本記事は、佐々木啓治氏の著書『年商30億円の限界突破』(セルバ出版) の中から一部を抜粋・編集しています
新しく売上を上げるための戦略
クロスSWOT分析では、シンプルに「新しく売上を上げるための戦略」を考えていきます。クロスSWOT分析は「新商品・新顧客」にフォーカスし、「新しい売上をどのようにつくっていくか」を中心に思考するフレームワークです。
このクロスSWOTから新規事業を成功させた事例で有名なのが富士フィルムです。ご存知のとおり、富士フィルムは写真事業がメインの会社ですが、このクロスSWOTから化粧品事業への進出を決定し成功させました。
今では化粧品で当たり前に出てくる名前「コラーゲン」。このコラーゲンは写真フィルムの主成分としても扱われていました。写真フィルムの最大手と言っていい富士フィルムは、このコラーゲンを長年研究し続けているためノウハウと成果が「強み」としてありました。
そこにやってくると思われた「機会」が中国を中心とした東アジアの経済発展です。経済発展すると、生活必需品から嗜好品への需要へシフトしていくため、ビューティー市場は確実に大きくなると予想しました。プラス日本の高齢化。年齢に伴うスキンケア市場の拡大もまさに「機会」の1つでした。
この組み合わせで積極化戦略の化粧品事業(富士フィルムではライフサイエンス事業)が立ち上がって見事に成功したのです。
「強み」だけ、または「機会」だけでは新しいものはなかなか生まれません。クロスで考え抜くことで精度の高い「新しい飯のタネ」が見つかります。
中小企業こそ機会を逃してはいけない
今の事例は大手企業でしたが、中小企業は大手企業よりも新しいことへ舵を切る意思決定スピードが早いので、私としてはむしろ中小企業こそ機会を逃さずに新マーケットを狙うことに有利なのではないかと思います。
詳細は言えませんが、先述した神奈川の物流会社N社も、近年話題になっているネット通販の増加による宅配会社の配送料の値上げという「機会」を逃さずに、自社の強みとの掛け合わせを活かした形で新顧客を獲得し、大きな売上アップへと繋げました。
「SWOT分析はすでにやっている」という中小企業もかなり増えてきましたが、分析をした結果、具体的な戦略を生み出している中小企業はあまり見かけません。
もしそういった会社であれば、もう一度クロスSWOT分析を行い、自社を取り巻く環境の中から精度の高い戦略や方向性を導き、社員と共有していくことをおすすめします。
フレームワーク③バリューチェーン分析
ご紹介する3つ目のフレームワークはバリューチェーン分析です。バリューチェーンは「事業を主活動と支援活動に分類し、どの工程で付加価値(バリュー)を出しているか」を分析するためのフレームワークです。
事業の「主活動」とは、製造や営業など「製品・サービスが顧客に到達するまでの流れ及び直接関係する活動」のことで、事業の支援活動とは、技術開発や人事などの「主活動を支える活動」のことです。
このバリューチェーン分析により、1つの事業を様々な活動に細分化し、そこから事業における競合優位となる価値を把握することで、事業戦略を考える際に役立ちます。
当社では、バリューチェーンは次のような流れで分析を進めていきます。
- 分析の進め方 ①自社のバリューチェーンの把握
- まずは自社のバリューチェーンを整理していきましょう。参考例として図表11を掲載していますが、基本的には業界によってバリューチェーンは異なってきます。
- 分析の進め方 ②それぞれの活動における強みと課題を抽出
- 自社のバリューチェーンが整理できたら、次はそれぞれの活動における強みと課題点を抽出していきましょう。例えば、販売における課題点に「営業力が不足している」「販売における仕組みがない」や、人事における強みに「毎年新卒採用で優れた人材が採用できている」など、各活動における強みや課題点を洗い出していきましょう。
- 分析の進め方 ③強みと課題を具体化
- 各活動における強みと課題を明確にした後は、それぞれを具体化していきましょう。強みにおいては、「その強みを日々の事業活動の中でどのようにアウトプットして利益に繋げるか」。そして課題点においては、「その課題をどのように改善していくか」という観点で具体化していきます。
内部体制の戦略
バリューチェーンとは「価値連鎖」です。それぞれの活動が強化されていくことで、価値が連鎖されていき、市場に対して優位性をもつことができます。
例えば、バリューチェーンの流れの中で、「販売」においては物凄く優位性があったとしても、販売後の「サービス提供」のレベルが低ければ、その企業の「価値」は下がります。それは顧客満足度やリピート率の低さにも直結するでしょう。
バリューチェーンのスタートからゴールまでの中でどの部分にボトルネックがあるかを明確にし、そのボトルネックを克服してレベルを上げていくことで価値が「連鎖」し、顧客に対する企業の提供価値が上がっていきます。
