株式投資の魅力は、投資先の選択肢の豊富さにあります。たとえば東京証券取引所に上場している株式会社は、2020年10月16日現在で3,728社に上ります。上場株式は発行済み株式数や流動性により大型株・中型株・小型株に区分され、それぞれにリスクとリターンの大きさも異なります。
資金の大きさによって投資戦略は大きく変わります。ここでは資金100万円で株式投資を行う際の、最適な戦略について考えてみましょう。
許容できるリスクから、あなたの投資戦略を決定しよう
株式投資では、投資家の資金量とリスク許容度に応じて、さまざまな特徴を持つ銘柄を組み合わせ、投資戦略を設定していきます。このとき投資の目的、つまりリターンをどのように狙うかが重要となります。資金を短期間で増やすことを目指すのであれば、購入価格と売却価格の差益である「キャピタルゲイン」を重視した戦略を採ることになります。
キャピタルゲインを狙う場合、セオリーは中型株や小型株への投資ですが、ハイリスク・ハイリターンを求める場合は、株価が100円を切り「ボロ株」とも呼ばれる超低位株に投資する方法もあります。
資金100万円の株式投資で大きな満足を得るには、求めるリターンと許容可能なリスクについて、投資方針を定めることが第一歩となります。
安定の大企業か、成長力の新興企業か
日本最大の証券取引所である東京証券取引所(東証)には、複数の証券取引所が開設されています。
企業にとって株式の上場や売買は、返済不用の資金を確保する重要な資金調達方法ですが、大企業と新興企業に同じ基準で上場審査を行うと、資金調達を急ぐ新興企業の成長が阻害される恐れがあります。
新興企業は高い成長性を持ち、株価も大きく上昇する可能性がありますが、経営環境の変化により財務状態が一気に悪化するリスクと背中合わせです。とはいえ、リスクを抱えているからという理由で上場が認められなかったり、資金調達に時間がかかったりするのであれば、優良な新興企業の成長の芽は積まれてしまいます。
そのため、異なる審査基準による複数の取引所を開設することで、企業の成長段階に合った資金調達が可能になっているのです。要件で上場審査を行うため、さまざまな証券取引所が開設されています。これにより投資家には、多様なリスクとリターンの選択肢がもたらされています。
銘柄選びには、上場している証券取引所も判断基準
東証で開設されている主な証券取引所は下記の通りです。
- 市場第一部:大企業が多く集まる。高いコンプライアンスとガバナンスが求められる
- 市場第二部:第一部への上場を狙う中堅企業が集まる
- JASDAQスタンダード:一定の規模と実力を獲得した成長企業が上場する
- マザーズ:高い成長性により、市場第一部へのステップアップを狙う新興企業が集まる
- JASDAQグロース:特色ある技術やユニークなビジネスモデルで、大きな成長可能性のある企業が集まる
安定した運用を行いたい場合は、市場第一部や市場第二部、またはJASDAQスタンダードに上場している銘柄から一定以上の事業規模を有する企業を選ぶのが一般的です。
一方、ある程度のリスクを許容して株価の大幅な値上がりを狙うなら、企業の成長に期待しマザーズやJASDAQグロースの銘柄から選ぶことになります。とくにマザーズは高い成長性を有した企業が集まっており、他の取引所よりも大きなリターンを生みやすい傾向があります。
大型株・中型株・小型株の特徴
東京証券取引所に上場されている株式銘柄は「規模別株価指数」により、時価総額と流動性に応じて大型株・中型株・小型株に区分されています。
- 大型株:時価総額と流動性の高い上位100銘柄
- 中型株:大型株に次ぐ上位400銘柄
- 小型株:それ以外の銘柄
売買の活発さを表す指標が「流動性」ですが、大型株は発行済み株式数が多く取引が活発に行われているため流動性が高く、大口注文でも売買が成立しやすい傾向があります。企業規模も大きく、多少の好悪材料では業績が急変しないため、中型株や小型株に比べれば値動きは緩やかです。
