片倉コープアグリ【4031・東1】3800種の肥料を展開する国内首位級 高付加価値化・異業種参入で利益率向上
小林 武雄社長

 2020年に創業100周年を迎えた片倉コープアグリ(4031)は、農業で使われる肥料の首位級メーカーだ。全国の営業拠点を通じて、地域に合わせた肥料を多数開発。近年は、農業従事者の負担軽減やドローンなどの新技術に対応した高付加価値肥料の開発に注力する。また肥料で培った素材ノウハウを、化粧品や無機素材といった異業種にも応用。「肥料」と「化学品」の両軸で、営業利益率を今期に5%台へ引き上げる計画を立てる。

小林 武雄社長
プロフィール◉こばやし・たけお
1957年長野県生まれ。81年慶応義塾大学法学部卒、同年丸紅入社。2002年国内電力事業部長、09年丸紅台湾社長、11年執行役員名古屋支社長、15年常務執行役員紙パルプ本部長、18年同素材グループCEO、19年同生活産業グループCEO就任。20年6月、片倉コープアグリ代表取締役社長就任(現任)。

創業100年の肥料業界代表

 片倉コープアグリは、草花や野菜などを育成させるのに不可欠な「肥料」の国内トップ級メーカー。原料を化学的に造粒した「化成肥料」や「液状肥料」、原料を物理的に混合した「配合肥料」など多様な製品を手掛けており、2019年時点の販売銘柄数は3800品目を超える。

 業界首位級を誇る同社の強みは、全国に点在する工場と営業拠点にある。片倉コープアグリは、果樹・園芸用肥料に強い「片倉チッカリン」と、米麦用肥料が得意の「コープケミカル」が15年に合併して設立。2社は商圏や取扱製品がほぼ重複していなかったため、この統合で規模が一気に拡大した。現在の肥料工場数は、北海道から九州まで13カ所。各所でそれぞれの土壌や気候に合わせた肥料を開発・販売し、シェアを獲得した。

「肥料は一般的に地産地消の製品です。それぞれの土地に合った肥料を作るには、特性やニーズに合った配合や開発が必要。搬送にかかるコストなども考慮すると、現地で開発・製造・販売を行うことが最も効率的です。当社は2社をルーツに持つため、全国拠点と幅広い製品群を保有している。これは大きな優位性といえますね」(小林武雄社長)

農業人口減と価格下落の二重苦

 前期業績は、売上高は375億円、営業利益は14億円。売上高をセグメント別にみると、肥料事業が8割を占めた。

 同事業のセグメント売上高は、前期比1%減の295億円。肥料は日本全国で底堅い需要はあるものの、課題となるのが農業従事者の減少だ。農林水産省によると、10年に260万人以上いた農業就業人口は、19年に168万人へと減少。このうち7割は65歳以上で、平均年齢は67歳となる。

「高齢化や後継者不足に加えて、近年は自然災害の頻発が農業に甚大な被害をもたらしています。様々な要因が重なり、国内の農業従事者は今後も減少していくでしょう」(同氏)

 合わせて痛手となるのが、肥料価格の下落だ。16年、農林水産省は「農業競争力強化プログラム」を決定。同プログラムは農業従事者の経営安定・収支改善を図る施策で、柱のひとつとして「肥料や農薬、資料、機械といった生活資材価格の引下げ」を掲げた。

 これに応じて、全国農業協同組合連合会(以下JA全農)は肥料の銘柄集約や新たな共同購入による価格引下げを実施。片倉コープアグリは売上高の63%をJA全農向けに販売するため、利益率は急悪化。16年3月期の営業利益率は3.2%だったが、17年3月期は1.6%となった。

独自技術で
農業の課題を打破

 事態打開に向け、同社は18~20年度の3カ年を対象に中期経営計画を策定。最終年となる今期に、売上高410億円、営業利益率5.1%を目指す計画だ。

 同計画の重点施策1つ目は「肥料事業のシェア拡大と価格競争力の強化」。そこで、近年は高付加価値製品の開発に注力している。 

 例えば、近年開発した製品のひとつが「てまいらずペースト」だ。稲作では、田植え前に与える肥料を「基肥」と呼び、成長に合わせて随時投与していく肥料を「追肥」と呼ぶ。しかし追肥は手間がかかるため、農業従事者の大きな負担になる。そこで同社は、基肥を与えるだけで肥効が長期間持続し追肥が省略できる基肥一発型肥料のペースト状製品を業界で初めて開発した。また近年注目されるスマート農業に向けては、農業機器メーカーと協業。無人ヘリやドローンに対応した新肥料の開発を進めている。

「他にも、基肥でも追肥でも使える流し込み肥料などを業界で初めて開発しています。このような独自で付加価値の高い製品は価格引き下げの対象にならず、一番の利益率アップ策だと思います。何より、核である肥料事業を通じて日本農業へ貢献するのは当社の使命。ゆくゆくは施肥請負などのサービスも手掛けたい」(同氏)

化粧品・無機素材で
商圏拡大

 重点施策2つ目は「化学品事業の拡販と収益力向上」。化学品事業の前期売上高は54億円で、売上構成比率は14%。同セグメント利益率は7.6%で、肥料事業の5.8%よりも高い。

 化学品事業で特に力を入れるのが、「化粧品原料」と「無機素材品」の2分野。まず「化粧品原料」では、30年に世界人口の約3割に達すると言われるムスリムマーケットに注目し、19年につくばファクトリーでHALAL認証(製造環境・品質・プロセスを含む全てがイスラム法に則っていることを認証する制度)を取得した。同ファクトリーでは、発酵技術などを応用した化粧品材料を開発。醗酵オリーブエキスや醗酵ワサビエキスなど、HALAL向け製品を20種類以上開発している。

 一方の「無機素材品」では、合成雲母という人工鉱石を開発した。これは天然に存在する雲母(火成岩や変成岩などに産する天然鉱物)の特性に加え、合成による新しい機能を有する素材。耐熱性や薄層化、平滑性の特性を持つため、化粧品や自動車、印刷材などで使用される。同社は顧客ニーズに沿った製品開発を行い、ラインナップの強化と海外展開を図る狙いだ。

「よく『肥料の会社がなぜ化粧品や鉱石を?』と言われますが、これまで様々な原料を扱ってきた知見が当社には豊富にある。これを生かし、健康食品用素材の開発も進めています。現在策定中の次期経営計画では、より積極的な施策を講じていきたい」(同氏)(提供=青潮出版株式会社