TOTO,ウォシュレット
清田 徳明 社長

TOTO(5332)では、コロナ禍直撃の2020年4月に、6年ぶりの社長交代が行われた。国内ではショールーム閉鎖、海外も売上の急落など、就任早々、清田徳明新社長は難しい経営の舵取りを迫られた。その至難の半年を経た今、近況と今後の展望を聞いた。

板倉広高社長
PROFILE◉清田 徳明(きよた・のりあき)社長
1961年10月生まれ、長崎大学経済学部卒。84年4月同社入社後、98年ウォシュレット企画部長、2005年国際事業部長、08年ウォシュレット生産本部長兼TOTOウォシュレットテクノ社長に就任。10年執行役員レストルーム事業部長、12年取締役常務執行役員レストルーム事業部担当、16年代表取締役副社長執行役員を経て、20年4月代表取締役社長執行役員に就任(現任)

世界的なコロナ流行で
第1クオーターがボトムに

─コロナの激震は大きく、4~6月の第1四半期決算では、売上高が前年同期比13%減、営業利益は4割の大幅減。とくに海外の落ち込みが激しく、まさに土砂降りでした。ただ先日発表された通期見通しでは売上高は前期比5・6%減の5630億円、営業利益は同15%減の315億円とある程度、戻せそうですね。

清田 海外は、中国の一番激しかった2月〜3月が、当社の第1クオーターのタイミングになりました。しかし中国は国の力、党の力がすごく強いですから「経済を活性化するぞ!」となれば一気に回復し、今は現場もほぼほぼコロナの前くらいまでに戻っています。そういう意味では、第1クオーターが一番のボトムでしたね。

─アメリカは感染者が1000 万人を突破するなど、なかなかコロナの収束が見えません。その渦中にあって、ウォシュレットの販売台数が倍増したそうですね。

清田 もともとウォシュレットでは1980年代からアメリカに進出して種を蒔いていて、ようやくここ数年、前年比120%、130%と伸長の兆しが出ていました。そんな中、アメリカも日本と同じでペーパー不足がトリガーになったのですが、それが収まっても衛生的であるとか、快適であるとか、他のところでも起爆しだした感じです。同様な流れで、非接触の水栓はグローバルな総グロスで年率130%、140%という数字が出て来ています。

TOTO,ウォシュレット
▲トイレットペーパー不足でウォシュレットでの洗浄需要が拡大

─全体売上の2割強を占める海外事業は、御社にとって成長エンジン。中期経営計画では2017年度の1375億円が2022年度2200億円と6割増を目指しています。その計画は今も変わりませんか。

清田 正直なところ、中計の前提が2018年からで、これだけ米中の関係が悪くなるとか、コロナもそうですけど、その辺が全然織り込めていませんでした。いわゆる「世界中にTOTOのファンを増やしていく」という、プロセスそのものは順調に手応えを得ており、海外事業が成長エンジンであることは間違いありません。ただ、数字そのものは、一回見直さなければならない局面にあるかなと思っています。

日本のリフォームは
世界の先端市場モデルに

─そうなるとやはり、御社の主力事業である国内リモデル、この安定成長がますます大事になってきますね。中期経営計画では、年に2%くらいずつ伸長させ、2022年度に3200億円を目指していますが、達成の見通しは。

清田 日本は4月に緊急事態宣言が出て、ショールームなども一度全て閉じざるを得なくなりました。そこから感染防止策を取りながら徐々に開けていき、6月4日には都市部も含めて全て再開しました。初めは予約客からスタートし、今はもうフリーのお客様も入っていただいています。ただ客足そのものは、一昨年、昨年と比べるとまだ少ない。しかし今、動いてくださっているお客様は、フリーというより目的意識が強い方が多く、コンサルヒット率は極めて高いです。

─このコロナで、突然ステイホーム期間が始まり、現在も家庭生活と仕事環境の両立という新たな日常が継続しています。その変化をどうとらえていますか。

清田 多くの方がテレワークを続け、家にいる時間が長くなると「家で快適に過ごしたい」となってくる。わざわざ外に飲みに行く機会も減りますから、夜もゆっくりお風呂に入られたり、旦那さんがおられるので、トイレの汚れる回数が増えて清掃性がよいものにしたい、ということが間違いなく増えてくると思います。その辺の環境の中で、やはりリモデルはまだまだ伸びていく手応えを感じています。もちろん、そうしたニーズに応える商品の提供が必要です。