対して中型株と小型株は、発行済み株式数が少なく流動性も低いため、ちょっとした材料でも株価が変動しやすい傾向があります。法律で禁止されながらも完全な抑止が難しい「見せ玉(みせぎょく:大量の売り買い注文と取り消しでほかの投資家の取引を誘う技法)」など市場操縦の影響を受けやすく、資金力のある投資家の思惑によって、正常な株価や相場形成が妨げられてしまうケースもあります。
リターンとリスクで選ぶ投資戦略
リターンとリスクから投資戦略を組み立てると、実際にはどのようなものになるのでしょうか。特徴に合った戦略を銘柄区分ごとに例示します。
大型株:低リスクで確実なインカムゲインを狙う
株価の値動きが比較的緩やかな大型株に投資し、「インカムゲイン(配当金や株主優待など、保有により得られる利益)」を主な収益とした戦略です。
当期の純利益の何%を配当金に充てているかを示す指標が「配当性向」ですが、この値の大きい株式に投資することで高いリターンが期待できます。また電力、鉄道、通信網などインフラ分野は事業の安定性が高いため、この業種の大型株への投資は低リスクで安定したリターンをもたらす傾向があります。
とはいえその企業が公募増資を行い株式価値が希薄化してしまった場合や、市場競争力が鈍化してしまった場合などは、株価が低迷することもあります。銘柄の厳選だけでなく、購入後も経営状態や市場環境の変化などを継続的にチェックすることが重要です。
中・小型株でのグロース投資:長期的なキャピタルゲインを狙う
キャピタルゲインは企業価値の向上や成長によりさらに高まるため、成長段階にある企業の銘柄への投資が有力な選択肢となり、このような手法を「グロース投資」といいます。マザーズやJASDAQグロースに上場されている銘柄は成長性に期待が持てますし、より上位の証券取引所への上場変更といった好材料も株価には反映されるので、グロース投資はそういった恩恵を受けやすい手法です。
ただし事業規模が小さいほど、経営者の手腕や、商品・サービスの優劣で大きく業績が左右するので、成長性を担保する要因を確認し、良好な状態であるかどうかを継続的にチェックすることが大切です。
中・小型株を中心にした短期トレード:短期間での高収益を狙う
グロース投資は企業の成長を待つ投資手法のため、目標達成まではある程度の時間がかかり、すぐに収益を上げたい人には不向きといえます。短期間で収益を上げたい場合は、デイトレードなどの短期売買に比重を置く必要があります。
キャピタルゲイン狙いである以上、株価が安いタイミングで買い、高いタイミングで売ることが基本となるのは同じですが、短期トレードでは取得株数を増やし損益幅を大きくするために、しばしば「信用取引」も用いられています。信用取引では、現金や保有している株式を担保として差し入れることで、担保の最大3.3倍までの取引を行うことができます。通常の取引で購入した有価証券を「代用有価証券」として差し入れることも可能で、上場株式で時価の80%、国債では95%が担保額となります。
仮に株価100円の銘柄を100万円で1万株購入し、これを担保に同じ銘柄で信用取引を行ったとすると、取得できる株式は現物取引の1万株と信用取引の2万6,400株の合計3万6,400株となります。その分リスクも高まりますが、信用制度を利用することで取引の規模を大きくすることができます。
また現物取引では株価の値上がりでしか利益を得ることができませんが、信用取引では値下がりでも利益を得ることができます。株式を証券会社から借りて売却し、決済期日までに買い戻す「空売り」により、高く売り安く買い戻すことができればその差益を得ることができます。
ただし短期売買では、取引回数の増加や信用取引などで、手数料負担も大きくなりがちです。手数料の安いネット証券会社などを利用するなど、手数料負担の軽減が課題となります。また信用取引は損失も増幅させてしまうため、資金を大きく上回る損失を被る恐れもあります。許容できるリスクをしっかりと定め、その枠内で取引することが鉄則といえるでしょう。
中・大型株を中心とした株主優待:株式投資ならではのメリット
