そもそも論として、プライベートバンクがお取引頂く超富裕層の金融資産の規模は千万円単位や億円単位ではなく、従って単一の資産クラスに絞って投資出来るような規模ではない。個人金融資産と言っても数十億円は当たり前、数百億円や数千億円という規模の超富裕層はグローバルにみたら数え切れないほどいる。その超富裕層と世界中で取引しているのがグローバルに展開するプライベートバンクであり、そのノウハウや提案内容が一般のリテール金融機関のそれと違ってくるのは、ある意味当然のことと言える。

「富裕層が行っている国際分散投資」などと昨今よく耳にするが、そんなことは必然であって、あらためて言うまでも無い。仮にそうした投資家が「日本株」だけに投資をしている図を想像してみて欲しい。その投資家の動きだけで中小型株ならば小さな投資信託の売買よりもマーケット・インパクトを与えてしまう。何より、そもそもポートフォリオとしてリスクが偏り過ぎてしまう。

だから自ずと株式と債券、そしてオルタナティブ(代替資産)と呼ばれる資産クラスに分けて投資せざるを得ない。「国際分散投資」をプライベートバンクが売り込んでいるから超富裕層がそうしているといよりも、その規模から結果的にそうならざるを得ないとも言える。

そうした状況の中で、プライベートバンクが他社と競い合って自社のお客様になって貰い、末永くお付き合い頂く唯一の方法は、その超富裕層のニーズに適った資産運用のご提案を綿々と続け、より良い成果をあげ続け、そして心地良くインベストメント・ジャーニーを続けて頂く他に方法が無い。答えは一切の情実もなく、厳然とパフォーマンスという数値で示されてしまうのだから。

超富裕層の「リスク許容度」についてどう考えるか?

富裕層ビジネス,金融
(画像=makaron* / pixta, ZUU online)

少し余談になるが、ファンドマネージャーの世界では極めて当然なパフォーマンス測定という考え方が、リテール向けの金融機関ではあまり一般的なものではないようだ。筆者はインベストメント・ソリューション・チームを率いている時、実は初めてそれを知って驚いた。勿論「儲かった、損した」という概念はある。トータルリターンとして実現損益や評価損益、或いは受取配当金や受取利息というのはどこの金融機関でも把握してお客様にお伝えしている。だが、例えば暦年ごとの総合損益が当初の狙い通りのものなのか、或いは合理的な結果となっているものなのかどうか、といったことはまず計測されていない。ましてやファンドマネージャーの成績評価のように、任意の一定期間における総合損益が、市場の動きに対して勝っているのか、或いは劣っているのか、それは合理的なリスクテイクの結果なのかという評価概念は全くない。これが業界の暗黒面を生むひとつの理由だと思っているが、この件については別途論じさせて頂く。

話は戻って、そこでパフォーマンスを上げるために何より重要となってくるのがアセット・アロケーションだ。「アセット・アロケーションがパフォーマンスの約8割を決める」というのが常識の世界において、どんな資産配分比率をお客様に最適なものとして提案出来るか、各プライベートバンクが必死で凌ぎを削る理由はここにある。その意味では年金の受託を競う運用機関とプライベートバンクのインベストメント・ソリューション・チームの置かれている状況は同じだ。

アセット・アロケーションが投資家毎に適したものかどうかを測る尺度として「リスク許容度」があるのはご高配の通りだ。一般的には先祖代々伝わる金融資産が主な背景資産の場合、資産運用の重要な目的はインフレ率に負けないようにすることである。この場合の「リスク許容度」は当然あまり高くはない。

一方で、その超富裕層が一代で築き上げた資産で、引き続きその財を築き上げた本業を営まれているような場合、まだまだ充分に攻めの姿勢が続いている場合が多く、そうした場合は一般的に「リスク許容度」はそれなりに高い。と言っても、ポートフォリオとして年率20%も30%もの高い期待リターンを狙ったりはしない。ある時期にそうした実績をあげることが出来たとしても、それは結果論であって、アセット・アロケーションを決める時の設計要件ではない。何故なら、設計要件として高い期待リターンを求めると、当然にしてそれに見合ったリスクを背負ってしまうからだ。