中国発の新型コロナウイルスの感染拡大により2020年、ビジネスマンの働き方は大きく変わりました。

これまで日本企業は、長時間に及ぶ通勤や無駄な会議、あいまいな役割分担などといった慣行のために、労働生産性で先進国の後塵を拝していました。ところが、半強制的に始まったテレワークやオンラインコミュニケーションにより、こうした課題に向き合わざるをえなくなりました。そこで合理性を重視する企業ほど、これまでの慣行から足を洗っています。

このインパクトは「働き方改革」を超えて「働き方革命」であると、不動産事業プロデューサーでオラガ総研株式会社代表取締役の牧野知弘氏は説きます。「働き方革命」によってビジネスマンは通勤から解放され、会社以外に仕事場を設ける必要性に迫られました。このことはビジネスマンの住まい観に大きな変化をもたらしました。都心の狭いマンションを捨て、郊外の広い戸建てに移る傾向が顕著になったのです。

年明け早々、首都圏で緊急事態宣言が再発令されるなど、不穏な幕開けとなった2021年ですが、2020年に形成された「不動産のニューノーマル」はどうなっていくのでしょうか。連載1回目は東京の不動産価格、2回目はオフィスと働き方、3回目は実需での住宅選びについて、それぞれうかがいました。

(取材・構成 不動産のリアル編集部)

目次

  1. 半年後には経済V字回復が待っている
  2. 海外投資マネーに期待してはいけない?
  3. 今、日本の不動産を買っているのは後発組
  4. 衛星都市や地方の有力都市への投資に勝機ありか
  5. 不動産投資を変えるテレワーク

半年後には経済V字回復が待っている

牧野知弘氏
(画像=牧野知弘氏(REDSより))

――新型コロナウイルスは私たちの日常を変えてしまいました。そして、あらゆる分野で「ニューノーマル」が生まれていますが、不動産の世界にもそれらしき事象が見られました。

牧野:ニューノーマルの動きはおそらく止まらないでしょう。景気には変動がありますので、コロナ克服後、世界経済と日本経済は戻ってくることは簡単に予測ができます。ずっと圧縮されていた逆バネが働きますので、経済のV字回復があるはずです。

ただ、通常のインフルエンザと同じような形態に収束していくまでの時間によって景気の回復の度合いとかスピードが変わりますので、今はまだ読めません。収束が半年後だったら経済の回復は早いと思いますが、緊急事態宣言が長期間にわたって続けられるような事態になれば回復は2~3年先と長期化することになります。

僕は感染症の専門家ではないのですが、少なくとも先進諸国においては、おそらくあと半年程度で収束すると勝手に楽観しています。金融が大きく痛まない限りにおいては、日本も主要先進国の経済回復の波にはうまく乗れるのではないかと思っています。

海外投資マネーに期待してはいけない?

牧野:「不動産は半年後に景気を追いかける」と言われています。不動産はこの経済の回復にのっとって徐々に上がっていくでしょう。一方でこのコロナ禍においても、不動産価格は下がっていないじゃないかという論調は多いですし、実際にまだら模様であるものの、全体的に大きく下がったという傾向は見られません。

その大きな理由は、世界的に見た「カネ余り」です。日経平均株価も、NYダウも、ものすごい勢いで上がっていますけれども、コロナ対策のために世界的にお金を刷りまくってカネ余りになった結果、株や不動産が支えられているという皮肉な結果です。

そんな中、外国人の投資家が今、日本の不動産をたくさん買っています。この投資マネーが引き続きこの日本の不動産を買っていくのか、これは大きなテーマでしょう。日本あるいは東京で投資の速度を速めるという報道もありますし、実際にエイベックスの本社ビルなんかも買われていますけれども、こういう動きがさらに加速されて、東京の不動産投資が活発になっていくのかというと、やや疑問に思います。

