本記事は、佐々木啓治氏の著書『年商30億円の限界突破』(セルバ出版) の中から一部を抜粋・編集しています

突破
(画像=PIXTA)

ビジョンを浸透させる

ビジョンとは

次にビジョンの浸透です。ビジョンは会社によって定義と表現に様々な違いがありますが、当社では「自社の中期的な将来イメージを具体的に示したもの」と定義しています。

理念が「会社の存在意義」つまり「なぜ存在するのか?」の問いだとすれば、ビジョンは「目標」つまり「何を目指すのか?」の問いです。

会社は突き詰めると利益追求の集団です。利益がなければ、存続することができません。会社の存在意義を保つための利益、そして利益以外の部分においても「どこに向かって走っていくのか」を明確にすることが必要です。

ビジョンが浸透されると、会社としてのあるべき未来像がハッキリするので、社員のベクトルが揃います。社員全員が同じ方向を向いて突き進む組織ほど強いものはありません。社内に共通した意識と結束力を生むために、ビジョンの浸透は必要不可欠だと言えるでしょう。

そのビジョンは大きく次の3つで表現します。

①経営数値
②戦略
③組織体制

ビジョンというと、「数値目標だけではないんですか?」とよく聞かれます。もちろん数値目標は必須です。しかし当社では数値目標だけではなく、戦略と組織体制もビジョンに含むという考え方をしています。

なぜかと言うと、「ビジョンは何を目指すか」というゴールであるため、その「どのように目指すか」「どのような体制で目指すか」も含めて1つにしたほうが、社員への浸透度が深くなり、具体的なアクションに繋がるからです。

この3つの要素で会社が「何を目指すのか。どのように目指すのか。どのような体制で目指すのか」を明確にし、全社員に浸透させていきます。

このようなビジョンは「中期経営計画」とも言えます。

「中期経営計画はいつもつくっている」
「毎年、中期経営計画を発表している」

経営者がこう言われるのをよくお見かけしますが、その中期経営計画が全社員に浸透しているかというと、そうでない場合のほうが多い気がします。

年商30億円未満の会社の経営者は、ほとんどがエースで4番であるため、「中期経営計画を自分ですべて考え、期初に全社に発表する」という全社共有の仕方をされることがほとんどです。こういった形態でビジョン、中期経営計画を浸透させようとしてもなかなか難しいです。

「いつも言っているから社員はわかっているだろう」

これを口癖のように言っている経営者の会社ほど、ビジョンを全社員が理解、浸透していないケースが非常に多いのです。

何事も浸透させるには、まず理解をしてもらわなければいけませんが、その時点で躓いている会社も珍しくありません。人が物事を深く理解し、習得するためにはその手法とプロセスが非常に大切です。

アメリカ国立訓練研究所が発表した研究結果で、「ラーニングピラミッド」というものがあります。どのような学習方法がしっかり頭に残るかを分類してピラミッド型の図表6にまとめたもので、7つの学習方法を学習の定着率順に並べているものです。

年商30億円の限界突破
(画像=年商30億円の限界突破)

図表6からもわかるように、人は講義、つまり人の話を聞いただけでは5%しか頭の中に定着しません。それ以外にも「読書」や「視聴覚」、「実演説明」などのいわゆるインプットのみでは最大でも 30%しか定着しないのです。

それとは別に「議論」や「体感」、「教える」などのアウトプットを取り入れることで、定着率が飛躍的に向上します。

ビジョンの浸透も同じです。期初に経営者が自ら考えたビジョンを全社員に一方的に「講義」しても社員の頭の中にはほとんど定着していないのです。当然そのビジョンは浸透しているとは言えないでしょう。ビジョンを浸透させるためには社員にもアウトプットしてもらう必要があります。

当社で顧客のビジョン浸透をサポートする場合、必ずアウトプット型のワークショップを行います。企業規模にもよりますが、なるべく多くの社員に参加してもらい、経営者とともにビジョンを考えながら構築する過程を経て浸透させていきます。

ビジョンは先述したとおり、

①経営数値
②戦略
③組織体制

この3つの要素で表現していきます。以降で具体的にどのような形でビジョンを構築し、浸透させていくかをお伝えしていきます。

経営数値の浸透

経営数値はビジョンという表現の中では最もわかりやすいものでしょう。「〇年後に年商〇億円」という表現が一般的です。このような売上だけのビジョンを明確にするだけでもよいのですが、本当の意味で全社員に経営数値のビジョンを浸透させていくためには、売上以外の数値も理解し、共有していく必要があります。

