ライバルに対する嫉妬はポジティブな力になる

上司は、部下から質問を受けることもよくある。中には、質問というより「不満の表明」になっていることもあるだろう。しかしそれも、きちんと対応すれば部下の成長のチャンスになる。

「例えば、『Aさんが担当しているこのプロジェクト、意味がわかりません!』と不満げに言われた場合。まずは当然、意味を説明します。すでに一度話したことでも、もう一度丁寧に。しかしおそらく、不満は消えません。それは、本音がもっと奥にあるから。必要なのは、奥にある感情の解除なのです」

そこで次は、不満の理由=「どこが気になるのか」を質問する。言葉と表情に気をつけていると、徐々に本音が見えてくる。

「例えば『嫉妬』。自分ではなく、なぜAさんが任されたのか、ということですね。それに気づいたとき、『Aさんに嫉妬してるんだね?』と露骨に言うのは危険。『なぜAさんなのかがわからないんだね?』など、相手の言葉をなぞる程度に留めるのが無難です。

それだけでも、部下は気持ちが届いたことを感じるでしょう。そのうえで、Aさんに頼んだ理由を話す、Aさんと本人の仲を取り持つ、本人が成長しそうな別の業務を与えるなど、状況に応じた方策を取ります」

いずれにしても大事なのは、部下の嫉妬を「良い方向」に持っていくことだと語る。

「嫉妬は人間が持つごく自然な感情であり、パワーの源にもなります。悪口を言ったりふてくされたりするのはダメな嫉妬ですが、『あの人に追いつきたい』と思って頑張るのは、とてもポジティブなエネルギー。部下をそんな気持ちにさせる働きかけを工夫しましょう」

リーダーの仕事は相手を「ガッカリさせること」!?

嫉妬や悪口は、「自信のなさ」から生まれる、とピョートル氏は指摘する。自分の弱点を直視できず、人へのひがみにすり替えているのだ。

「そんなときこそ、上司はこまめに承認を送り、本人が自信を持てるようサポートしましょう。並行して、本人が自分の弱点に向き合えるよう促すこと。自信がつけば弱点と向き合えて、改善できればさらに自信がつき、自立性と主体性が高まります。

ただし、弱点の指摘は承認よりも難易度高め。アプローチを間違うと、良くない方向にいってしまいます」

そこで知っておくべきは、「話題の危険性」。課題を指摘しても大丈夫な話題、取り扱い注意な話題があります。

「一番無難なのは環境です。『家が遠いようだけど、通勤は大変?』で相手が怒り出すことはまずありません。しかし、スキルや態度について指摘されれば、相手は心中穏やかではないはず。価値観となるとさらに傷つきます。

そして、最も危険なのがアイデンティティ。性別や人種など、その人自身の変わらない部分についてネガティブなことを言うのは厳禁です。極端に言えば『あなたは女性だからダメ』などと言うと、相手の尊厳はひどく傷つきます」

行動やスキルや態度に関しては、伝え方に配慮しつつ指摘することが必要。相手の納得度と感情に合わせた伝え方のコツがいる。

「『その状態に納得しているか否か』を縦軸に、『感情がポジティブかネガティブか』を横軸にしたマトリクスで考えます。納得していてポジティブなら、ストレートに言ってOK。

例えば『エクセルの使い方が下手』と認識していて『もっと上手になるぞ』と前向きなら、シンプルに『練習頑張って!』で大丈夫です。

認識できていても、『私はダメだ』とネガティブになっている相手には、丁寧にかつ短く。『君ならすぐ上手になるよ』と元気づけるのもいいですし、『このマニュアルいいよ。あげようか?』と行動のきっかけを作るのも良い方法です。

下手だと認めておらず、かつ『これでいい』と思っている相手には『その残業、実のところエクセル残業じゃないのかい?』など、愛嬌のある指摘を。認めてもおらず、かつ後ろ向きなら、『事務処理が速いと月に○時間短縮できるらしいね』など、世間話に織り交ぜた遠回しな言い方で気づきを促しましょう」

いずれの場合も心得ておくべきは、「指摘から逃げないこと」だとピョートル氏。

「『Leadership is the art of disappointing people at a rate they can absorb.』(リーダーシップとは、人が受け容れられる程度のガッカリ感を与えることである)――この格言のように、相手を少々ガッカリさせても、本人のためなら指摘するのが親心……ならぬ、上司心です」