いわもと・てつお

独立系システム開発企業のアイル(3854)は、リアルとWebのシナジーにより中堅・中小企業のIT化を支援している。前期(2020年7月期)はウィンドウズOSのサポート終了等による入れ替え特需で売上高、営業利益とも大幅伸長し過去最高を更新した。今期は特需の反動で減収減益の予想だが、ストック比率を伸ばすなどして安定成長を図っていく。

いわもと・てつお
Profile◉いわもと・てつお
1955年8月4日生まれ。1979年4月、大塚商会入社。1991年2月、アイルを設立し、代表取締役社長に就任(現任)。アイルは2007年6月ヘラクレス(現JASDAQ)、18年6月東証2部、19年7月東証1部に上場。

主力のアラジンオフィス
5000社以上の導入実績

 アイルの強みは、「リアル」と「Web」のデジタル結合でシナジーを生む〝CROSS─OVERシナジー〟戦略。独自に構築した提案スタイルで、実店舗とWeb向け両方の商材を開発、それらを複合的に提案することで顧客の業務効率化と販売力強化を実現している。

 事業の主軸は売上比率88%を占めるシステムソリューション事業だ。主力商材の「アラジンオフィス」は在庫・販売管理がパッケージになっている基幹業務管理システム。5000社以上の導入実績があり、ユーザーリピート率は98.3%と高い。BtoB向けの受発注業務管理システム「アラジンEC」も提供している。

「元々はファッション、食品、医療、鉄鋼・非鉄金属、ねじ業界の5業種に特化していましたが、最近は業種の幅が広がってきています」(岩本哲夫社長)

複数ネットショップを
一元管理するクロスモール

 2 つ目の柱のWeb ソリューション事業は売上比率12%を占める。複数のネットショップを一元管理できるクラウドサービス「CROSS MALL(クロスモール)」、実店舗とECの顧客・ポイントを一元管理できる「CROSS POINT(クロスポイント)」を主力としている。

「クロスモールは、ヤフーやアマゾン、楽天など複数のネットショップの受注や在庫を一元管理できます。他社さんの類似の商材に比べ、当社のシステムは取引量が多い企業にも対応できるため、顧客は個人事業主からEC月商1億円以上の会社まで幅広いです。クロスポイントは、スマートフォン(スマホ)で会員証のように利用できます。今まではECサイトと実店舗でポイントを別々に管理している会社さんもありましたが、消費者からはどちらで買ってもポイントが使える仕組みが求められていて、当社のクロスポイントが受け入れられています」(同氏)

ストック売上積み上げ
利益体質を強化

 2020年7月期の連結売上高は前期比20.5%増の126億7900万円、営業利益は同78.8%増の17億円。システムソリューション事業においてウィンドウズOSのサポート終了や消費増税の入れ替え特需などが寄与し、売上高前期比22%増の111億1100万円と全社実績をけん引した。Webソリューション事業では、クロスモールなどストック売上が伸長し、売上高前期比10%増の15億6800万円となった。

 同社は近年、利益重視の方針を打ち出し、ストック売上積み上げによる利益体質を強化している。ストックはアラジンオフィスの保守、クロスモール利用料など毎月確実に入る収入。同社のストック売上は年々伸びており、長期で安定して積み上がる収益構造をもたらしている。

「ストックが伸びている要因はクロスモールなどWeb商材の伸びが大きいこと、基幹システムの大手ユーザーが増えていて月額保守料が増加していることなどがあります。現在、当社のストック収入が月額で約4億円、年間で約46億円であり、売上高全体の3割以上を占めています。今まだ予測はできませんが、近い将来ストック比率を5割以上に伸ばしていきたい。ストックは安定していて利益率が高い。数年後にはストック商材の利益で社員の給与を賄える収益体制を築きたいと思っています」(同氏)

大手のネット通販強化に
対応した戦略を展開

 21年7月期は売上高123億5000万円、営業利益12億円の減収減益の見込み。コロナ禍による対面営業活動自粛の影響があるものの、企業のDX(デジタル化)のニーズは高まっているため、売上は特需を除いて前年増の予想だ。

 コロナ禍によりアパレルや百貨店など小売業大手が事業モデルの転換を図っており、ネット通販強化の動きが加速。テレワークも定着し、BtoBECの需要も高まっている。

 同社は今後、独自のCROSS─OVERシナジー戦略を活用し、大手への働きかけを強めていく方針だ。

「当社の強みはリアルとWebの両方ができること。コロナ禍の今、大手さんからWebの問い合わせが多数来ていて、ネットのノウハウを教えてほしいというニーズが多い。そこに対し当社はまずWeb商材を提供します。そうすると自然に基幹システムも採用してくれるという流れが生まれています。この流れに乗って受注を増やし継続成長したいと思っています」(同氏)(提供=青潮出版株式会社