特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

株式会社VPP Japanは法人向けに、スーパーや物流センターといった施設屋根に自家消費太陽光設備を設置し、そこで発電した電力を施設に直接供給する「オフグリッド電力供給システム」を提供する。電力コストやCO2の排出削減につながるだけでなく、災害時のバックアップ電源としての利用や、余った電力をEV(Electric Vehicle:電気自動車)にチャージするなど、様々な活用が可能だ。昨年は110億円の資金調達を行い、2020年3月時点の「国内スタートアップ資金調達ランキング」で首位となった。本年には国内の流通サービス500施設、累計100MWの自家消費太陽光発電システム導入を目指す。

(取材・執筆・構成=中村優之介)

株式会社VPP Japan
(画像=株式会社VPP Japan)
秋田 智一(あきた・ともかず)
株式会社VPP Japan代表取締役社長
1976年愛知県生まれ。
広告会社勤務を経て2009年環境経営戦略総研(現株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ)入社。主に事業開発責任者として太陽光発電事業、電力供給事業を推進。2016年当社取締役エネルギープラットフォーム事業本部長。2017年分散型電源の推進を目的として㈱VPP Japanを設立し代表取締役に就任。

次世代の「オフグリッド電力供給システム」とは

――まずはオフグリッド電力システム事業について詳しくお聞かせください。

社名であるVPP JapanのVPPとは「Virtual Power Plant」の略です。オフグリッド電力供給の仕組みが、今後の電力システム課題を解消していく上で必要だろうということでスタートしたのが2017年6月になります。

2012年から、FIT(固定価格買取制度)が導入され、再生可能エネルギーの電気を増やしていきましょうということになりましたよね。要するに、FITは作った電気をプレミアム価格で買い取りますということなのです。ただ、高値で買い取って、発電した側のキャッシュインを大きくしないと、なかなか投資対効果が合わないということがあった。通常10~15円くらいで取引されている電力を42円などの高値で買い、補助することによって、一気に太陽光や風力発電事業に参入する人が増えたのです。

一方オフグリッド電力は、FITを利用しない電力です。補助を受けずに、法人向けに太陽光発電での電力販売を行っています。当社の事業モデルは、施設の屋根に太陽光発電パネルを設置させていただき、発電した電気をそのままグリッドを介さずに送電、足りない分の電気は従来の系統から使用していただきます。

自分の施設の屋根で作っている電気は、系統電力と同等ないし、より低価格で提供されます。初期投資費用もなく、お客様が払うのは電気使用料金分のみです。

ロジスクエア川越Ⅱ
ロジスクエア川越 (提供=アイ・グリッド・ソリューションズ プレスリリース)

――自家発電自家消費のような感じですね。

ただ、厳密に言えば「自」ではないのです。「TPO(Third-Party Ownership)」という言葉がありますが、発電施設自体は私たちが「所有」しており、そこで発電した電気を供給します。

今までは大きな発電所を作って、電力系統を通じて広域的、効率的に配送するというのが日本の電力供給システムでした。イメージとしては、すごく大きな田園や畑で作物を大量に作ってトラクターで運んでいたのが今までの電力。私たちの場合はお客様の庭、軒先に畑を作らせていただいて、そこで作った野菜を食べていただく。食糧で例えると、そんな供給形態をとっているものなのです。

「電気的価値」と「環境的価値」

――オフグリッド電力を導入することで大幅なコスト減に繋がるというところがメリットなのでしょうか。

もちろんコスト減にも繋がるのですが、自分の施設で作った電気が再生可能エネルギーでCO2が0だということは、お客様に価値として強く感じていただけているところです。

再生可能エネルギーは、「電気的価値」と「環境的価値」の2つの価値があり、別々に切り離すこともできます。「環境価値」だけを分離して販売するということもできるわけです。

「電気的価値」はAさんに、「環境的価値」はBさんに売るということもできるのです。そういった需要は今後ますます出てくると思います。

脱炭素社会の実現に向けて日本全体の意識が変わってきています。企業の環境配慮の姿勢も強くなってきているため、オフグリッド電力導入によって環境価値に共感していただいている企業様は多くなっています。

――コロナ禍で事業的な変化はありましたでしょうか。

どういった状況であっても、電気は基本的に必要なものです。コロナ禍においても、我々が電気を供給しているスーパーや物流施設などは営業を続けていく必要もあり、むしろ需要が高まっています。そういった、日常のライフラインとしてなければならないところにしっかりと電気を届けていくということは変わりません。

コロナとは少し外れますが、災害で発電施設や電力系統に被害があれば、その地域が停電してしまうリスクがあります。そのため、BCP対策としてオフグリッド電力を導入されるケースも多くあります。バックアップとしてオフグリッド電力も合わせて備えてもらうことによって、できることが結構あるのです。レジだけを動かすだとか、非常灯だけは点けて従業員の安全を確保するだとか。やはり全く電気が使えない状態と、一部だけでも電気が使えるという状態では差があります。社会インフラを維持していくという意味で、しっかりとその一部の仕組みとして電気を届けていくことは大事なことだと思っています。

――EV(Electric Vehicle:電気自動車)も推進されていますね。

はい。しかし、日本の火力発電が75~80%を占めているような状態だと、EVに使う電気も結局化石燃料を燃やしているじゃないかと。なので、EVにチャージする電気そのものも再生可能エネルギーにしていくべきというのはその通りだと思うのです。

我々がオフグリッド電力を供給している先はスーパーや物流施設ですが、スーパーで言えば、来店するお客さんがEVを充電することができますよね。物流施設も同じです。少し先になりますが、配送用EVにオフグリッドの電力をチャージすることができます。EVのチャージスタンドも、太陽光パネルと共に導入を増やしていくことを進めています。

配送用EV
(提供=アイ・グリッド・ソリューションズ プレスリリース)

――これからの展望とアクションをお聞かせください。

本年には100MW、ゆくゆくは250MWを目標としてオフグリッド電力を増やしていきたいと思っています。しかしその過程で、施設によって規模、電力使用量は異なり、太陽光発電は出力が不安定のため、需要量と供給量が合わない場合もあります。そうした課題を、近いエリアで発電設備をバーチャルにネットワーク化することによってエリアで需給バランスをとれるようにしていく。そして、EVや電池などをうまく利用することで電力を「貯蔵」して使う。自分の住まいの近いところで電気を作って効率的に使っていく、いわゆる地産地消です。

あくまで再生可能エネルギーを増やすということは大事なことですが、それをいかに地域内で循環し、有効的に活用できるものにしていくかがVPP Japanとしてやるべきネクストステップだと思っています。