今、日本の不動産を買っているのは後発組

牧野:かつて、不動産ファンドバブルがはじけてリーマンショックに繋がったときも、最後に東京の不動産マーケットに入ってきたのがカナダやドイツでした。モルガンスタンレーのようなアメリカ勢はもっと早くに入って、出口で売却していました。だから、ひとくちに「世界の投資マネー」と言っても、いろんな国、いろんな銘柄があるわけです。

投資という尺度において、アービトラージ(利ざや)を取ってくる最先端の投資家は、すでに日本に入っていますし、むしろすでにエグジットしています。一方、遅れて入ってくる国や投資家は、日本のことをそんなによく知らないのです。欧米に比べて日本のコロナの状況が悪くないので、入りやすいのでしょうね。

それからもう一つ、彼らが入ってくる理由として、「日本の住居は狭いのでテレワークには適さないので、再びオフィスビルに通勤するようになる」というのです。馬鹿にされた話だと思いますが、逆に考えると、その程度の理由しかないわけです。

つまり日本が経済のV字回復を果たして再びアジア経済の牽引者となると予測を立てて入ってきているマネーではありませんので、ここの動きだけに論拠を求めるというのは、やや乱暴です。

衛星都市や地方の有力都市への投資に勝機ありか

牧野:そういった意味では、東京の中でも投資をするエリアには少し慎重になった方がいいと思います。また、東京を取り巻く衛星都市の駅近・駅前あるいは地方の有力都市、ここは逆に勝機が多いのではないかと考えています。

先日もある投資家とこんな話をしました。「カナダとかドイツとかが日本の不動産を買いにきていますけど、彼らはどこでアービトラージをとるのか? 東京のキャップレート(還元利回り)は今3.5%とか3.8%になっていますが、これで入ってきて3.0%で抜けるおつもりですかね?」と。

以前は、東京は4.5%くらいだったので4.0%で抜けるというイメージで組み立てやすかった。欧米系の投資の考え方だと、東京の不動産価格がいったん下がったところに入ってくるというのがセオリーです。ということは、今ではなく、しばらく待つはずです。

ところが価格が上がりきって、キャップレートが下がりきったところでサヤ取りに入ってきた。これはもうカネ余りの現象としか見えない。3.5%で買ったものを3.3%や3.2%で売り抜けようとしているのかも知れないのですが、そこのリスクって逆に大きいですよね。リスクプレミアムをうんと下げてしまっていますもんね。

という意味で、海外からの不動産投資マネーが入ってくるというところに便乗するという動きには私はあまり賛成しませんね。逆に、彼ら外国人たちがあまり興味は示さないであろう郊外衛星都市の駅前や地方の主要都市に今から投資しておくと、面白いかもしれません。今年はそんな年になりそうです。

不動産投資を変えるテレワーク

牧野:なぜ郊外衛星都市や主要都市に勝機があるかというと、人々の生活様式が一部でかなり変わりそうというところに依拠しています。もちろん外国人投資家が言うように、日本人がみんなリモートになって、オフィスを捨てるという行動に全面的に移ることはならないでしょう。

また、ニューヨークやロサンゼルスのサンタモニカのように20%ぐらいが郊外に出てしまうということが日本で起こりうるのかというと、それはないでしょう。向こう1年とか1年半ぐらい先にそういう傾向が「強まる」というレベルだと思います。

ただ、もっと合理的に行動をして、この働き方革命を選択して働いていく人というのが、おそらくワーカーの1割あるいは2割。彼らが動くだけで、不動産マーケットは大きく変わります。ここには注意する必要があるかなと思っています。

【プロフィール】

牧野知弘氏

オラガ総研株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。2009年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年オラガ総研株式会社設立、代表取締役に就任する。2018年11月、全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立、使い手のいなくなった古民家や歴史ある町の町家、大自然の中にある西洋風別荘などを会員に貸し出して「自分らしい暮らしの再発見」を提供している。
著書に『空き家問題』『民泊ビジネス』『不動産激変~コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)、『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)、『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)、『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』(中公新書ラクレ)などがある。テレビ、新聞などメディア出演多数。