特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
2011年設立。「ゼロリノベ」ブランドで、中古マンションや戸建てのリノベーションを手掛ける。中古物件の仲介、リノベーションの設計、施工からアフターサービスまでを自社で行っていることが最大の特徴。売上は13億円で、年間100件ほどを受注している。リノベーションの技デザイン・コンセプト等を競うRenovation of the yearで部門最優秀賞を受賞するなど、デザイン性や居住性を高めるための企業努力を重ねている。
(取材・執筆・構成=不破聡)(画像=株式会社groove agent)
1973年埼玉県生まれ。学習院大学卒。
大学卒業後、三和銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行。法人取引を担当し、コーポレートファイナンスを経験。その後、複数のベンチャー企業の立ち上げなどに携わった後、海外では当たり前となっている中古物件のリノベーションに着目してgroove agentを創業した。
Web経由で1,000万円の案件を年間100件以上受注
――10億円の売上高が今期は13億円となり、コロナ禍でも事業は好調です。
消費者のローコスト住宅への理解が進み、需要が掘り起こされています。多くの人にデザイン性の高いゼロリノベの事例に興味を持ってもらえました。
集客面では、毎週土日に無料セミナーを行っています。当社の実績や特徴を話すだけではなく、住宅ローンに関する情報や、優良中古物件の特徴、見極め方など、有益な情報を提供するようにしています。毎回10~20組くらいの方が参加をしています。Webサイトを見て予約をする人が多く、集客のためのコンテンツマーケティングにも力を入れています。
当社が運用しているWebサイトの記事では、年収に対する借入限度額に関するものなど、お金の話に人気が集まっています。それをフックとしてリノベーションという方法があることを知ってもらうわけです。セミナーに参加してリノベーションを知る人も多く、啓蒙活動も兼ねています。多くの人に低価格で理想の家に住む手法があることを知ってほしいですね。
――日本ではまだ住宅購入イコール新築という概念が定着しています。
海外では中古住宅を購入してリノベーションするという考え方、文化は当たり前のものとなっています。この概念そのものを日本でも広めたいと考えたのが、創業のきっかけでした。総務省による2019年の調査では、日本の空き家は846万戸で、全住宅の13.6%と過去最高となっています。国内では少子高齢化が進んで空き家が増えているにも関わらず、新築で物件を建て続けている。日本はこの先、脱炭素化が進み、住宅を再利用しようという機運は今後高まるでしょう。事業にとっては追い風になっていると感じています。
――低資金で自分が望んだ家に住めるというのは時代の流れにも合致しています。
予算の関係で、住環境を多少我慢しても駅に近い建売住宅やマンションに住むというのが、これまでの潮流でした。しかし、新型コロナウイルスによってリモートワークが推進され、駅などからのアクセスのしやすさは、物件を選択する上での主要素ではなくなりつつあります。消費者の目は、自宅での過ごし方といった住環境に向いています。ただし、見る目が養われているので、細かな箇所へのこだわりが強くなっているのも事実です。
その点、当社は物件探しから設計、施工、アフターサービスまでをすべて自社で行っており、顧客満足度は高いです。当初は競合他社のように設計だけを行っていましたが、提案も含めて十分な品質が担保できないと感じ、内製化へと切り替えました。提携企業へのマージンを支払う必要がありませんので、価格面でも有利になります。
――組織が大きくなることで社員のマネジメントの負担が増えませんか?
当社は創業当時から出勤義務を設けていません。コロナ前からリモートワークが当たり前でした。休暇もそれぞれのメンバーが自由に取っています。そのおかげで創業から今まで離職者を出したことがないのです。しかし、もちろんそれが続くとは思っていません。
多様な生活スタイルが出てくる中で、均一的な働き方を強制するのは意味がないと感じています。建築、不動産業界は離職率が高いといわれますが、これは画一的な規律やノルマを課していることが主要因でしょう。当社は、メンバーが達成すべきミッションを持つことで、モチベーションの高い状態を保っています。
メンバーが意欲の高い状態でいることも、顧客満足度が高まる要因となっています。
金融畑出身らしい資産性の高さを訴求して人気を獲得
――Renovation of the yearで部門最優秀賞を受賞しました。
リノベーションには答えがありません。時代やニーズに合わせた提案力、商品力を磨くために賞への挑戦を続けています。賞を獲った物件では、狭いスペースでも圧迫感を感じないよう小窓を作って光を取り入れたり、壁を撤去して子供が遊べるスペースを確保したりと、開放的な空間づくりを行いました。他にも、本棚と壁を融合させて省スペース化も実現しています。
当社は躯体の制約条件をなくすため、壁や天井、床などを極力撤去するようにしています。物件をリセットすることでライフスタイルの変化に応じた自由な間取りに作り替えることができるからです。インテリアを使って空間づくりをすることで、家族の成長や変化に応じて家そのものを作り替えることができます。長い時間が経過してもストレスのない居住空間を提案しているのです。
――DIY要素を取り入れ、顧客と一緒に家を作るという要素が大きいです。
家づくりに参加することで、プロジェクトに一体感が生まれます。双方の熱量が高くなればなるほど、質の高い家になります。それが好事例となって新しい提案ができる。その好循環が生まれています。床、天井、キッチンやバスルーム、電源スイッチに至るまで一つひとつを顧客に選んでもらえるようにしています。
――インテリアを重視した居住空間の提案にも定評があります。
建物にばかりお金をかけ、出来合いの家具を買ってしまう日本の習慣に疑問を持っていました。ヨーロッパでは特にインテリアを重視しています。特に椅子にはこだわりが強く、子供に椅子を譲る玉座の文化があったりします。家具を長く使用するためには、デザインに普遍性がなければなりません。インテリア業界で活躍する人材を獲得して提案力を高め、更に思想の部分から共感してもらうことで、顧客には住まいに愛着を持ってもらえます。
――リノベーション物件の資産性の高さも顧客に訴えていますね?
はい、資産になるお金の使い方を提唱しています。多くの新築の一戸建てやマンションの場合、買ったその日から資産価値が目減りしてしまうといわれます。バランスシートで例えるなら、固定資産の減損損失を計上し、住宅ローンの負債が膨らんでいる状態です。そのことに気づいている人は少ない。築20年が経過したマンションは価格の下落がおさまり、資産価値が大きく減少することはありません。すなわち、物件への投資価値が高いということになるのです。建築業界の新築神話に踊らされることなく、正しい知識を身につけてほしいと思っています。
――今後の展開は?
中古物件を扱うことは、空き家を活用することや資源の再活用といった側面で社会的意義の高いものです。売上を追及するというよりも、社会貢献をするという意味でお客様数を増やしたいという想いがあります。関東以外の顧客から、リノベーションをしてほしいという声もありますが、今は応えきれない状況です。今後は少しずつエリアを拡大したいと考えています。