売上以外の数値とは、経営者が日々当たり前に意識している「原価」や「粗利益率」、「販売管理費」から「営業利益」などです。これらの数値を普段意識していない社員に共有し、考えてもらうことで浸透度の深さも変わってきます。また、そういう数値を理解することで、社員の日常の仕事に対する意識や取組み方にも変化を与えることができます。

オープンブック・マネジメント

オープンブック・マネジメントとは、企業の財務諸表や業績管理指標を全従業員に公開し、そのデータの読み方を教育することにより、全員参加型の経営を行っていくマネジメント手法です。

売上だけではなく、経費にはどのような種類があり、いくらかかるもので、結果的に利益はどのように出していくのか、という部分を社員にもしっかりと理解してもらうことで、経営に対する透明性が高くなり、会社や仕事に対するモチベーションにも変化が起こります。

こういった手法で売上以外の数値も理解してもらった上で、数年先の経営数値のビジョンを社員がディスカッションすると、ビジョンの浸透が加速していきます。

3章でも触れていきますが、この経営数値を社員が考えていく観点の1つに「賞与」があります。例えば「営業利益の〇%を賞与原資として確保し、全社員へ賞与分配ルールに則って分配する」というメッセージがあれば、いかに多く全社として利益を出して、より多く賞与をもらうか、という社員のモチベーションの1つになります。

このような手法で経営数値のビジョン構築を行った当社の顧客では、「経費意識が劇的に変わった」と言う声がよく挙がります。普段何気なく使っている経費もすべて利益を圧迫し、「賞与原資が減る」という意識をもつのでしょう。

また「残業時間が明らかに減った」という声もよく聞きます。残業代も経費であるため、残業が増えれば増えるほど賞与原資が減り、全社員の取り分が少なくなる、ということです。これにより「残業しないためにどのように効率的に業務を行うか」といった前向きなディスカッションが常に社内 で行われるようになります。

これは前章の年商30億円を超えられない会社の特徴の1つでもお伝えした「経営目線」です。経営数値を理解し、その数値に携わるプロセスと日常業務が結びつくことによって、社員1人ひとりの経営目線が養われていきます。

必ずオープンブックではない

リスク,RISK
(画像=PIXTA)

ただ、このオープンブック・マネジメントは企業状況によって実施したほうが効果の高い会社と、実施して逆効果になる会社があります。逆効果になる場合の会社や、オープンブックすることで何らかのリスクが想定されそうであれば、無理には実施しないほうがいいでしょう。

しかし情報開示は制限しながらも、財務諸表を中心とした「会社の数値」というものを全社員にも理解してもらい、それを基に経営数値のビジョンを社員と一緒に考えていくことが全社に浸透させる近道になります。

「売上」や「原価」、「粗利益」という数字を意識している社員は多いと思いますが、「販売管理費」や「営業利益」までを意識している社員は少ないです。販売管理費の主要項目をしっかりとレクチャーするだけでも社員の意識が変わることが多くあります。

また「なぜ利益が多くても賞与の額を制限しているか」「なぜ黒字(場合によっては赤字)にしているか」など社員目線ではただの不満や疑問でしかないことも、会社目線での経営数値戦略の考え方を落とし込むことで、数値への捉え方や意識が全く変わってきます。

思いっきりジャンプしたら、何とか届きそうだと思う目標

経営数値のビジョンは、社員にとって一番リアルに感じられる目標です。その際にやってはいけないことが、「絶対無理だと最初から諦めてしまうほど高い目標」や「今と同じことを毎日やっていれば余裕で達成できる目標」を設定してしまうことです。

よく「目標は高く」と言われますが、高すぎる目標は社員のモチベーションを下げてしまうだけになります。「絶対無理」と思いながら、日々仕事をしても成果は絶対に出ません。5階建てビルを見上げて「5階に目的のものがあるから頑張ってジャンプして取ってみなさい」と言われているようなものです。

逆に低すぎる目標でもダメです。「今と同じことをやっていれば余裕だな」と思った瞬間に、多くの人は無理に頑張ることをしなくなります。頑張ることをしなくなるというのは、働く時間や質もそうですが、「思考」をしなくなるということです。日常の仕事をより成果を出すため、そしてより生産性を上げるための創意工夫など、人は思考をして初めて成長していきます。

