投資信託で資産運用を始めたい、と考えた時には証券会社などの金融機関で証券口座の開設する必要がありますが、開設できる証券口座には「特定口座」と「一般口座」の2種類があるのをご存じでしょうか。今回はそれぞれの口座の特徴や違い、特定口座のメリット・デメリットをお伝えします。

投資信託証券口座には特定口座と一般口座の2種類ある

投資信託をはじめ、株式・債券・REITなどの金融商品で資産運用を行う場合には、証券口座を経由して売買を行います。例えば投資信託の買付を行う場合には、「特定口座」と「一般口座」のどちらの口座を利用して買付をするかを選択することになります。

以前は特定口座と一般口座の区分はありませんでしたが、2002年度に特定口座制度が創設され、2003年度から特定口座が利用できるようになりました。厳密には「非課税口座(NISA・つみたてNISA)」及び「未成年者口座(ジュニアNISA)」も選択可能ですが、今回は特定口座と一般口座についてお伝えします。

投資信託で資産運用を行い、後に売却などをすることで得た利益(譲渡益など)には税金がかかります。投資信託は税務上2つに分類され、その種類によって税金のかかり方が異なりますので、はじめに税務上の分類を含めた投資信託の種類についてお伝えします。

また、原則として証券口座で投資信託の取引を行った場合には、その取引によって生じた1年間の譲渡損益を自身で計算し、翌年に確定申告を行う必要があります。投資信託の運用によって得た利益にはどのような税金がかかるのかも合わせてお伝えします。

投資信託の種類

・a:税務上の分類
投資信託は税務上「株式投資信託」と「公社債投資信託」に分類されます。株式投資信託は商品の約款上、株式を組み入れて投資を行っても良い旨が記載されている投資信託となります。国内外の債券を中心に運用を行っている投資信託もありますが、約款上に株式の組み入れが可能となっている場合には株式投資信託に分類されます。それに対して公社債投資信託は、株式を一切組み入れずに運用を行う投資信託となっており、「MMF」「MRF」などが該当します。

・b:形態による分類
こちらは「契約型」と「会社型」に分類されます。契約型は、運用会社と信託銀行が信託契約を結び組成される投資信託で、日本ではこの契約型が主流となっています。会社型は、投資を目的とした法人を設立して組成される投資信託(投資法人)となり、J-REIT(不動産投資法人)などが会社型に該当します。

・c:購入期間による分類
「単位型」と「追加型」に分類され、単位型は新しく投資信託が組成され、その際に設定される定められた購入期間(当初募集期間)にのみ購入できる投資信託で、その期間を過ぎた後は購入することができません。それに対して追加型は、原則として投資信託が運用されている期間中であればいつでも購入できる投資信託となっています。

・d:購入者による分類
「公募」と「私募」に分類され、公募は一般投資家を始め多くの投資家が購入できる投資信託ですが、私募は機関投資家など、ごく少数の投資家向けに組成された投資信託となります。

・e:払戻の可否による分類
「オープンエンド型」は原則として運用期間中の払い戻しが可能な投資信託で、自由に売買が可能なのに対して、「クローズドエンド型」は運用期間中の払い戻しができない投資信託となっています。

このように、投資信託は税務上をはじめ様々な分類をすることができます。例えば投資信託によって、「追加型公募株式投資信託」「単位型私募公社債投資信託」などと分類されることになります。

投資信託の税制

投資信託によって得られる利益には、購入後に売却(換金)などを行った場合の譲渡益の他に、投資信託によっては「分配金(収益分配金)」があります。分配金とはその投資信託で収益が出た場合、一部を購入者に還元するもので、分配金の設定がある商品とない商品があります。

また、年間に分配金が支払われる回数も商品によって異なります。今回は一般投資家が購入できる公募株式投資信託、公募公社債投資信託それぞれの税制についてお伝えします。

・a:公募株式投資信託の税制

譲渡益に対する税金
「譲渡所得」に区分され、譲渡益に対して所得税(復興特別所得税を含む)・住民税合わせて20.315%が課税されます。

収益分配金に対する税金
公募株式投資信託の収益分配金には、課税扱いとなる「普通分配金」と、非課税扱いとなる「元本払戻金(特別分配金)」に区分されます。

収益分配金支払い後の基準価額が、購入者の個別元本と同額又は上回っている場合には、収益分配金の全額が「普通分配金」となり課税対象となります。その分配金は「配当所得」に区分され、所得税(復興特別所得税を含む)・住民税合わせて20.315%が課税されます。

