ペット保険の草分け的存在であるアニコムHD(8715)は、窓口精算システムを強みに拡大、保有契約件数は2020年9月末時点で87万件を超えた。コロナ禍においても新規契約獲得を順調に重ね、今期の業績は過去最高となる見通しだ。2019年からは、保険会社としての枠組みを超え、「予防型保険グループ」として成長すべく、次のステージへの移行を始めている。
15種の動物が引受対象
窓口精算型のペット保険
アニコムの2020年3月期の業績は、経常収益414.7億円、経常利益21.9億円、親会社株主に帰属する当期純利益は15.3億円。セグメントは損害保険事業の単一セグメントだ。今期、2021年3月期の業績は、経常収益456億円、経常収益29億円、純利益20.6億円と、過去最高を見込んでいる。
主力商品は、ペット保険である「アニコムどうぶつ健保」。動物病院の窓口でペットの保険証を提示するだけで、支払額が治療費のうちの自己負担分だけになるという、「窓口精算システム」が特長だ。同保険への対応病院は全国の動物病院の5割以上となる6500病院(※2020年12月末時点)にのぼる。窓口で一旦治療費用の全額を支払い、後日請求を行う従来型のシステムに比べ、飼い主の負担は金銭面、手続き面の両方で軽いというメリットもあり、同保険の契約頭数は順調に伸びている。加入している動物の保有契約件数を見てみると、2014年度の保有契約件数は54万4815件であったのが、2019年度には81万6254件となり、5年間で27万1439件増となっている。
引き受け対象となる動物には、2016年からはリスやハムスター、カメ、トカゲなどの多様な種類を追加。さらに、2019年3月からはチンチラや蛇も加わった。現在では、15種の動物が対象となっている。
孤独を癒す存在である
ペットは「心の発電所」
同社の2021年3月期において、上期の新規契約獲得件数は過去最高の10万件超えとなった。また、2020年9月末時点の保有契約件数は87万件で、前年同期比11.5%増を達成した。
業績好調な背景として小森伸昭社長は、ペットには、不安、孤独、無気力という3つに対する需要がある点を挙げる。人々の不安や孤独を癒す、物質的に満たされすぎたが故に無気力になってしまった現代人に生きる意味を与える、そうした存在が、ペットなのだ。コロナ禍では、なかでも孤独に対する需要が高まった。
「生命にとって一番こわいのは、一人きりになり、誰とも対話もできず、刺激もないこと。今回のコロナで、家から出るなとか密を避けろというのは『孤独の刑』なわけです。ペットは永遠の2歳児以上3歳児以下の存在。多くの人が、奥深い孤独を癒す、孤独な心の乾きを癒すことができるのがペットであることに気づき始めました。孤独を癒すというのは本当に難しく、社会にとってものすごく大事なことですが、それに対して、我が業界はひとつの適切な解を与えている。色々な業界がある中、温度があって匂いがあって手触りがあるものでないと、真の孤独は癒せないんです」(小森伸昭社長)
ペット保険のマーケットそのものがまだ整っていなかった20年前の創業時に比べ、明らかに変化したのは、ペットを心のよすがとし、ペットのために働いているという人も増えたこと。また、ペットとの共生を自分のアイデンティティと同等に感じている人が多くなった点だという。
「我々は、ペットは心の発電所だと言っています。世の中がギスギスして近代化する中で、人々の心を平常に取り戻して心の発電力をこれだけコスト安く直情的に与えられるというのは、ペット業界を置いて実は他にない」(同氏)
動物の腸内フローラを測定
健康維持へのサービス提供
同社では、順調に契約数を伸ばしている前述の「アニコムどうぶつ健保」のみの展開に留まらず、新たな保険商品も投入してきている。2017年10月には、入院と手術の補償に特化し、保険料をこれまでの約3分の1に抑えた「どうぶつ健保 ぷち」を、2019年10月には、新規加入対象年齢を8歳以上とし、入院と手術に特化した「どうぶつ健保しにあ」を打ち出した。
しかしその上で同社は、「クラシカルな保険会社」としての段階を終え、既に次のステージである「予防型保険グループ」への移行を始めている。大きな転換点となったのが、2018年12月から「どうぶつ健保」への無料付帯を開始した、「どうぶつ健活」(ペットの腸内フローラ測定+健康診断)だ。年に一度、契約者のペットに対し腸内フローラを測定、同じ種の動物の腸内フローラバランスの平均値と比較し腸内健康年齢を割り出す。ペットは元々近交弱勢による幼生成熟で体に疾患を抱えやすい性質があるが、アニコムグループが保有する多種多様なデータをもとに、病気のなりやすさについても判定を行っている。
そして、これらの新たな取組は、保険契約においてもプラスの効果をもたらしている。どうぶつ健活を利用した層の継続率は、全体と比較すると10ポイント程上振れているほか、2021年度のNB(0歳児)新規契約の継続率は前年度末に比べ3~4ポイント向上するなど、継続率の押し上げにも繋がった。
今後は、ペット保険事業とそれ以外の事業のシナジー効果により、さらなる発展的な展開を目指す。具体的には、同社が収集してきた独自のデータを解析し、その結果をもとに傷病の事前回避や疾病の早期発見、適正なブリーディング支援に繋げる。また、腸内フローラ測定での健康チェックの普及や、共生細菌をキーとしたフード開発、生活習慣コンサル、高度先進医療の実用化などを行うべく、既に取り組みを開始しているという。
(提供=青潮出版株式会社)