパートナーとして活躍してくれます。

ただし、日本人がプライベートバンクの口座を運用する場合、プライベートバンクは投資の判断について、その都度、顧客の了承を得なくてはならないルールとなっています。これは日本の法律の規制によるものです。

本来、一任勘定口座のように完全にお任せで運用してもらえたほうが効率的なのですが、そのメリットが一部阻害されてしまいます。プライベートバンクの担当者も、「日本だけは面倒だ」と言っていましたが、日本は規制でガチガチに固められて、資産運用に制限が加えられることに問題を感じます。

プライベートバンク口座への送金

口座開設書類へ記入し、書類をプライベートバンクに送付すると、記入に不備がない限り、口座開設の手続きは完了です。次に、預け入れ資金をプライベートバンクに送金します。

以前は、海外への送金は日本国内では大手の都市銀行しか行っておらず、送金に際して高額な手数料がかかっていました。最近ではネット銀行など、新興の銀行が格安の手数料と柔軟な通貨選択を打ち出しているので、各行の海外送金を研究し、コスト節約に取り組むのもよいでしょう。

海外送金のコストを調べるときは、送金元の銀行に支払う手数料に加えて、受け取り銀行への中継を担当する銀行、さらに資金を受け取る銀行が、それぞれに手数料を徴収します。これらの手数料は、銀行によって大きく異なるため、慎重に選択する必要があります。

ここも、エクスターナル・マネジャーのアドバイスが非常に有効になる部分です。エクスターナル・マネジャーにとって、プライベートバンクへの送金は何度も関わっているものであり、さまざまな助言が得られるでしょう。

なお、海外送金に関しては、昨今のマネーロンダリング防止法などによって、かなりチェックが厳しくなっています。送金先の銀行はもちろん、資金の内容、受取人の詳細、何のための送金なのかなどを細かく質問されます。

さらに、税務署からも海外送金について後日チェックが来ることも考えられるため、事前に対応できるように情報を整理し、証拠となる書面なども適切に保管しておくようにしましょう。

また、プライベートバンクに預ける資金は、細かく出し入れしないことが前提の資金である必要があります。なぜなら、プライベートバンクには、使い勝手の悪い部分もあるからです。そもそも、プライベートバンクにキャッシュカードはありません。当然、ATMも存在しません。口座を開設して資金を送金したからといって、少額の現金を出し入れすることは好まれません。日本の銀行の普通預金とは違うということを理解しておいてください。

まとまった額の現金であっても、日本に戻してもらうには、運用内容によっては出金に時間のかかる場合があります。例えば、預け入れ資産の大半をファンドなどの金融商品で運用しているような場合、金融商品を売却して現金化する必要があり、すぐに出金できません。目安として、流動性の高い金融商品に投資していると1000万円の現金を指定口座に送金してもらう場合は、3〜4日かかると思っておくとよいでしょう。

普段の生活に必要な資金などは別の銀行に預けておき、プライベートバンクには不要不急の資金を預けて“お任せ”しておく。そういった意味で、プライベートバンクは「銀行」というよりも、運用して増やすこともできる、優れものの「金庫」と考えたほうがよいのではないかと思います。

富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
髙島一夫(たかしま・かずお)
株式会社T&T FPコンサルティング代表取締役社長CFP。早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSA にて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役 として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
髙島宏修(たかしま・ひろのぶ)
株式会社T&T FPコンサルティング取締役CFP。1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBT グローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、 資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
立石守(たていし・まもる)
みらいウェルス株式会社代表取締役税理士。専門学校講師、税理士法人を経てみらいコンサルティンググループへ入社。事業承継・組織再編を中心に、法人ソリューション業務としてタックスプランニング・人事労務を含めたチームコンサルティング案件に多数関与。長年の経営支援の経験から、将来の資産形成・活用の重要性を痛感し、資産形成サービスを展開している。これまで以上に幅広いサポートを行うため、みらいウェルス株式会社を設立した。
今吉貴子(いまよし・たかこ)
みらいウェルス株式会社税理士。2002 年に税理士試験合格後、個人税理士事務所・大手テーマパーク運営会社にて会計・税務業務に従事し、その後、みらいコンサルティンググループに入社。中小企業から大企業まで幅広く法人税務に関与し、中堅企業を対象とした組織再編や、事業承継に纏わる資産税など多数の案件に関与している。

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