特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

1991年福岡市にて創業。注文住宅や建売住宅を主力として事業を拡大。直近の売上は31億円。70棟を手掛けている。廊下を排除しリビングに階段を設けるなど、家族のコミュニケーションが活発化する動線の設計に定評がある。他にも、子供が進んで手伝いをするようになるキッチンをつくり上げるなど、家族の団らんがテーマとなる家づくりを得意としている。

(取材・執筆・構成=不破聡)

ディー・アンド・エイチ株式会社
(画像=ディー・アンド・エイチ株式会社)
坂口 剛彦(さかぐち・たけひこ)
ディー・アンド・エイチ株式会社代表取締役社長
1960年山口県生まれ。
23歳より不動産業に携わる。1991年に住宅建設会社を立ち上げ、1994年に有限会社サクラハウス(現ディー・アンド・エイチ株式会社)の代表取締役に就任した。著書に「家族が幸せを実感できる家づくり」(中経出版)がある。

ターゲットを変えて坪単価を40万円から60万円に引き上げ

――創業してから現在までの変遷は?

会社を設立した当時は低価格の住宅を販売していました。坪単価40万円台のものです。そのときはローコスト住宅が流行しており、多くの会社が参入するレッドオーシャンでした。これでは差別化が図れないと考え、断熱効果や気密性の高い住宅へとシフトし、坪単価を50万円台後半まで引き上げました。

ところが機能や性能を高めても、自分が住みたいと思える家をつくることができなかった。坪単価は60万円台まで上がりました。

――顧客からの反応はどうでしたか?

上々です。当社はホームページで、家族を大切にするという設計思想を明確かつ事細かに伝えています。そこに共感する人がやってくるため、ヒアリング時に話がズレることがありません。実際にそこで暮らしてからも、イメージしていた通りの生活ができているという声が多くなっています。その声を拾って事例として挙げ、それを見た顧客が相談にくるという好循環が生まれています。 住宅において機能面を上げることには限界があります。高断熱、高気密、耐震性、防蟻処理などに最新の技術を取り入れることは当然ですが、当社はコンセプトと設計というソフト面で他社との差別化を図っています。

――コロナ禍でデザインへの影響はありましたか?

はい、リモートワークの推進により、家に仕事の要素が入るようになりました。狭いスペースであっても、大人用の個室、書斎が必要だというものです。仕事で使う空間と家族が顔を合わせる空間をうまく配置し、限られた面積の中でバランスの取れた家にしなければなりません。リモートワークはコロナ収束後も続くでしょう。創意工夫を凝らし、時代にフィットした提案をする必要性を感じるようになりました。

――接客のオンライン化が進んでいます。

図面をWeb上で閲覧できるなど、打ち合わせがオンラインでストレスなく進められる体制を構築しています。ただし、家に対する思い入れの強い人が多く、なるべく直接会いたいという声が聞こえてきました。徹底的な感染防止対策を行い、3回に1回は直接カウンターで相談するといったケースがほとんどです。

社員もリモートワークやWeb会議を推進しているのですが、自ら進んで出社しています。ITに馴染めないというよりも、不動産は実際に顔を合わせないと本質的な理解が得られないと感じている社員が多いのかもしれません。

ディー・アンド・エイチ株式会社
(画像=ディー・アンド・エイチ株式会社)

エネルギー効率を高めて脱炭素の家づくり

――30年長期保証でアフターメンテナンスに定評があります。

コンセプトに根ざしたものです。いくら動線を作りこんでも、建てっぱなしでは意味がありません。家族の安全や暮らしを守ることが当社の仕事だと考えています。

建物の引き渡しから3ヵ月、1年後、10年目まで毎年1回の定期点検を実施しています。点検は家族にヒアリングをするだけでなく、長年風雨や紫外線に晒される外壁や屋根、窓枠回り、外壁の継ぎ目などを重点的にチェックしています。床下や換気システムまで目を通すため、不具合があればほぼ確実に見つけることが可能です。こうした長期保証が顧客の信頼に繋がり、口コミによる集客に発展することもあります。

――SDGsの取り組みも強化しています。

「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」です。省エネと創エネを組み合わせたもので、エネルギー消費量をゼロにするという考え方です。一般的なエネルギー消費量を、断熱効果で省エネルギー化します。さらに太陽光発電システムによってエネルギーを作り、それをエアコンや照明などに回すのです。日本政府は脱炭素の取り組みを強化するとしており、これから先進国が切磋琢磨する領域です。当社も早期にCO2削減に取り組みました。

2012年からは、日本政府がZEH支援事業として70万円の補助金も出すようになっています。時代の流れに合致した提案ができ、補助金の導入によって顧客にもメリットがあります。SDGsへの取り組みは、今後も強化したいですね。

――本業への影響は?

まったくありません。売上は31億円でした。業績は順調に推移しています。目先では住宅事業の拡大に注力する予定です。年間70棟を100棟まで引き上げ、売上50億円を目標としています。 ポイントになるのは人です。特に財務などの経営を支える人材が不足しています。収束が見えつつあるとはいえ、コロナ禍で先行きは不透明です。資金調達や事業計画を慎重に進める必要があると感じています。

――工務店は全国的に数も多く、後継者不足は深刻です。

建築業界はきつい仕事というイメージが先行してしまい、その家族は進んで跡を継ごうとしません。跡取りに期待していた子供がIT系の会社に就職した、などという声もよく聞こえてきます。廃業してしまうと、従業員の解雇や取引先との関係が途絶えるなど、多大な影響が出てしまいます。そうかといって、希望していない子供に無理やり引き継ぐこともできません。打開策を見いだせないまま、経営している会社が多いのです。住宅会社がその受け皿になるケースは増えるかもしれません。