M&Aに関する主な支援策の現状
中小企業のM&Aの活用、オープンイノベーションとしてのM&Aの活用を普及させるべく、さまざまな公的支援がある。
M&A実施による税務上の支援
・中小企業の経営資源の集約化に資する税制(経営資源集約化税制)
経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、計画に基づいてM&Aを実施した場合、以下のようなことが可能になる。
①設備投資額の税額控除(投資額の10%又は7%)か即時償却
②M&Aに伴う労働移転で2.5%以上賃金を引き上げた場合の税額控除(増額分の25%)
③投資額の70%以下の準備金の積み立て
①は、既存の中小企業経営強化税制のD類型として追加されるものである。C類型に、テレワーク等のデジタル化設備があったことは、記憶にある方もいるのではないだろうか。
②は、既存の所得拡大税制の上乗せ措置と考えてよい。
③は、積み立て時に全額を損金扱いし、取り崩し時に益金算入するという、課税の繰延べ効果のある税務支援である。
・オープンイノベーション税制
スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す企業が、5年以上の株式保有を予定する1億円以上(1件あたりの額。中小企業は1,000万円以上)の出資をした場合、株式の取得価額の25%の所得控除を受けられる制度である。CVCからの投資や外国法人への投資も、要件を満たせば対象になる。
税務申告時、経済産業大臣の証明が必要となるため、同省への事前相談の上で実施することが一般的な流れとなる。
M&Aのリスク回避の支援
・DD費用の補助金
M&Aでは、買収した相手企業の思わぬ簿外債務によって、期待していたシナジー効果を生み出せないばかりか業績がかえって悪化するリスクがある。
こういったM&Aのリスクを回避する施策がデューデリジェンス(DD)の実施だが、これには法務や税務など異なる分野の専門家の知識と視点が必要であり、依頼料が高額になりやすい。
事業承継・引き継ぎ補助金では、金額に上限はあるが、専門家費用としてDD費用を含むM&Aの費用を、2分の1まで補助対象としている。ただし、一部の業務は「M&A 支援機関登録制度」に登録された業者に対するものに限り補助対象となる。
興味のある方は、最新の公募要領で確認いただきたい。
・表明保証保険
M&Aでは、売り手側にも「表明保証」のリスクがある。「表明保証」とは、売り手が買い手に開示事項に虚偽がないことを表明し、それを保証することだ。
M&A契約では、表明保証に関する条項とともに、それに違反した場合は賠償責任を負う旨の条項が設けられることが一般的である。
しかし、DDを尽くしても発見できない偶発的な事象もあり、特に中小企業ではDDに割くコストが限られることから、この賠償リスクがM&Aの安心感を損ねている一因と考えられている。
いくつかの民間の保険会社では、この賠償責任をカバーする表明保証保険を提供している。国もこうした保険が普及することで、適切なDDの拡大やM&Aのリスクの実態把握が期待できるとし、この保険料を事業承継・引き継ぎ補助金の補助対象に含める形で支援している。