株主を対象とした「株主優待」を実施している企業も多く、その企業の商品・サービスを優待価格で購入できたり、ノベルティが得られたりするメリットがあります。日常的に利用している商品・サービスを提供する企業の株式を取得すれば、優待により支出を削減することも可能で、金銭的なリターンとみなすこともできます。
低リスクで大きなリターンを狙えるIPO投資
短期的に大きなリターンを狙う株式投資では、相応のリスクを許容する必要がありますが、比較的低リスクで大きなリターンを狙えるのが、IPO(新規上場株式)への投資です。
企業が株式を証券取引所に新規上場する際は、まず公募価格を決めたうえで購入者を募集します。その後、実際に上場すると株式市場で取引価格が付き、これを「初値」といいます。厳しい審査を通ったIPOは、高確率で初値が公募価格を上回っており、数倍の初値を付ける銘柄も少なくありません。
公募価格で株式を購入し、初値で売却することができれば高収益が期待できるIPOですが、それだけに投資家の人気も高く、多くの場合は高倍率の抽選に当選しないと購入できません。
IPO投資に必要となることも。資金力に見合った証券会社選び
IPO公募へは、新規上場を担当する主幹事の証券会社を通じて応募します。店頭での対面営業を行う大手証券会社では、投資実績や資金量に応じて営業担当者が投資家に割り当てる「裁量配分」も行われていますが、それ以外は抽選に当選しないと購入できません。
大きなリターンが期待される銘柄ほど応募者が多く、当選倍率も高くなりますが、まずはIPOの主幹事件数の多い証券会社を選び、当選の可能性を上げる必要があります。
抽選は機械により無作為に行われますが、大きくは一口ごとに抽選権が1つ与えられる「口数比例方式」と、証券口座ごとに抽選券が1つずつ与えられる「平等抽選方式」に分かれます。前者は資金が大きいほど当選確率が上がりますが、後者は手持ち資金の影響を受けません。
資金が大きくないうちは平等抽選方式の証券会社を利用し、ある程度の資金ができたら口数比例方式の会社を利用することで、当選確率を少しでも向上させることができます。抽選に外れれば費用はかからないので、IPO投資のリスクそのものは小さいといえます。
IPOに強いネット証券
IPOの主幹事会社をネット証券が担当する機会も増えており、2019年はSBI証券が年間82社のIPOを担当し、主幹事実績でトップとなりました。また、45社の主幹事を担当したマネックス証券は、すべての抽選が100%平等抽選方式で行われるため、資金力に関わらずチャンスは平等です。
また、口数比例方式を採用するSBI証券でも、IPOに応募するたびに「IPOチャレンジポイント」が付与され、ポイントが高いほど次回以降の当選確率が高まる仕組みとなっています。平等抽選方式やポイント優遇を採用するネット証券会社は、資金量の小さな投資家に向いているといえます。
ネット証券会社は売買手数料も比較的安価なため、IPO投資はもちろん、他の投資でも少コストでの運用が可能です。
多様な選択肢から、リスク・リターンなどに応じた投資戦略を
株式投資は銘柄だけでなく、企業規模や取引手法によってさまざまな投資戦略を採ることができる資産運用方法です。一般にリターンの大きな手法はリスクも高くなりますが、抽選というプロセスさえくぐり抜ければローリスクでハイリターンが望めるIPO市場も活性化しつつあり、資金の小さな個人投資家でも多様な選択肢から自分に合った戦略を選べるところに魅力があります。
文・菊原 浩司
2級ファイナンシャルプランニング技能士、一種証券外務員資格保有、管理業務主任者 人生のお金の設計図であるマネープランには、マイホームの取得や養育費の準備、老後資金の確保といった問題に対処するため、資産運用やリスク対策の為に各種保険を利用していく必要があります。 複雑化するマネープランに対し、PDCA【Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)】サイクルを利用したコンサルタントを行っている
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