大手総合商社の丸紅が、新卒総合職の半数を女性にする方針であることが報じられ、話題になった。柿木真澄社長が理由として挙げたのは、環境変化への柔軟な対応や同質的な集団からの脱却だ。このほかにも女性採用を強化するメリットはさまざまある。改めて考えてみよう。
丸紅社長が掲げた「半数女性」
報道によれば、丸紅の女性社員は全総合職3,300人のうちの現在は約1割で、管理職に絞るとその比率は6.4%まで下がる。一方で、今春入社の総合職の採用では女性の採用を3割まで引き上げた。丸紅にとってこの女性採用比率はこれまでで最高のものだ。
プレスリリースなどで公式に女性採用強化について発表されているわけではないが、柿木社長の言葉からも分かるように、丸紅はさらに企業としての成長力を伸ばすために、いま女性の力を必要としている。「半数女性」という方針を掲げたのも、そのためだ。
もちろん、女性比率が高い企業もある。化粧品メーカーや料理教室を展開している企業など、女性をメインターゲットに事業展開している場合、おのずと社員の女性比率が高くなる。ただし、これは特殊な例だ。日本では、現在多くの企業が依然として「男性社会」のままである。
ちなみに、上場企業における女性役員の割合は2019年7月時点で、全業種平均で5.0%となっており、業種別では、特に「パルプ・紙」が2.0%、「倉庫・運輸関連業」「金属製品」「鉱業」が2.8%と低い。
女性採用を強化する4つのメリット
このような状況下で、丸紅のように女性採用を強化する企業の動きが近年目立つようになっている。なぜか。前述の丸紅の柿木社長の発言からも分かるように、女性採用を強化することにはメリットがあるからだ。女性採用を強化するメリットを4つ紹介する。
メリット1:優秀な人材の採用につながりやすい
大卒採用を行っている企業に的を絞って話をすると、4年生大学への女性の進学率は1973年に初めて10%台となるなど低い状況がかつては続いていた。しかし、2018年には50%を超えて男性とほぼ同水準になりつつあり、新卒人材の中には専門スキルを大学で学んだ女性が多くいる。
そのような流れの中で、これまでのように男性を優先的に採用し続けると、結果として女性の優秀な人材を獲得する機会を逃す。そして、このようなことが現在も多くの企業で起きている。ということは逆に言えば、女性の優秀な新卒人材の獲得競争は、まだ日本では決して激しくないということだ。
つまり、いま企業が女性採用に本腰を入れれば、女性の求職者の中から優秀な人材を見つけやすいということになる。
メリット2:新たな視点を取り入れられる
女性採用を強化することで、企業におけるさまざまな事業活動で女性ならではの視点やアイデアが多く出てくるようになる。これはまさに、丸紅の柿木社長が掲げる「環境変化への柔軟な対応」や「同質的な集団からの脱却」につながることでもあると言える。
日本においても海外においても消費者の半分は女性だ。平均所得の違いから購買力には差があるものの、女性の視点を生かして女性向けの製品やサービスの開発を強化し、それが売上増に結びついていけば、企業の業績にも良い影響が出てくる。
メリット3:イメージアップにつながる
日本政府も女性の活躍促進のための取り組みを強化している中、従業員の女性比率を高めることはその企業のイメージアップにもつながりやすい。そして企業のイメージアップは、ブランド力の強化にも間接的に結びつき、特に女性からの高評価が期待できる。
また女性採用を強化していることは、求職者に対しても良い印象を与える。働き方に対する若者の考え方が多様化する中、「ダイバーシティ」(多様性)を積極的に推進している企業だと認められれば、その企業に応募する求職者が増える可能性がある。
メリット4:会社全体の業務効率が上がる
女性従業員の中には子育てをしながら働いている人も少なくないが、このような女性従業員の場合、業務時間内で仕事をきっちり終わらせるために、業務に効率化を求めるケースが多い。男性従業員が女性従業員の働き方から学ぶべき点はたくさんある。
企業にとっては、会社全体で業務効率が上がれば人件費のコストが抑制できるというメリットが出てくる。女性の採用強化は、優秀な人材の獲得やイメージアップのほかにも、コスト的にも利点があるのだ。
ほかの企業にも同様の動きが波及!?
大手商社である丸紅が「半数女性」を掲げただけに、ほかの企業にも同じような動きが波及していく可能性は大いにありそうだ。
しかし、ただ単に女性社員の割合を増やしただけでは、企業内における変革は一定程度にとどまる。そのため、その企業で働いている男性社員や経営陣の意識改革も重要であると言える。すでに、女性採用や女性役員の比率を高めている企業の成功事例を学ぶ必要もあるだろう。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)