一方で収益分配金支払い後の基準価額が、購入者の個別元本を下回っている場合には、その下回る部分の額は「元本払戻金(特別分配金)」となります。受け取った収益分配金から元本払戻金(特別分配金)を控除した額が普通分配金となり、同様に配当所得に区分されますが、元本払戻金(特別分配金)は非課税扱いとなります。

・b:公募公社債投資信託の税制

譲渡益に対する税金
公募株式投資信託と同様に「譲渡所得」に区分され、譲渡益に対して所得税(復興特別所得税を含む)・住民税合わせて20.315%が課税されます。

収益分配金に対する税金
公募公社債投資信託の収益分配金は、普通分配金や特別分配金といった区分はなく、受け取った額は「利子所得」に区分され、所得税(復興特別所得税を含む)・住民税合わせて20.315%が課税されます。

このように、利益が出た場合にはそれぞれ税金がかかることになります。

では次に、一般口座と特定口座の概要や違いについてお伝えします。

一般口座とは

原則として投資信託の取引によって生じた1年間の譲渡損益を自身で計算し、翌年に確定申告を行う必要がある、と先述しましたが、この一般口座で取引を行い損益が発生した場合には確定申告が必要となります。証券会社に口座を開設する際はこの一般口座が開設される他、後述する「特定口座」を開設するか否かを選択できます。

特定口座を開設しない場合は一般口座を通じて取引を行い、開設をした場合にも取引ごとに、一般口座と特定口座のどちらを使って取引を行うか選択することができます。

なお一般口座での損益についての確定申告の際は、次の項目を「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」に記載し提出する必要があります。

  1. 譲渡年月日(償還日)
  2. 譲渡した投資信託の銘柄
  3. 数量(口数)
  4. 譲渡先(金融商品取引業者等)の所在地・名称等
  5. 譲渡による収入金額
  6. 取得費(取得価額)
  7. 譲渡のための委託手数料
  8. 取得年月日

以上のような購入した投資信託の情報について、売却時まで把握しておく必要があります。1種類の投資信託だけでも手間がかかりますが、複数の投資信託を購入した場合には、その種類の分だけ情報を把握しておく必要があります。

さらに、同一の投資信託を積立などで複数回購入した場合には、すでに保有している投資信託の取得金額と、新たに購入した投資信託の取得金額をそのつど加重平均していく「総平均法に準ずる方法」で計算する必要があるため、取得費の計算方法が複雑になる場合があります。

このような計算を売却した投資信託ごとに行い、さらにそれを合計して年間の譲渡所得・譲渡損失の額を申告することになりますので、一般口座では投資信託の取引のすべてについて自身で管理・把握をしていくこととなります。

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特定口座とは

このように一般口座での取引は、管理や確定申告の手続きなどが煩雑となるため、個人投資家の申告・納税手続きなどを簡素化する目的で創設されたのが「特定口座制度」です。特定口座は証券会社などで口座開設をする際に合わせて開設でき、次の2つのうちいずれかを選択することになります。

1.簡易申告口座(源泉徴収なし)

簡易申告口座を選択すると、この口座を通じて行なわれた投資信託の損益については、特定口座以外で売却した他の投資信託等の所得と区分して計算されます。この計算は証券会社などが行い、1年間の取引は「特定口座年間取引報告書」にまとめられ毎年交付を受けることができます。

この報告書は所轄の税務署にも交付され、確定申告の際は一般口座のように「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」の提出は必要なく、報告書の添付が明細書の作成・提出の代わりとなります。一般口座の場合に行う複雑な計算や管理をせずに、簡易な申告ができるのが文字通り簡易申告口座となります。

2.源泉徴収口座(源泉徴収あり)

さらに簡易申告口座ではなく源泉徴収口座を選択した場合には、その口座内で譲渡益と譲渡損との通算は「売却取引の都度」行われます。利益が出た場合には所得税(復興特別所得税を含む)・住民税合わせて20.315%が源泉徴収され、損失が出た場合には徴収された税金の還付などが口座内で行われます。

