要旨
日本の総人口は、概算値で2021年5月は前年比▲0.42%と人口ピークになってから最大のマイナス幅である。この原因は、コロナ禍での死者数の増加ではなく、外国人数の流入が停止したことにある。コロナ直前は外国人は前年比11%増だった。今後、外国人労働力の流入再開を念頭に置いて、ワクチン・パスポートの整備が重要性を増すだろう。
人口減少の加速
人口統計に少しばかり異変が起こっている。2021年5月初の総人口(概算値)が、直近データである。1年前の総人口と比べると、前年比▲0.42%であった(図表1)。確定値は2020年12月が前年比▲0.39%である。総人口がピーク(2008年12月)を付けてからは、単月でみて最大のマイナス幅である。詳しく調べてないが、おそらく、第二次世界大戦の1945年以降では、最大の総人口のマイナス幅であろう。
筆者は、この急減はコロナ禍での死者数の増加によるものだと直感した。しかし、調べると、コロナ禍の直接的な死亡者数が原因ではないようだ。前年比▲0.42%を実数の減少数で示すと、年間▲53.5万人であった。これに対し、2020年3月頃から始まったコロナ禍の死者数は現在に至るまで1.2万人である。このことは、コロナ禍以外に人口減少の要因があることを暗示させる。
また、2020年12月までの確定値データでは、日本人の減少率は▲0.40%(12月)となっている(図表2)。マイナス幅は過去1年程度はほとんど拡大してはいない。むしろ、コロナ禍でマイナス幅は若干縮小している。これは、2019年末から僅かに出生数が増加したことが原因である。自然減が急拡大している訳ではない。
その原因は、過去数年間、増加してきた外国人※(=総人口-日本人)が2020年春から鈍化し、冬には前年比マイナスに転じたことにある(図表3)。
※外国人数は、出入国在留管理庁の入国者数-出国者数の累計。日本国内滞在期間が3か月以内の者を除いている。そのため、コロナ禍の影響は約3か月遅れで反映すると考えられる。
この外国人の減少は、外国人の出入国を2020年3・4月以降は停止させたことにある。これは感染対策のためである。
それ以前、2016~2019年は外国人の流入超過幅が大きかった。2020年は、外国人の流入超過傾向が流出方向に向かう。経済的背景としては、緊急事態宣言で飲食店などサービス産業で、外国人労働力を求めなくなったことがある。限界的な労働需要の減少は、外国人労働力への依存度を弱めて、それが総人口の減少を引き起こしているのだ。これは、緊急事態宣言でサービス需要が落ち込むというコロナ禍の間接的効果のためであろう。
外国人労働力の三回目の試練
人口動態の変化は、自然動態と社会動態の2つの要因がある。社会動態は、好不況に伴う日本への外国人労働力の流出入によって動かされることが多い。過去を振り返ると、外国人が減少した経験は、リーマンショック後の2009年と、東日本大震災後の2011年の2度あった。震災後は、正確に言えば、不況というよりも、原発事故の放射能を心配した日本離れだった。今回は、コロナ禍で日本の感染拡大を恐れてというよりは、外国人が働き口を失うというケースが大部分を占めていることだろう。コロナ禍での外国人の流出は、日本国内での緊急事態宣言が長期化するほどに進むとみられる。まだ、統計データが明らかになっていない2021年中は、前年比マイナス幅がさらに拡大することになるだろう。
実はコロナ禍直後の2020年3月は、外国人の増加率は前年比11.0%と極めて高い伸び率を記録していた。総人口は、2020年3月までは外国人の流入によって大きく嵩上げされていた。それがコロナ禍が顕在化して、緊急事態宣言のあった2020年5月になると、前年比5%前後まで鈍化して、冬にはマイナスに転じた(2020年12月前年比▲0.12%・直近値)。
一昔前、日本の人口の自然減に対して、単純労働力を含めた移民解禁を望む声を聞いた。しかし、一旦、不況などの混乱が起こると、外国人は国外に流出してしまうことが多い。また、単純労働力の移民は、日本国内で不況で失職したとき、なかなか待遇のよい転職先を発見できずに、貧困にあえぐことが多い。コロナ禍のようなことが起こると、筆者は移民推進論の見えにくい影の部分を心配してしまう。
外国人は戻ってくるか
今後のことを考えてみよう。インバウンドを含めて、外国人の日本国内への流入は、しばらくは極端に低迷するだろう(五輪期間前後を除く)。これは、感染防止のための水際対策が当面継続されるからだ。労働需要も回復しにくいだろう。ワクチン接種は、国内だけではなく、海外でも進捗するのを待たなくてはいけない。そして、ワクチン接種が完了した者から、入国認めていくことになるはずだ。その際に重要になるのは、やはりワクチン・パスポートである。海外のワクチン接種記録を確認した上で、その人に入国許可を与える。こうしたシステムの手当てができない限りは、かつてのような新規の外国人の大規模な流入は見込めないだろう。将来、景気回復が進んでいく時のニーズを考えながら、海外政府との間で、ワクチン接種の情報確認のためのシステム整備を行っていかなくてはいけない。
この問題は同時に、日本人が海外渡航を再開するときに、ワクチン接種記録を海外の空港などで提示する必要性へと連動する。それがなければ、海外での自宅待機など手間のかかる対応を日本人が強いられるだろう。日本政府としても、海外からの要請に基づいて、内外移動の際のワクチン・パスポートを早急に整備することを求められるはずだ。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生