中江 康人社長
中江 康人社長

AOI TYO Holdings(3975)は、テレビCMの企画・制作を主力とするAOI Pro.(AOIプロ)とティー・ワイ・オー(TYO)の2社が経営統合して発足した共同持ち株会社だ。テレビCM制作で国内トップシェアを占め、近年はインターネット動画広告市場への展開にも注力している。2020年12月期はコロナ禍の影響により減収減益の見込み。中期経営計画では事業セグメントの再構築を行い、デジタル社会における新しい広告ニーズに対応していく。

中江 康人
Profile◉中江 康人(なかえ・やすひと)社長
1967年4月生まれ、鳥取県出身。91年中央大学経済学部卒業後、葵プロモーション(現AOI Pro.)入社。2015年AOI Pro.代表取締役社長に就任。17年AOI TYO Holdingsの代表取締役、18年代表取締役社長COO、20年代表取締役社長CEOに就任(現任)。19年公益財団法人スペシャルオリンピックス日本副理事長に就任(現任)。

テレビCM制作の
マネジメント体制が強み

 AOI TYO Holdingsは、携帯電話会社au(KDDI)のCM「三太郎シリーズ」やタレントのタモリを起用したフリマアプリ「メルカリ」のCMなど、数多くのCM、広告コンテンツなどの企画、制作を手掛けるグループ会社を持つ。傘下にAOIプロ、TYO両グループの制作会社を収め、年間約2000本のCM制作数は業界トップを占める。

 2019年12月期の連結業績は652億円。主力は売上比率7割を占める動画広告事業だ。電通グループ、博報堂グループなど大手広告会社を顧客とし、1本当たりの予算が2000万〜3000万円、年間予算で数億〜数十億円という高単価のブランド広告を主として手掛けている。

 中江康人社長は、2000年代に日本コカ・コーラ、日産自動車など大手企業のテレビCMを手がけたプロデューサーの出身。代表作である日本コカ・コーラ社の炭酸飲料FANTA(ファンタ)のCM「そうだったらいいのにな ヤギ篇・カメラマン篇・リモコン篇」でACC CMフェスティバルのグランプリなど、国内外において多くの賞を受賞した実績を持つ。

 中江社長によると、同社はCM制作におけるプロジェクトマネジメント体制を強みとする。

「テレビCMは広告主にとっては巨額の費用を投資する大型プロジェクトです。たくさんの人の手が関わるため、調整は簡単ではありません。さらにコンプライアンスや情報管理なども要求され手間も知識も必要。それができる体制を持っていることが当社の強みであり、参入障壁が非常に高いといえます」(中江康人社長)

コロナ禍の影響で売上減
感染対策講じ業務再開

 同社の20年12月期の連結業績は売上高500億円、営業損失14億円の減収減益の見込み。コロナ禍による緊急事態宣言の間はテレビCM制作が中止や延期になり、第2四半期におけるその影響は約54億円の売上減となった。

「テレビCMの撮影現場は〝3密〞なので、緊急事態宣言の間はほぼストップしたことが影響しました。解除後は感染対策をしっかり行った上で撮影等の業務を再開しています」(同氏)

 また、20年8月には構造改革や業務効率化などを柱とする中期経営計画を公表。25年度の売上高目標値は680億円、営業利益44億円、ROE10%以上を掲げる。

「元々、コロナ禍の前から広告におけるパラダイムシフトが起きていて、我々の軸足をどこに置くべきかという議論の中で2社経営統合というかたちを取りました。さらにコロナが発生して環境変化が加速したことから、元々議論していた中計にコロナの影響を入れ込み、先を見据えたものを公表するに至りました」(同氏)

セグメントを再構築
2事業体制に転換

 中計の重点施策は「事業セグメントの再構築」だ。現体制33社を21年1月には23社に集約し、新しく「コンテンツプロデュース事業」と「コミュニケーションデザイン事業」の2事業体制へ転換する。

 コンテンツプロデュース事業においては、広告会社を主な顧客として広告映像制作、ポストプロダクションを手掛ける。業界トップシェアや培ったノウハウを強みに、市場の伸びが期待される低中単価のデジタル動画市場へ対象を拡大する。

「オンライン動画広告市場のうち、当社が手掛けてきた高単価のブランド動画はある程度の成長が見込めますが、伸びは限定的。一方、予算300万〜1000万円ぐらいの低中単価案件は伸びが大きいと見ています」(同氏)

 コミュニケーションデザイン事業は、旧セグメントのソリューション事業等の流れを受けた事業であり、広告主との直接取引を中心にソリューション提供、ならびにPR・イベント等を手掛ける。

「企業のコミュニケーションを全体設計から具体的な形を作り上げるところまで手掛ける事業であり、テレビからオンライン、イベントなどを組み合わせてソリューションとして提供します。個々のメディアの受注だと利益率に差がある点が課題ですが、トータルで受注できれば利益率が高い事業です」(同氏)

ネット動画市場への展開など
新しいビジネスモデル構築

 同社の調べによると、テレビCM制作市場規模は年2%程度のペースで縮小し、代わりにネット広告市場が急成長する見込み。この環境において同社はテレビCM制作首位を維持し、ネット動画市場への展開など新しいビジネスモデルの構築を進めていく。

「当社はモノづくり、コンテンツづくりが好きな人が集まっている会社。社員が楽しんでモノを作っていると良いものが生まれ、その結果、広告主やエンドユーザーにも喜ばれるものが作れる。そんな会社であり続けたいと考えています」(同氏)(提供=青潮出版株式会社