パウダーテック(5695)は、各種鉄粉の製造販売を手掛けている。主力事業の電子写真用キャリアでは世界70%と圧倒的なシェアを誇り、2020年6月には経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選定された。現在はコア技術を応用展開し、5G関連向け新規材料の開発を推進。時代のニーズに対応しながら、事業拡大を図る。
鉄粉から環境に優しい
EFフェライトへ
「電子写真用キャリア」とは、オフィスで使われる複合機やプリンターの心臓部である現像に携わる個所で使用される磁性粉のことであり、現在はフェライト粉が主流となる。パウダーテックは、このキャリアを含む各種鉄粉の製造販売を手掛けている。
前期の連結売上高は106億円。セグメント別では、主力の電子写真用キャリアを含む「機能性材料事業」が8割を占め、カイロ用鉄粉や脱酸素剤などの「鉄粉事業」が残り2割となる。
現在オフィスなどで広く使用される複合機やプリンターの現像方式は、フルカラーに適した、トナーとキャリアの混合物から成る「2成分現像方式」が主流になっている。キャリアは、現像ボックス内でトナーと共に攪拌されることにより、トナーに所望の電荷を与え、感光体上の静電潜像にトナーを運ぶ役目を果たしている。
同社は、1952年に日本初の鉄粉製造会社として創業。70年代、同社の電子写真現像剤用鉄粉キャリアが日本で初めて使用された。95年には、環境に優しい軽金属系フェライトキャリア(EFキャリア)を開発。2000年代に入ると、デジタル化・フルカラー化に対応するため平均粒径30ミクロン程度の小粒径にシフトした。近年は省エネ対応で、低比重・小粒径のEFフェライト樹脂コーティングキャリアが主流となる。
「当社の電子写真用キャリアはほぼ15年単位で大きく変遷をしてきました。その都度、大規模な投資を行いお客様の需要にお応えしてきました」(佐藤祐二社長)
▼電子写真システム 2成分現像方式の概略図
技術者の育成と
圧倒的な情報量
同社が電子写真用キャリアで世界70%という高シェアを維持できている理由は主に2つ。
1つ目は、技術者の育成だ。複合機やプリンターの新機種開発は、取引先であるマシーンメーカーのシステムとトナーの開発部隊と、同社のキャリア開発担当との共同で進めることが多い。その中で同社は、自社の過去の開発における膨大なバックデータをベースに、出力される画像とキャリア特性との因果関係を熟知している技術者を多く育成。専属の技術者を配置することにより、取引先の開発における課題に対し最適な解決策を提案。得られた結果より取引先の開発担当者から厚い信頼を得ることができ、その次の新規開発にも繋がっていくという好循環を得ている。
2つ目は、トップシェアならではの情報量だ。日本の複合機・プリンターメーカーは世界の中でも圧倒的なグローバルシェアを有しており、大手プレーヤーは、富士ゼロックス、リコー、キヤノンなど7社ほど。世界中でも10数社だが、同社はその主要企業のすべてと取引がある。かつ、経営層、開発、生産、調達、営業など多面的な付き合いがあるため、より早く正確に次世代のニーズなどの情報をワールドワイドで得ることができる。それによりタイムリーな大型投資などの的確な経営判断ができ、高シェア維持に繋がっている。
コロナの影響受けるも
今後は緩やかに拡大
2021年3月期通期の連結業績予想は、売上高77億円(前期比27.8%減)、営業利益2.3億円(同85.4%減)。新型コロナウイルスによる欧州など各国でのロックダウンや経済活動の自粛により、オフィスが閉鎖され複合機や商業用印刷機が稼働していない。そのため、電子写真用キャリアの販売が大幅に減少している。
「従来の需要近くまでに戻るのは来期以降になると見込んでいます」(同氏)
また先進国では、テレワーク推進によるオフィスの縮小や、電子化によるペーパーレス化などが進んでいる。
「徐々に回復してきますが、多くの消費先である先進国の需要が100%回復するのは難しいと考えます。しかしながら、BRICsを始めとする新興国市場では、まだ複合機の普及率が低く、印刷物のモノクロからフルカラー化が進んでいます。また時代の要請に呼応し、メンテナンスフリーのトリクル現像方式などがさらに普及すること。さらに、オンデマンドプリンティングの軽印刷の分野では今後伸長が見込まれることから、緩やかながらこのフィールドはまだ拡大するとみています」(同氏)
新たな超微粒子で
5Gに斬りこむ
同社はこれまで数多くの電子写真用キャリア製品の開発を行ってきた。例えば、主力のフェライト粉は金属粉に比べ酸やアルカリなどに強く、電気抵抗が高いことから、電子部品としての用途拡大が期待されている。そこで同社は、コア技術を応用展開し、新製品および新規用途開発を継続している。
現在は、取引先と300件以上の開発が進行中。その中で同社では、ナノから数ミクロンの微細な小粒径フェライト粉などを安定的に生産できるプロセス開発を終えており、新たな微粒子を近く上市する予定だ。これらの粉体を使用することで、高速通信5G関連機器の誤動作防止や性能向上、省エネへの貢献が期待されている。
また、それら新規材料の量産体制を確立するために、本社敷地内に新工場を建設する。投資額は10億円超。2021年8月に完成予定で、22年度に操業を始める。月産数トンから立ち上げ、将来は同十数トンへ増強する計画だ。
「今は電子写真用キャリアと新規事業を機能性材料のセグメントで一緒にしていますが、新規事業が鉄粉事業を超えていくことを期待しています」(同氏)(提供=青潮出版株式会社)