なお、簡易申告口座と同様に1年間の取引内容をまとめた「特定口座年間取引報告書」が交付されますが、利益が出ている場合にはすでに源泉徴収が行われ税金を納めていますので、原則確定申告が不要となります。

また、前述の通り投資信託には分配金を受け取れる商品がありますが、この源泉徴収口座で分配金を受け取るように選択できます。証券会社等に「源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書」を提出すれば、投資信託の分配金や株式の配当金等を受け取る際にも源泉徴収が行われます。

この分配金等を源泉徴収口座で受け取るように選択すると、1年間の譲渡損益がマイナスだった場合には、年間の譲渡損と分配金等の総額を口座内で「損益通算」することができます。

例えば年間の譲渡損が50万円、分配金等の総額が150万円だったとします。分配金等の総額に対しては20.315%が源泉徴収され、30万4,725円を支払っていますが、損益通算をすることによって分配金等の総額150万円-譲渡損50万円=100万円を配当所得とでき、源泉徴収税額は100万円×20.315%=20万3,150円となります。この金額と先に源泉徴収された30万4,725円の差額の10万1,575円が還付されることになります。

このように源泉徴収口座では、利益が出た場合にも損失が出た場合にも、口座内で源泉徴収や「損益通算」を行えます。ただし、上記の例では年間の譲渡損が分配金等の総額を下回っていたため、譲渡損の全額を分配金等の総額と相殺することができましたが、譲渡損が分配金等の総額を上回ってしまうケースも考えられます。この場合には譲渡損を全額控除できませんが、もし「一般口座」や「他の証券会社等の口座」に譲渡益がある場合には、確定申告をすれば損益通算をすることもできます。

さらに、他の口座と損益通算ができない場合や損益通算をしても譲渡損が残っている場合には、こちらも確定申告をすることによって「譲渡損失の繰越控除」の適用を受けられます。損失が出た年の翌年以降3年間は損失を繰り越すことができ、譲渡益や分配金等から控除できます。その分、翌年以降の源泉徴収税額を少なくできますが、譲渡損失が残っている期間は毎年確定申告を行う必要があります。

上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除

上場株式等(投資信託を含みます)を売却したことなどにより生じた損失(譲渡損失)がある場合は、確定申告により、その年の配当所得など(投資信託の分配金を含みます)の金額(配当所得については「申告分離課税」を選択する必要があります)と損益通算ができます。

※簡易申告口座では確定申告が必要ですが、源泉徴収口座では自動通算が行われます。

また、損益通算してもなお控除しきれない損失の額については、翌年以降3年間にわたり確定申告により譲渡所得の金額及び配当所得等の金額から繰越控除できます。繰越控除は、まず譲渡所得等の金額から控除し、なお控除しきれない損失の額がある時には配当所得等の金額から控除します。

※簡易申告口座・源泉徴収口座共に繰越控除額がある限り、翌年以降の譲渡所得の有無に関わらず最大で3年間は確定申告を行う必要があります。

このように特定口座には、自身で確定申告を行う「簡易申告口座(源泉徴収なし)」と、原則確定申告の必要がない「源泉徴収口座(源泉徴収あり)」の2つがあります。口座開設時にどちらかを選択した後の翌年以降、毎年どちらの口座を使って取引をするかを選択することもできます。ただし選択できるのはその年の最初の譲渡の時までとなります。さらに源泉徴収口座から簡易申告口座への変更は、分配金等が発生する前のどちらか早いほうまでとなります。

特定口座と一般口座の違い

これまで一般口座と2種類の特定口座の内容をお伝えしましたが、この3種類の口座の主な違いを表にまとめました。

  特定口座 一般口座
源泉徴収口座(源泉徴収あり) 簡易申告口座(源泉徴収なし)
譲渡益・分配金等に対する源泉徴収 あり(20.315%) なし なし
確定申告 原則不要(申告も可) 譲渡益がある場合は必要 譲渡益がある場合は必要
取引ごとの譲渡益と譲渡損の通算 口座内で自動通算 自動通算されない 自動通算されない
譲渡損と分配金等との損益通算(源泉徴収分の還付) 口座内で自動通算(分配金を受け取る選択をした場合) 確定申告により還付が可能 確定申告により還付が可能
特定口座年間取引報告書 発行される 発行される 発行されない
譲渡損失の3年間繰越控除 毎年の確定申告が必要 毎年の確定申告が必要 毎年の確定申告が必要

