「投資信託は銀行で買うと損をする」という説があるが、本当だろうか。これは2018年に金融庁が発表した調査結果である。銀行と証券会社では投資信託を売買するときに、いくつか違いがある。その違いを2020年の最新調査のデータとあわせて解説する。
1.投資信託を銀行で買う人はどのくらいいるか
2020年はコロナ禍で金融市場は不安定な状態になった。しかし、投資信託協会が2020年9月に発表したデータによると、一般の投資家が購入できる公募投資信託の純資産総額合計は126 兆 5,051 億円、銘柄数は5,903 本で過去最高を更新している。NISA制度やiDeCo(個人型確定拠出年金)の後押しもあって投資信託の利用者は増加傾向にある。
業態別での購入の割合はどうなっているのだろうか。投資信託の預り残高の比率は証券会社75.47%・銀行等登録金融機関23.76%・投資信託会社直販0.77%である。投資信託を買う人は圧倒的に証券会社を利用しているケースが多い。
2.投資信託を銀行で買う3つのメリット
投資信託はインターネットでも気軽に買える時代になった。ネット証券は昔に比べてかなり身近な存在になりつつある。銀行で投資信託を買うメリットとは何だろうか。
メリット1……窓口や電話での売買が可能
店舗を持つ銀行の強みは窓口で投資信託の相談や売買が可能なことである。投資信託の種類や税金についてなど、その場で自分の疑問にすぐ答えてもらえるのは、とりわけ初心者には大きなメリットだろう。また、主要大手銀行であればインターネットバンキングで投資信託を取引することも可能だ。
ネット証券でもFAQや特集記事など情報発信が充実しているが、膨大な情報から自分に必要な情報を探し出すのにはそれなりのスキルとエネルギーがいる。
メリット2……投資信託以外の相談もできる
銀行はマネー全般の相談を受け付けている。投資信託以外の資産運用、家計管理、住宅ローン、相続など幅広い疑問や悩みを話せるのは魅力である。顧客の資金状況を把握している銀行員が相談にあたるので、身の丈に合った提案をしてもらえる。お金に関する相談をワンストップで行える点は銀行のメリットと言える。
メリット3……口座開設や売買の手続きが楽
投資信託の売買には専用の口座が必要である。銀行窓口であれば、手続きは担当者に任せられる。売買の手続きも、手持ちの資金で買える口数やその時の価格(基準価額)を考慮して相談しながら注文も可能だ。もともと預金口座を持っている銀行であれば資金移動もやりやすい。
3.投資信託を銀行で買う3つのデメリット
一方で投資信託を銀行で買うことのデメリットは何だろうか。
デメリット1……品揃えが少ない
銀行はネット証券に比べて投資信託の取扱数が少ない。大手銀行の投資信託取扱数が三菱UFJ銀行475本、みずほ銀行252本、ゆうちょ銀行128本であるのに対し、ネット証券ではSBI証券が2,637本、楽天証券では2,682本だ(2020年11月12日時点)。
銀行よりもネット証券のほうが選択肢の幅が広い。また、銀行では上場株式は買えない。投資信託以外にも株式や債券などの運用を考えている人は注意しよう。
デメリット2……商品知識や信頼度が担当者により差がある
銀行窓口で投資信託を検討する場合、取扱全体から自分に合うものを選ぶというよりは、担当者が勧めてきた商品のなかから選ぶ流れになることが多い。その場合、担当者がいかに信頼できるかが重要になってくる。投資信託に関する知識は、人によって差がある場合がある。
また、以前ゆうちょ銀行が利益優先で顧客に不利な商品を売るなど、不祥事が起きたケースもある。担当の銀行員が相当に努力して商品知識を高め、顧客の立場に立って相談にあたってくれているか、見極める力が必要になる。
デメリット3……意外と高リスク商品が多い
銀行と聞くと安全な金融商品ばかりを扱っているイメージがあるが、そうとは限らない。低リスク低リターン商品から、高リスク高リターン商品まで幅広く扱っている。商品の性質を理解した上で自身のリスク許容範囲内の選択ができれば問題ない。判断を銀行に丸投げしている場合は、意図せずハイリスク商品に手を出してしまう可能性もあることを覚えておきたい。
