経済
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原油相場に複数の追い風、今年は1バレル=60ドル台定着か

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト / 吉田 哲
週刊金融財政事情 2021年1月18日号

 筆者は、2021年の世界的な二つの潮流に注目している。各国のワクチン普及により新型コロナウイルスを取り巻く環境が転機を迎えると予想されること、そして環境配慮のムードが強まる中で、脱炭素を見据えた動きが本格化する可能性だ。その前提の下、原油市場を含む商品市場の21年の動向を占うには、「脱炭素」「金融緩和」「株式市場」そして「各種商品市場の独自材料」という観点から考察する必要があると考える。

 原油相場において、「脱炭素」はマイナス材料と捉えられるかもしれない。確かに超長期的な視点で見れば逆風といえるだろう。しかし、21年については、脱炭素をきっかけに消費国の需要減少観測が強まった場合、産油国は、目先の収益を維持するために、価格上昇策を強める可能性があると筆者はみている。

 また、世界の中央銀行が未曾有の規模で実施する「金融緩和」政策により、緩和マネーが原油相場を下支えすると考えられる。ポストコロナの景気回復期待を背景に、原油由来の化学繊維などの消費回復期待が原油相場を支える一因になるとみられる。

 「株式市場」は、原油相場のセンチメントを変化させる重要な要素だ。昨年11月、米大統領選におけるバイデン氏勝利とワクチンの誕生を受けて発生した大規模な期待先行相場の際、複数の主要株価指数は大きく上昇した。原油価格の上昇はそれらを上回り、昨年11月の上昇率は、ダウ平均11.8%、日経平均15.0%に対し、WTI原油先物(期近)は26.7%だった。

 クリーンエネルギーの推進を表明するバイデン氏の勝利宣言は、原油需要の減少懸念を生み、原油価格の下落要因になると考えられてきた。しかし、昨年11月の大統領選以降、逆のことが起きた(図表)。複数の主要株価指数が一斉に大幅上昇するような強い期待が生じる環境下では、たとえ需要が減少する懸念があっても、原油は株式に倣い、将来の期待を飲み込みながら上昇することがあるのである。

 原油相場における「独自材料」としては、米シェール主要地区の原油生産量が減少していること、OPEC(石油輸出国機構)と非加盟の主要産油国(OPECプラス)が毎月減産状況を確認しながら、きめ細やかに減産を実施していることなどの需給要因が挙げられる。

 以上から、21年のWTI原油先物価格は1バレル=60ドル台に達し、その後、その水準を維持する可能性があると考えている。

 21年は、ワクチン普及が期待されることもあり、コロナに見舞われた昨年と同等かそれ以上に変化が生じる年になろう。商品市場関係者には、昨年以上の大きな変化に対応できるよう、過去の常識や成功体験にとらわれない柔軟な発想を持ち続けることが求められよう。

きんざいOnline
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(提供:きんざいOnlineより)