また、当社がサポートする顧客でよく起こることは、部門間を通じてバリューチェーン分析のワークセッションを行っていくと、主活動の部門と支援活動の部門の間でよい意味での熱い議論がなされていきます。
一般的に営業部とサービス部は仲が悪い会社が非常に多いですが、こういったワークセッションで社員同士がシェアしていくことで、それぞれの立場で自部門と他部門を俯瞰してみることができるため、感情論ではなく論理的に「会社として事業をスムーズにし、利益をより多く生むために」という視点で生産性の高い議論をすることができ、自然と戦略を浸透することができます。
以上のようなフレームワークを活用することで、「考える物差し」ができ、社長と社員の思考レベルの差を埋めることができます。
すべてのフレームワークでお伝えしているように、分析をするだけでは全く役に立ちません。目的は社長も社員も「これならいけそうだ」と思えるような戦略を明確にし、そして全社で浸透することです。
また、戦略を考える過程の中で、社員の思考レベルが上がるため、フレームワークを活用して考えること自体が社員成長にも繋がります。その成長はおのずと行動にも表れ、そして成果となって返ってくるでしょう。
組織体制の浸透
ビジョン浸透の最後は組織体制を明確にしていくことです。経営数値で将来の会社規模を明確にし、それを目指すための戦略が浸透されたら、最後にその戦略を実行する組織体制を考える必要があります。
組織体制を考察する観点は2つで、1つは「数値目標を達成するときに、どのような部門構成になっているか」。もう1つは「各部門における人数構成はどうあるべきか」です。
1つ目の「ビジョン達成時にどのような部門構成になっているか」について説明します。
例えば、現在年商10億円の会社が5年後に年商30億円を目指す場合、同一事業のみで目指す方針であれば、改めて部門を考察する必要はないかもしれません。しかし、新規事業を立ち上げて売上を伸ばす戦略をとる場合は、新たな部門設置が必要となります。
また、年商10億円の会社が年商30億円の会社になるということは、社員数も3倍程度になることが予想されるため、「新たに3年後のタイミングで人事部を設置する必要がある」という考えも当然出てくるでしょう。こういった観点でまずはビジョン達成に向けた部門のあり方を考えていきます。
そして同時に2つ目の「各部門における人数構成はどうあるべきか」も考えていかなければいけません。ビジョン達成のためにそれぞれの部門で何名必要なのか、その中でどのような指揮命令系統にしていくかを「見える化」していきましょう。人数構成においては統制範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)から、1人の管理者に対して5人の部下、多くても7人の部下をつけるなど、管理効率の観点も含めて考えましょう。
社員のキャリアパス
将来の組織体制を考えていくことで、経営数値目標と戦略の遂行がよりリアルにイメージされ、かつ社員においては「キャリアパス」が明確になります。現在の組織から将来の組織イメージが具現化されれば「〇年後、自分はこの位置にいたい!」という目的がハッキリします。
当社でお手伝いする顧客に社員インタビューをする際、かなり大きな割合を占める社員の意見に「会社がどこを目指しているかわからない」「自分が将来どうなれるのかが不透明で不安」というものがあります。
こういった意見の出てくる会社の多くは、それまで数値計画は毎年発表してきているのですが、具体的な戦略と「社員の姿」を明確にしていませんでした。
ビジョンを達成するための戦略を遂行するのは社員です。その社員が高いモチベーションで戦略を遂行するために、ビジョン達成時の組織体制の浸透は欠かせません。
組織体制に経営目線を
組織体制を経営者、社員が共有していく中で、もう1つポイントがあります。それは「利益を鑑みて組織体制の考察をしてもらう」ということです。なぜかというと、社員が自身それぞれの視点と知識のみで将来の組織体制を考えると、多くの場合「人材過多」の組織体制を描きます。社員からすると自身の業務量、業務負担の視点がメインになる場合が多く、「1人でも多くの社員が欲しい」となりがちです。
当然それでは利益が必要以上に少なくなってしまう可能性が高いため、「労働分配率の観点や、人件費の内訳がどのような構造になっているか」という社員が知識として持っていない部分を補った上で「利益」を意識した組織体制を考えてもらいます。
数値目標で売上だけではなく、営業利益まで共有している場合は、その目標の営業利益がしっかりと確保できるような「総額人件費」で考えるようにファシリテーションしていきます。そうすることで「非現実的」な組織体制の考察を防ぐことができ、また社員にも人件費の知識と視点が生まれます。
当社の顧客でもそこまで実施する顧客と実施しない顧客がありますが、このようなビジョンを浸透させていくプロセスの中にも「社員の思考レベル」を上げるという要素を含むと、全社員のレベルが上がり、組織がさらに強くなります。