残念な社長は、目先の「やっている感」に満足している

「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」─―。もし社長が、この3つの仕事をやらない会社はどうなるか。

以前、ある大企業の会議に出て、驚いたことがありました。社長がある子会社の一つの店舗の「椅子の足を何にするか」という話に一生懸命になっていたのです。

その社長はオーナー経営者で、絶対的な権力を持っていました。細かいことも口うるさいので、後で「お叱り」を受けないようにと、部下たちは何から何まで逐一お伺いを立てていたのです。

この手のことは分かりやすい話で、「やっている感」があります。社長本人も、「俺がいると、いろいろすぐ決まるだろう」という顔で、喜々としてやっているのです。

中小・零細企業では社長が何でもやらないといけないということはありますが、会社の規模がここまで大きくなっていながら、まだこんなことをやっているのか、とこの会社の今後が心配になりました。

私はそのとき、一倉定先生のこの言葉を思い出しました。

「ダメな会社というのは、社長が部長の仕事をし、部長が課長の仕事をし、課長は係長の仕事をし、係長は平社員の仕事をしている。平社員は何をしているかというと、会社の将来を憂いている」

社長が自分のやるべき仕事をせずに、現場に細かく介入してしまうと、本来ならそれぞれの裁量で決め、報告だけ上げればいいようなことが、思うように進められません。すると、その下の部長たちも自分で考えなくなり、忖度ばかりするようになります。実際に現場で仕事をする社員の立場からすると、将来が嘆かわしくなるわけです。

つまり、社長が社長の仕事をしていないと、部下も立場に応じた仕事ができません。だからこそ社長は、社長の仕事=「経営」を行わなければいけないのです。それぞれが立場に応じた仕事のできる会社にするためには、トップが自分のすべき仕事に集中し、部下に任せられる部分は任せる姿勢を示さなくてはいけません。

賢い社長は、余計なことにムダな労力をかけません。それは社長自身のためにも、社員のためにもならないことをよく分かっているからでもあるのです。

できる社長は、「これ」しかやらない
できる社長は、「これ」しかやらない
小宮一慶(経営コンサルタント)
できる社長と残念な社長の違いとは。人気経営コンサルタントが「できる社長」に求められている「社長の本当の仕事」を語る。

小宮一慶(経営コンサルタント)
(『THE21オンライン』2020年10月23日 公開)

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