5階建てのビルでも、目の前に目的のものがあれば何も考えず、動くことなく簡単に手に入れるでしょう。思考停止は組織成長する上で天敵とも言えます。

だとすれば、目標は「思いっきりジャンプしたら、何とか届きそうだと思う目標」に設定するのがベストです。5階建てのビルでも1階の天井に目的のものがある状態です。「ちょっと厳しそうだけど、思いっきりジャンプすれば、手に入れることができそうかな」と社員が思えるレベルだと、何とかしようと思考を巡らせ、意図的に成長できるような構造をつくることができます。

「前年対比」で白ける社員

経営数値は「会社の道」「会社の意思」そのものなので、これまでお伝えしたような社員と共に考えながらつくるというプロセスもあれば、「ここだけは自分で決めたい」という社長もいるでしょう。社長が1人で決めるというプロセスも1つの手法だと思うのでいいのですが、その際に絶対おすすめしないのは「前年対比で〇%アップ」という数値設定の仕方です。

神奈川県にある物流会社N社は年商17億円の規模で、ここ4年売上が停滞していました。そのN社ではオーナーである社長が毎年中期経営計画を作成し、期初に全社で発表するという形をとっていました。そんなN社の社長が当社に相談にいらっしゃったとき、開口一番こう言ったのです。

「毎年期初に中期経営計画を発表するんですが、ほとんどの社員が興味なさそうに聞いているんです」。

聞くところによると、N社では「会議の場で発言するのは社長のみで、会議ではなくもはや社長の独演会になっている」「全社の至る所で細かい指示をして、自分の思うように社員を動かしたい」という状況が日々起きている典型的な「エースで4番社長」の会社でした。

とはいえ、強引に引っ張るというわけでもなく、どちらかと言うと堅実成長志向で「いい親方」のような社長です。実際に社員インタビューで社長の評判を聞いても、「父親のように社員に接してくれている」「面倒見がよい」と慕われている様子でした。

ではなぜ中期計画の発表の際、社員の方々が白けているか、その部分を聞いてみると社員の方々からはこのようなコメントが出てきました。

「社長はいつも「今期の目標は前年対比110%」と言います。毎年です。数値が105%や115%のときもありますが、いつも前年対比で目標を言ってきます。正直、何も考えていないのではないかと思います」。また、別の社員からは、「前年対比という言葉を聞くたびに自分たちがバカにされているような気がします。前年ベースから少しでも成長しろよ、と言われているみたいで」との声もありました。

N社の社長には決してこういった悪気はありませんでした。堅実成長を目指している社長としては、社員にもそのメッセージがわかりやすく伝わるように「前年対比」で目標を表現していたのです。しかし、社員からすると「基準値から算数で決めたような想いのこもっていない数字」と見られ、「社長は何も考えていないんじゃないか」と思われたのです。

また、「バカにされている」と感じるのもそうでしょう。これは堅実成長のメッセージが「社員の力を信頼していない」という逆メッセージになっていたのです。前年対比110%でも成長度としては素晴らしいと思いますが、社員からすると「それぐらいしかこの社員達では達成できないと社長は思っている」と捉えていました。

実際に「どうせ前年対比にするなら『150%アップを目指す』とか言ってほしいです」という社員もいるぐらい、社長が思っている以上に堅実ではない成長を望んでいる社員もいました。

こういったN社のような齟齬を生じる可能性もあるため、基本的に前年対比での目標設定はおすすめしていません。

経営数値のビジョンは、これだけ社員がリアルに感じる目標です。ここで社員とどれだけ同じ方を向くことができるかは非常に大事だと言えます。

年商30億円の限界突破
佐々木啓治
WITH株式会社 代表取締役。1984年生まれ 山形県出身。企業の年商30億超えを専門にサポートする日本で唯一のコンサルタント。大学卒業後、人事コンサルティングファームに入社。3年で50社のコンサルティングに携わり、2010年に独立。
企業の「年商30億円の壁超え」に特化した独自ノウハウで、これまでサポートに携わった83%の顧客を年商30億円の壁超えに導く。顧客から「ここ数年、売上が15億で停滞していたが、年商30億を超えることができた」「社長である自分が現場から卒業しても、売上を上げ続けられる会社になることができた」など、高い評価を得る。現在も「すべての顧客に成果を出す」をミッションに日々奮闘中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。

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