総合建設業として商業施設をメインに様々なジャンルの施設を手掛けてきたのが、昨年創業90周年を迎えたイチケン(1847)だ。オリンピック需要は既に一巡。昨年からコロナ禍で大型ショッピングセンターやスーパーなどの在り方に新たな動きが生まれる中、蓄積してきた建築ノウハウを武器として、この先の変化の多い10年に立ち向かおうとしている。
売上の7割は商業施設
リニューアル工事注力
1930年、第一相互住宅の名で設立されたイチケンは、1979年にダイエーと提携、グループ企業として、最盛期の1996年3月期には1250億円を売り上げた。当時は売上の8割をダイエー関連が占めており、ダイエーの業績悪化に伴い一時は同社の経営も危ぶまれることとなる。以降、再起への道を模索する中で2004年からレジャー業界大手のマルハンが筆頭株主となり、業績も上向いていった。
現在では売上800億〜900億円台を推移しており、過去の教訓から、一社単独への依存は避ける方針をとっている。実際に、前期売上におけるマルハングループ向けは2%にも満たないという。
「マルハンは筆頭株主様ではありますが、受注の際も入札が基本で、一般のお客様の1社としてお付き合いをさせていただいております」(長谷川博之社長)
同社の場合、売上のうち公共工事が占める割合は数%程度とわずかで、大半が民間需要だ。売上の65〜70%は商業施設であり、マンションが20%、残りが医療系や文教系の施設だ。また、商業施設の工事のうち3割を占めるという改装・リニューアル工事は、その利益率の高さからも今後より一層注力していくと意気込む。
創業100周年の30年で
売上1000億円目標
同社の2020年3月期の売上は865億円、営業利益は44億円、経常利益は42億円。20年度から3カ年の中期経営計画では、2023年3月期で売上高900億円、営業利益44億円を掲げている。なお、2019年3月期に達成した売上高938億円は、オリンピック建設需要の間接的な恩恵を受けたもの。その際の利益率は、職人不足や資材の枯渇、派遣による一時的な増員などで、目標値に届かず、生産性と採算性の改善に努めてきた経緯がある。今回の中期経営計画では事業基盤の強化を図りながら、あらためて、自力での900億円、売上総利益率8%以上を目指す。また、創業100周年となる2030年度のグループ売上高1000億円に向けても、全社一丸となり取り組んでいこうとしている段階だ。
投資に関しては、前の中期経営計画では不動産事業への投資を含む90億円を投じたが、今回は3年間でそれを上回る100億円の投資を予定する。金額の規模としては不動産事業がメインとなるが、システム開発を含むDX(デジタルトランスフォーメーション)関連、人材採用・教育に注力して投資を継続していく方針という。
「今は、ジャンプアップをすぐするのではなく、ICT導入・推進や教育費、マネジメント力の強化といったところに投資をして事業基盤を整え、より採算性・生産性を上げて参りたいと思っています」(同氏)
コロナ禍で見直す社是
いかなる時も「創造性」を
同社の応接室には、額に入った経営理念が掲げられている。そこにあるのは、「いかなるときもクリエイティビティを発揮し」の文言だ。コロナ禍で新しい生活様式が求められ、大型商業施設も大きな変革を迫られる今、いかに企業としての創造性を発揮できるかが問われている。
「当社でもアミューズメント施設やスポーツジムは出店を控えており、ホテルも厳しくなっています。また、大型ショッピングセンターも、衣料や飲食のテナントさんが抜けています。一方伸びているのが、在宅関連であるスーパーマーケットやホームセンター、家電量販店、eコマース・ネット通販などの分野です」(同氏)
目先好調な店舗であっても、EC対応や企業のDX化により、今後は店舗の在り方そのものにも変化が出てくる可能性がある。
「たとえば、店舗では、商品を多数陳列するのではなく、バックヤードを大きくしてそこから配送するケースが増えるだとか、物流倉庫も大規模なものではなく拠点ごとに作りそこから配送していくといったように変わっていくのではないかと思います。実際に当社もスーパーのリニューアル工事が増えていますし、今後の需要もリニューアル、さらにはリモデルということになっていくのではないかと思います」(同氏)
同社がこれまで手掛けてきた物件は、小売・流通、商業施設はもちろん、物流倉庫、娯楽施設や温浴施設、スポーツ施設や冠婚葬祭の各種式場に至るまで、多岐にわたる。大きな強みである、躯体工事から附帯工事、内装工事まで全てを一気通貫でできる技術と、それらの現場で数十年にわたり積み上げてきたノウハウは、今後のクリエイティビティの発揮に欠かせないものと言えるだろう。
なお、株主還元については、2021年3月期は前期同様、年間配当90円を予定している。配当性向20%以上、ROE10%以上を基本的な方針とし、当面、自己資本の充実を目指した足場固めの時期とする見込みだ。
(提供=青潮出版株式会社)