4.投資信託を買うなら銀行とネット証券どっちが良いのか
投資信託を買うなら、銀行とネット証券どちらが良いのだろうか。
投資信託の運用損益を銀行とネット証券で比較
かつて「銀行で投資信託を買うと損をするのでネット証券にすべき」という説が強く唱えられた。根拠は2018年に金融庁とネット証券4社が発表した調査データによるものだ。データによると銀行(主要銀行4行と地方銀行20行)で投資信託を購入した人のうち46%が損をしているという。
一方のネット系証券会社(SBI証券、楽天証券、マネックス証券、カブドットコム証券)では36%のみ、つまり64%の人に運用益が出ているという結果だった。少なくとも2018年の資料では確かに銀行で買ったほうが損という印象を受ける。
2020年2月には同様の調査の最新版が発表された。それによると、投資信託の運用損益率0%以上顧客比率(単純平均)だと、主要銀行は保有顧客の66%、ネット系証券会社は69%が利益を上げているという結果だ。
一見均衡しているが、単純平均による計算である。各社の保有顧客数を加味した加重平均にすると主要銀行が63%、ネット系証券会社が75%であった。利益を出している割合は2年前より増えているものの、やはりネット系証券会社のほうが投資信託保有者の運用成績が良い。
投資信託の手数料を銀行とネット証券で比較
「銀行は投資信託の手数料が高い」という説もあるようだがどうだろうか。結論から言えば全体としては正しい。銀行の投資信託の手数料(信託報酬)は年2%ほどが主流だがネット証券では1%を切ることも少なくない。それでいてリターンは同じか、ややネット証券が高いくらいである。
しかしネット証券は自身で投資の勉強や手続きをする必要があるのでコストを単純比較することは難しい。ネット証券は投資リテラシーの高い人が良く利用するためにリターンが良くなるとの見方もできるが、いずれにしても銀行は投資信託の手数料が高めに設定されているのは事実のようだ。
5.投資信託を銀行で買うのに向いているのはどんな人か
もちろん無条件に銀行で投資信託を買うのが悪く、ネット証券が良いという結論には至らない。運用損益率や手数料もあくまでも平均であり、すべてのケースに当てはまるわけではないからだ。
普段から銀行をよく利用する投資初心者
通い慣れた銀行があり、対面で相談しながら投資信託を運用したいと考えているなら、銀行を利用するのも良いだろう。手続きや銘柄比較が苦手で貴重な時間を浪費するくらいなら、多少手数料がかかっても結局は効率的という考え方もできる。ただし担当者に判断を丸投げするのは避けたい。必要な情報をピンポイントに得るためという姿勢でのぞむのが大切である。
まずは銘柄分析や目論見書の見方を教えてもらい、慣れてきたら自分でインターネットバンキングやネット証券で取引してみるというのもひとつの手である。ゆくゆく選択肢を広げるために、銀行を活用してみるのも良いだろう。
銀行で投資信託を買うなら「つみたてNISA(積立NISA)」を利用する手も
気を付けたいのが、銀行にとって利益が高く顧客にとって不利な商品をすすめられることである。それに対してはつみたてNISAの活用が有効だ。一定期間非課税で積立投信に投資できる制度であり、対象となる商品が金融庁の基準をクリアした商品に限られている。
低コストなインデックス投資信託が中心で、いわゆるハズレを引く危険性が少ない。自動的に長期・分散・積立投資が行えるので、投機ではなく資産形成を考える初心者ならぜひ活用したい。つみたてNISAも仕組みが複雑な制度だが、対面で丁寧に説明してもらえる銀行ならば心強い。
銀行のメリット・デメリットを十分に比較し、投資信託をうまく活用しよう。
執筆・篠田わかな(ファイナンシャルプランナー)
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
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