環境整備が進む「生涯現役社会」実現への道
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環境整備が進む「生涯現役社会」実現への道

(総務省「労働力調査」)

大和総研 政策調査部 / 佐川 あぐり
週刊金融財政事情 2021年3月22日号

 基本的に老後は稼得する手段を失うから、経済的な備えが必要になる。ただ、それに対しては、高齢になってもできるだけ長く働き続けることが、最も本質的な備えだともいえる。そうすれば、経済的な面はもちろん、健康や生きがい、社会とのつながりも得られる。

 近年は平均寿命だけでなく健康寿命が延び、就労意欲の強いシニア世代が増えている。65歳以上の就業者数はここ20年間で424万人増加し、2020年には906万人、就業者に占める割合は13.6%とすでに約7人に1人が高齢者である(図表)。

 生涯現役社会に向けて、政府も人々が長く働き続けることができる環境整備を進めてきている。公的年金の支給開始年齢の引き上げ(60歳から65歳へ)に伴い、少なくとも年金を受給するまでは働き続けられるように、04年に高年齢者雇用安定法が改正された。これにより、65歳までの雇用確保措置(定年廃止、定年引き上げ、継続雇用制度の導入のいずれか)が企業に義務付けられた。13年度以降は希望者全員が対象となっており、厚生労働省によれば、65歳までの雇用確保措置がある企業は20年6月時点で99.9%である。

 さらに同法が改正され、21年4月からは70歳までの就業機会を確保することが企業の努力義務となる。具体的には、定年の廃止や70歳までの定年引き上げ・再雇用などに加え、他社での継続雇用のほか、事業主が業務委託契約を結ぶ制度や事業主が実施する社会貢献事業に従事できる制度の導入といった「雇用によらない働き方」を整備する選択肢がある。企業がシニア世代の多様性に応じた幅広い働き方を提供できれば、就労機会の広がりが期待できる。

 労働政策研究・研修機構の調査によれば、65歳以上の希望者全員が働き続けられる企業の割合は19年時点で21.8%と、15年の10.4%から10ポイント以上上昇している(注)。シニア世代の豊富な経験や能力を企業の成長に生かすための取り組みを通じて、企業に必要なノウハウも蓄積されてくる。また、高年齢者が生き生きと働ける職場では、若年・壮年層の中にも長く働き続けようという意識が醸成されるだろう。半面、高年齢者の雇用確保に取り組むことで、労務の現場では、処遇や配置、社内の人員構成などの課題も顕在化してきたはずだ。

 もちろん労働者側にもエンプロイアビリティー(雇用される能力)が求められる。常に能力を向上させ、学び直しの機会を生かそうという意欲のある高年齢者を政府や企業は支援し、増やしていく必要がある。そうすれば、活力ある超高齢社会を実現することは十分可能だ。

環境整備が進む「生涯現役社会」実現への道
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(提供:きんざいOnlineより)