行動制限長期化で今年のGDP成長率は3.8%にとどまる
ニッセイ基礎研究所 准主任研究員 / 高山 武士
週刊金融財政事情 2021年3月29日号
ユーロ圏の2020年10~12月期の経済成長率は前期比0.7%減となった。同年11月ごろから欧州各国がロックダウン(都市封鎖)などの行動制限措置を講じたためだ。同時期にプラスの経済成長を維持した日本や米国に比して、ユーロ圏は遅れをとるかたちとなった。
欧州に限ったことではないが、今後のコロナ禍からの回復で重要な役割を果たすのがワクチンだろう。経済の観点からは、医療崩壊リスクが後退し感染症対策としての行動制限措置が不要となるか否か、不要となるならそのタイミングが重要だ。
主要先進国でワクチン接種が進むのは米国と英国であり、発症リスク抑制の効果が広がれば今年中の行動制限措置の緩和が視野に入る。他方、EUは「夏の終わりまでに成人の70%以上」という接種目標を掲げているものの、実際の接種数は限定的だ(図表)。その背景には、EUが契約している英アストラゼネカ製のワクチンが当初の予定どおり供給されていないことなどがある。EUから離脱し接種が進む英国との確執は深まっているが、EUのワクチン調達計画が甘かった面も否定できない。加えて、EUが講じたワクチンの輸出制限は「ワクチン囲い込み」の印象を世界に広め、国際関係にも影響を及ぼしている。
筆者はユーロ圏で行動制限措置の緩和が可能となるのは来年以降になるとみている。欧州で緩和に対して慎重な国が多いのは、昨年末から英国で流行し、感染力や致死率が高いとされる変異株への警戒が背景にある。行動制限措置の緩和までは、コロナ禍の影響を受けにくい製造業などの産業を中心に経済は回復するものの、対面サービス産業については回復ペースが加速せず、K字型が続くかたちでの成長となるだろう。
今後の政策で注目されるのは、デジタルグリーン証明書(ワクチン接種証明)の実用化の動きだ。仮にワクチン普及が遅れても、ワクチン接種済みで発症リスクが低い人に対してのみ行動制限の緩和を認め、対面サービス消費を喚起することで、医療崩壊リスクを避けつつ経済正常化を進められる可能性がある。ワクチン接種者のみに行動制限を緩和することへの倫理的な課題や、実際に医療崩壊リスクを抑制できるのか未知数な部分はあるが、観光関連産業のシェアが高い南欧などで効果的に活用できれば、経済成長にプラスに働くだろう。
とはいえ、21年1~3月期のユーロ圏成長率は、依然として長期化する行動制限の影響を受けて、2四半期連続でのマイナス成長となるだろう。春以降は段階的な行動制限の緩和が期待できるものの、21年の成長率は前年比3.8%増と、20年の同6.6%減という大幅な落ち込みからの回復としては限定的なものになるとみている。
(提供:きんざいOnlineより)