経済,情勢
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診療所と公立病院では利益率に大きな差

(厚生労働省「医療経済実態調査(医療機関等調査)」)

大和総研 政策調査部 / 石橋 未来
週刊金融財政事情 2021年1月25日号

 コロナ禍の影響で医療機関の経営が急速に悪化しているが、それ以前はどうだったのか。図表は、2010年以降の医業利益率(医業に関する収益に対する利益の比率)の推移である。公立病院が大幅な赤字であるため、それを含む病院全体では11年以降マイナスが続いているが、市中の医院やクリニック(診療所)の利益率は高い水準で推移している。18年度の全民間企業の平均的な売上高営業利益率が4.4%、資本金1,000万円未満の中小企業に限ると2.1%である(注)ことと比べて、診療所の利益率は際立って高い。

 こうした状況に対し、財政当局は診療報酬(医師の人件費や技術料等)のマイナス改定を求めてきた。医療機関の収益である診療報酬の主たる財源は、国民が負担する保険料と税である。仮に、政策的に決められている医療サービスの価格が、一般的な賃金や物価の動きから上振れしているようなら是正が必要だ。この点、コロナ禍によって足元の経営は厳しくなっているものの、診療所の利益率が恒常的に高止まりしていることは考慮すべきではないか。

 他方、公立病院が大幅な赤字で推移してきた要因には、過疎地における医療や、民間医療機関が担いにくい不採算・特殊部門(救急・小児・周産期・災害・精神など)の医療の提供が求められていることがある。それゆえ公立病院が赤字でも問題がないということでは決してないが、コロナ禍の下でも新型コロナ患者の積極的な受け入れが期待され、実際にその役割を担っている公立病院は多い。新型コロナ対応のために支援が必要なのであれば、その実態を踏まえた施策が必要だ。

 足元、政府は医療提供体制を維持するために診療報酬を臨時的に上乗せしたり、新型コロナ患者を受け入れるための空床確保に対して補助したりするなど、さまざまな経営支援策を講じている。しかし、診療報酬が高く設定されている高度急性期・急性期病棟を有していても、公立・公的病院の約2~3割、民間病院の約8割は、新型コロナ患者の受け入れができないという(20年9月末時点)。新型コロナに対して機能を十分に発揮できていない状況を放置したまま一律に支援を行っても、有効な対応策にはならないだろう。

 少子高齢化が進展する日本では、医療費の膨張が止まらないことも忘れてはならない。コロナ禍で突然生じた医療現場の厳しさだけに目を奪われ、構造的な問題を棚上げするのではなく、医療制度の持続可能性を高めるために、各医療機関の機能や役割を明確にしつつ、短期的な課題と長期的な課題を整合させる政策を遂行することが不可欠である。

診療所,公立病院,利益率
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(提供:きんざいOnlineより)