─9月には、システムキッチン『THE CRASSO(ザ・クラッソ)』をフルモデルチェンジしました。デザインを重視されたとか。

清田 反響はすごくいいです。コンセプトは「光のキッチン」といって、全くのノイズレス、空間と調和するキッチンです。機能的にもすばらしいのですが、ディテールにもこだわっています。カウンターは、透明感のある「クリスタルカウンター」を選ぶ方が多いですね。

TOTO,ウォシュレット
▲デザイン性を重視し、フルモデルチェンジしたTHE CRASSO

─19年に発表した「リモデルあんしん宣言」の進捗は。

清田 「TOTOリモデルライブラリー」のアクセス数は、スタートした2018年から翌年までに1・4倍増え、リフォーム実例掲載数も1万件を超えました。サポートデスクに電話をいただく数なども増えていて、リモデルへの手応えを感じています。また、リモデルクラブ加盟店向けには元請業者用の読本も発行しています。お客様のリフォームへの期待やご不安などの生の情報、実例をマンガなどを使って、わかりやすくまとめた読本です。研修などでご説明すると、受講者の85 %が「気づきを得た」と回答され、良質なリモデルをご提供するためのツールとなっています。20 年10月末に3冊目を発行しました。

─高齢化や人口減少で国内新築住宅市場が縮小に向かう中、御社は長くリフォーム需要の掘り起こしに注力してきました。

清田 日本は、さまざまなかたちでお客様に寄り添ったり、世界に先駆けていろいろなアイテムを作っていく市場として、成長していくマーケットだと思っています。リモデルということでも、世界で一番日本が高齢化が進んで人口が減ってきて、そういう意味では「先端の市場」だと思うのですね。そこで作っていくビジネスモデルは、当然、台湾や、中国でも役に立っていくものだと思います。

マネジメントリソース革新で
初の女性執行役員が誕生

─人財チャレンジとして進めてきたのが「マネジメントリソース革新」ですが、このコロナで御社の働き方も変わってきたのでは。

清田 労働時間を短くしていくことは、2018年頃からかなり取り組んでいて、所定の目標は年度年度でクリアしてきました。それがコロナで、首都圏は緊急事態宣言の時は95%くらいが在宅になり、テレワークは結構、有効に使えるとわかりました。また、集まってやることや、会社から正しく仕事を切り出さないと効率が悪くなるなども見えてきました。そうしたバグを取りながら、在宅勤務というのも当然、増えてくると思います。

─女性管理職では、社長就任と同じこの4月に、デザイン本部長が初の女性の執行役員として誕生しました。今後は取締役にも早く女性が欲しいですね。

清田 生活に携わっている事業をしていますので、女性ならではの視点は必要だと思っています。女性管理職も15~16%くらいに増えてきています。ただ、役員を任せるとなるとポッと外から来られるのではなくて、プロパーというか、育てて執行役員、取締役に上げたいという気持ちが強いので、増えてくるのはもう少しですね。

─社長就任から、コロナの感染拡大への対策と事業活動の並走が続いています。もちろん覚悟を持って就任されたと思いますが、激動の半年間になりました。

清田 コロナで、私自身、新任社長として構想通りのスタートダッシュができるような環境ではなくなりました。その期間は、TOTOの存在価値や「世のため人のためになっているか?」などを考え、結局行きついた答えは、いわゆる創業の想いだったり、理念でした。これらは、アフターコロナも含めて間違いなく脈々とつないでいくべきもので、将来の羅針盤となり得るものです。

─100年企業TOTOの17代目トップとして、このコロナのインパクトを乗り越え、次の50年、100年へと継承していく必要がありますね。

清田 世界3万4000人いる当社の社員みんなに、TOTOの理念を伝えていくのが私の仕事だと思っています。一方で、想いをつないでいくだけでは事業活動は成立しません。このコロナでお客様の嗜好などは間違いなく変わりましたから、当然、我々の仕事の仕方やアプローチも変わっていかないといけない。意識を変えるというより、先に行動を変えていく。また、これだけデジタル技術などが進んでいる中で、我々はどちらかというとアナログ、ハード型の会社です。そこにデジタル技術やソフトなどが加わってくるだけで、お客様にご提供できる価値がいっそう広がってくると思います。そのために、社員にはどんどん外に出ていって、連携や協業を行い、新しい価値の創出を目指して欲しいと言っています。(提供=青潮出版株式会社