経営者や管理職の人にとって部下の育成方法は非常に悩ましい課題である。自分では良かれと思って言ったことが原因で、かえって部下のパフォーマンスを下げてしまうことは少なくない。そんな難しい人材育成において効果的なのがピグマリオン効果の活用だ。ピグマリオン効果を活用すれば部下のパフォーマンスややる気を損なうことなく育成を続けていくことが期待できる。

今回の記事では、そんなピグマリオン効果の意味や活用のコツを詳しく解説する。

ピグマリオン効果とは

部下のモチベーションを爆上げさせる方法 ピグマリオン効果を用いた6つの育成手段
(画像=ImagingL/stock.adobe.com)

まずは、ピグマリオン効果に関して最低限知っておくべき事柄(意味や由来、発見の経緯など)を紹介する。

ピグマリオン効果の意味

ピグマリオン効果とは、他人から期待を寄せられることによって勉強や仕事などのパフォーマンスが向上する心理的な効果である。例えば上司が部下に対して「君ならば良い結果を残してくれると期待している」などと声をかけることで部下がより優れた成績を残せるようになった場合には、ピグマリオン効果が発揮されたといえるだろう。

「ピグマリオン」という名前の由来

ピグマリオンという名前は、ギリシャ神話におけるキプロス島の王様「ピグマリオン」の逸話が由来となっている。その逸話とは「王様が自ら彫り上げた女性の像に恋をし本物の女性になることを願ったところ、それを見た神様が女性の像を本物の人間に変えてくれた」というものである。つまり「期待すればそれが実現する」というのがこの逸話の要旨だ。

そこから転じて「期待をかけると成果が高くなる」という効果から、「ピグマリオン効果」と名付けられたといわれている。

ピグマリオン効果が発見された経緯

ピグマリオン効果は、米の心理学者ローゼンタール氏が1964年に行った実験で発見されたといわれている。この実験は、ある小学校で子どもたちに知能テストを受けさせる形で行われた。その後、テストの結果とは関係なく無作為に数人の子どもを選定しその名簿を「今後成績が向上する生徒である」として担任の先生に伝えた。

つまりランダムに選定した子どもを「伸びしろがある子ども」として担任の先生に思い込ませたのである。その後、驚くべきことに「伸びしろがある」と伝えられた子どもたちは、ランダムに選ばれたにもかかわらず成績が伸びる結果となった。実験結果をまとめた論文内では、先生が伸びしろがあると信じ込んだ子どもたちに対して期待を持って接するようになったことが成績向上の要因であるとしている。

この実験をきっかけに教育やビジネスなど幅広い現場で「期待をかければ成績が上がる」という効果が広く認識されるようになったのだ。

ピグマリオン効果が効果を発揮する場面

ピグマリオン効果は、主に従業員や部下のモチベーションを高めたい場合に効果を発揮する。例えば営業部門で上司が部下に期待を寄せることで部下の営業成績が向上する効果が期待できるだろう。また総務や法務といった売上の獲得に直結しない部門でもピグマリオン効果を活かすことで業務の品質やスピードが向上する効果が見込める。

ピグマリオン効果と類似する理論3つとの違い

ピグマリオン効果と類似する理論として「ゴーレム効果」「ホーソン効果」「ハロー効果」と呼ばれるものがある。この章では、ピグマリオン効果とこれらの違いを解説する。

ゴーレム効果

ゴーレム効果とは、他人に対して期待できる要素がないと思うことで相手のパフォーマンスが低下する心理的効果を意味する。例えば従業員や部下に対して「仕事ができないね」「成長が感じられない」などと伝えることでさらに仕事の成績が低下する現象がゴーレム効果に該当する。つまりゴーレム効果は、ピグマリオン効果と正反対の効果というわけだ。

なおゴーレム効果は、ピグマリオン効果と同様にローゼンタール氏によって提唱された理論である。ゴーレムという名称は、呪文で動き出す意思を持たない泥人形の名前から来ている。「この泥人形からおでこにある文字を1文字取り除くと土に戻ってしまう」という性質がゴーレム効果の由来だ。

ホーソン効果

ホーソン効果とは、他人から注目されることでその期待に応えるために成果を発揮しようとする人の心理的効果を指す。例えば定期的に上司が部下にフィードバックを与えたり表彰制度を導入したりするとホーソン効果によって従業員や部下のやる気を高めやすくなるだろう。つまりホーソン効果とピグマリオン効果は、モチベーションやパフォーマンスが向上する要因に違いがあるといえる。

ホーソン効果は「注目」が要因となる一方でピグマリオン効果は「期待」が要因となるわけだ。

ハロー効果

ハロー効果とは、評価対象となる人物が持つ一部の特徴によってその他の部分に対する評価がゆがめられてしまう効果である。例えば「見た目が良い人は仕事ができる」「コミュニケーション力がある部下ほど営業がうまい」などと評価するのがハロー効果の最たる例だ。ハロー効果への対処を怠ると従業員や部下を正しく評価できなくなる恐れがあるため注意を要する。