源泉徴収口座は譲渡損失が出た際に、他の口座と損益通算をする場合や損失を翌年以降に繰り越す場合など、確定申告を行うケースは限られています。一方で一般口座は譲渡益が出た場合はもちろん、譲渡損失が出た場合にも損益通算や繰越控除を活用すると思いますので、原則毎年確定申告を行う必要があります。簡易申告口座は確定申告をする必要があるものの、特定口座年間取引報告書が発行されるため、面倒な計算や管理が必要なく、手間や管理などの面でいえば源泉徴収口座と一般口座との中間といったイメージになります。

それでは次に、特定口座を活用することによってどのようなメリット・デメリットがあるのか、それぞれまとめてお伝えします。

特定口座を持つことのメリット

・1.源泉徴収口座のメリット
繰り返しになりますが、口座内で譲渡損益が自動通算され所得税と住民税が源泉徴収されますので、取引ごとの損益の計算や確定申告による納税の手間などを省くことができます。特にこれから投資を始める場合には計算・管理・申告などに不慣れなこともあると思いますので、活用するメリットは大きいのではないでしょうか。

・2. 簡易申告口座のメリット
口座の損益の管理は特定口座年間取引報告書によって行えるため、取引ごとの損益計算は不要です。確定申告の際も報告書を添付することによって簡易的に手続きを行うことができます。また、例えば給与所得者で収入が2,000万円以下の場合は、年間の譲渡益と給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円以下ならば確定申告は不要となります。簡易申告口座は源泉徴収が行われませんので、譲渡益の全額を利益として受け取ることも可能となります。ただし、住民税の確定申告については別途必要となります。

特定口座を持つことのデメリット

・1.源泉徴収口座のデメリット
デメリットとして考えられるのは簡易申告口座と逆に、給与所得者で収入が2,000万円以下、年間の譲渡益が20万円以下のケースです。簡易申告口座であれば確定申告が不要で譲渡益の全額を受け取れますが、源泉徴収口座の場合には源泉徴収後の金額を受け取ることになり、本来は払う必要のない税金を差し引かれてしまうことになります。

・2. 簡易申告口座のデメリット
譲渡益が出た場合には簡易的であれ確定申告が必要となる他、譲渡益は「合計所得金額」に加えられるため、扶養控除や配偶者控除の対象から外れて自身や配偶者などの住民税が上がってしまうケースも考えられます。又、国民健康保険料や介護保険料などにも影響する可能性があります。

投資初心者こそ特定口座を選ぼう

特定口座にはこのようなメリット・デメリットがありますが、一般口座と比較して管理や手続きの面では利便性が高いといえます。投資を始めて間もない時期に、一般口座の活用にハードルの高さを感じるのであれば、まずは特定口座を活用して売買の方法や資産の管理方法などを身につけ、投資の感覚がつかめてきた後に一般口座を活用することを検討してもよいでしょう。

使い分けのコツを知ることが大事

今回お伝えした3つの口座の特徴や違いなどはご理解いただけましたでしょうか。特定口座は2種類あり、1年の最初の売却を行うまでは簡易申告口座と源泉徴収口座を自由に選択することができます。例えば、今年は「売却の予定があまりなさそうなので簡易申告口座」、「売却益が結構出そうなので源泉徴収口座」といった具合に、年によって口座を使い分けることも可能です。取引自体が少ない場合には、勉強のために一般口座で取引をしてみてもよいかもしれません。実際に使ってみることで損益通算や確定申告の方法などが学べますので、手間や時間がかかるかもしれませんが、長い目で見ると資産管理などのノウハウを身につけることも可能となります。

証券口座との正しい付き合い方

このように自身の投資の経験や目的などによって証券口座と上手に付き合っていくことが大切となります。また、証券口座は1つの証券会社だけではなく、複数の会社で開設することも可能です。証券会社によって購入できる商品や利用できるサービスなどはさまざまですので、まずは投資をスタートしたうえで証券口座の使い方を身につけ、その後、複数の証券口座の開設を検討してもよいかもしれません。

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FP事務所FP EYE代表 澤田
1971年生まれ、東京都出身。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中

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