例えばコミュニケーション力に難を抱える部下がいたとしよう。この部下に対して「コミュニケーションが苦手だから成果を残せないだろう」という理由で低い評価を下すと他の能力(傾聴力や問題解決力など)に秀でた人材を有効活用できず会社の業績に悪い影響を与えるリスクがある。また「能力がない」という前提で部下に接することでゴーレム効果により部下の能力が実際に低下するリスクも否めない。

つまりハロー効果は、従業員や部下に対する正当な評価や人材育成にとって妨げとなる要因というわけだ。ピグマリオン効果の獲得を目指すと同時にハロー効果の排除にも努めなくてはならない。

ピグマリオン効果で人材育成の効果を高めるコツ6つ

では一体、ピグマリオン効果をどのように活用すれば人材育成の効果を高めることができるのだろうか?この章では、ピグマリオン効果を駆使して部下のやる気や生産性を高めるコツを6つ紹介する。

1.常に肯定的な態度で接する
大前提として常に肯定的な態度で部下や従業員に接することがピグマリオン効果を発揮するうえでは不可欠だ。常に肯定的な態度で接することは、成果を出したときはもちろん失敗したときや成果を出さないときでも否定的な言葉を投げかけないということ。例えば同じミスを繰り返す部下に対しては「なんで同じことを繰り返すのか?」などと否定的な意見を投げかけるのはおすすめできない。

「このミスをなくせばより一層成果を出せるようになる」などと肯定的な態度で注意するのが好ましい。

2.成果のみならず目標達成までのプロセスも評価する
ピグマリオン効果を発揮するには、成果を発揮したときだけ褒めるのでは不十分である。なぜなら成果を発揮したときだけ褒めるやり方だと最初から優秀な人材だけがさらに優秀となり現時点で思うような結果を残せない人材の能力やモチベーションの向上にはつながりにくいからだ。成果を褒めるのはもちろん設定した目標を達成するまでのがんばりを評価することではじめて実績や能力に乏しい部下や従業員の能力・やる気の向上につながっていく。

3.裁量をより多く与える
常に期待を持って接すると同時に部下や従業員に対してより多くの裁量を与えることもピグマリオン効果を発揮するうえでは重要なコツである。例えば「君ならこの仕事をこなせる」と伝えたにもかかわらず細かい作業一つ一つについて上司から指示を与えたり上司からの許可が必要であったりする場合、部下は「本当は期待していないのではないか?」と疑問に思う可能性がある。

このような疑問を部下が抱いてしまうとピグマリオン効果が発揮されにくくなる可能性が高い。そのため部下や従業員に対して裁量を多く与えて本当に期待していると信じ込ませることが重要だ。

4.期待を抱きすぎない
ピグマリオン効果を得るためだからといって過度な期待を従業員や部下に抱くことは危険である。なぜなら過度な期待を持って接することでそれが相手にとって大きなプレッシャーとなるリスクがあるからだ。部下や従業員が大きなプレッシャーを感じるとかえってモチベーションや仕事の成果が下がってしまう事態になりかねない。

相手の能力や性格などを考慮して現実的に実現可能なレベルの課題や仕事に対してのみ期待を持つのが好ましい。

5.結果を出せないときはヒントを与える
期待をかけたからといって必ずしも部下の能力が向上したり期待通りの結果を出してくれたりするとは限らない。想定に反して結果を出せない部下がいる場合、上司は部下に対して結果を出すためのヒントを与えることが重要だ。ヒントもなしにただ待っていると結果を出せないことで部下の自信が損なわれてしまい仕事に対するモチベーションが低下する恐れがある。

そのような事態を避けるためにもヒントを随時提供してあげることで部下や従業員が良い成果を上げることをサポートすることが重要だ。

6.公平な評価制度を設ける
直接的にピグマリオン効果を活用するうえでは関係ないが公平な評価制度も人材育成の効果を高めるうえでは非常に大切である。仮に期待をかけて社員が従来よりも良い成果を出しても公平な評価制度(≒成果を出すことで評価が上がる)がないと社員は「がんばって結果を出しても評価してもらえない」という考えに至る可能性が高い。

その結果、次からは期待をかけてもがんばってもらえなくなり、成績にも悪影響をきたすリスクがある。このような事態を避けるためにも努力や結果に応じて評価が上がる公平な評価制度をしっかりと設けることが望ましい。

適切な部下のマネジメントで業績向上へ

ピグマリオン効果を活用すれば従業員や部下の人材育成においてより大きな成果を上げることが期待できる。最終的には、業績の向上にも結びつくため、経営者や管理職の人は、ぜひピグマリオン効果を意識して人材育成に努めてみよう。 (提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)