M&Aは企業買収のひとつとして知られているが、敵対的買収などのイメージもあって敬遠する経営者も少なくない。しかし、後継者不足が叫ばれる日本において、M&Aによる第三者承継は不可欠である。本記事では、M&Aの現状や歴史について政府指標を参考に解説し、主な支援策について紹介する。
目次
統計からみるM&Aの現状
M&Aの件数の推移
2021年版『中小企業白書』に(株)レコフデータの調べによる、国内の大企業・中小企業を合わせた企業全体のM&Aの件数が掲載されている。それによると、M&Aの件数は、2011年の1,687件から9年間連続で増加し、2019年には4,000件を超えて過去最高となった。
2020年は10年ぶりに前年比マイナスとなったが、それでも3,730件であり、新型コロナウイルスの影響を受けたとしても、M&Aの件数は非常に高い件数で推移しているといえる。
公的なデータで判明している件数でこの状況であるため、日本のM&Aが、活発化していることがわかる。
M&A件数が増加した要因
M&Aの2000年~2006年ころまでの増加理由の1つに、1990年代に行われた法改正が挙げられる。1997年、日本の経済活動をより活発にするために独占禁止法の改正が行われ、持株会社の解禁と大規模会社の株式保有総額制限から持株会社が除外された。
また、1999年・2001年の商法改正で、株式交換と株式移転制度、会社分割が導入され、煩雑であった持株会社の設立手続きや分社化の手続きが簡素化され、他社の買収や組織再編が容易になった。
2006年の2,775件から増加が一旦止まり、リーマンショックが発生した2008年に2,399件まで減少し、2011年まで下降したが、それ以降は増加に転じている。
M&Aの近年の増加については、日本の人口減少による国内市場の縮小とグローバル化の流れから、国際競争力を高める戦略実現のために、M&Aという選択が再び注目を集めていることが考えられる。
もう少し細かい要因を挙げるなら、経済産業省や中小企業庁が公開する統計を見る限り、中小企業のM&Aの増加や、外国企業を対象としたM&Aの増加が関係していると捉えられる。
中小企業のM&Aの増加
全国に設置された、M&A等の公的な相談機関にあたる「事業承継・引継ぎ支援センター」では、第三者に事業を引き継ぎたい中小企業者の相談やマッチング支援を行っている。
2021年版『中小企業白書』 に掲載されている同センターの相談社数と成約件数の推移を見ると、2011年度から2020年度まで急増していることがわかる。
同センターの設置が2011年度であるため、もちろん認知度向上も関係しているだろう。それでもM&Aの2014年度では成約件数102件であるところ、2019年度は1,176件、2020年は年度の途中であるにもかかわらず、1,234件となっている。このことから、中小企業のM&Aのニーズが増加していることがわかる。
この増加の背景には、中小企業の後継者不足があると考えられる。
2019年11月開催の「事業引継ぎガイドライン改訂検討会」で配布された公開資料によると、2025年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の3分の1)が後継者未定となっている。
翌月2019年12月に経済産業省から発表された「第三者承継支援総合パッケージ」では、中小企業にM&Aを普及させるための総合的な支援策を掲げ、この支援によって、10年間で60万者の第三者承継の実現を目指すとしている。
外国企業へのM&Aも増加傾向
国内企業だけでなく、日本企業が外国企業を買収する「IN‐OUT」のM&Aの件数も増加傾向にある。
経済産業省の『我が国企業による海外M&A研究会報告書」から、(株)レコフデータの調べによるM&A件数のデータをもとに、2000年から2017年の間におけるマーケット別のM&A件数の推移が確認できる。
【M&Aのマーケットの区分】
・IN‐IN(買い手:日本企業‐売り手:日本企業)
・IN‐OUT(買い手:日本企業‐売り手:外国企業)
・OUT‐IN(買い手:外国企業‐売り手:日本企業)
2009年の「IN‐OUT」のM&A件数の内訳は299件であるが、2010年に371件、2011年に455件と伸び、2013年にいったん減少するもおおむね増加傾向が見られ、2017年は672件となっている。
また、「IN‐OUT」のM&A件数だけでなく成約金額の内訳にも注目すると、M&Aの金額が公開されている案件がベースとなるが、IN‐OUTの金額は他の2区分よりも高い。
たとえば、2017年は、「IN‐IN」が2,199、「IN‐OUT」が7,480、「OUT‐IN」が3,664である。単位は10億円なので「IN‐OUT」の総額は、約7兆円となる。件数は「IN‐IN」より少ないが、海外進出の動きが大きいことが見て取れる。
(参考)経済産業省HP: 海外M&A等「我が国企業による海外M&A研究会報告書」
M&Aはスタートアップ企業の成長手段としても活用される
経済産業省は、ベンチャーの創業・成長促進のための取り組みを実施しているが、その中で、大企業等とスタートアップ企業のM&Aをオープンイノベーションの手段として検討している。
・オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとは、異業種・異分野の他社がもつ技術やアイデアを自社に取り込み、革新的なビジネスにつなげる方法のことである。つまり、イノベーションの担い手として期待されるスタートアップ企業に大企業等が積極的にM&Aを行うことで、互いの成長を目指すというのが企画の趣旨である。
経済産業省のホームページで公開されている『大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」では、日本は海外に比べて、スタートアップ企業のイグジットとしてM&Aが少ないことが指摘されている。
日本のイグジットはIPOが多く、M&AとIPOの比率は3:7であるが、アメリカではこれが9:1であるという。
アメリカのGAFAMに代表されるような大企業は、スタートアップ企業に対して積極的にM&Aを行い、非連続的な成長を遂げている。
(参考)経済産業省HP:大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書
日本企業は、いわゆる「自前主義」の傾向が強いとされ、自社開発を優先しやすいとされているが、M&Aを活用するには、オープンイノベーションの活用を自社の中長期的な成長戦略として組み込むという、経営者の視点が求められる。
・イグジットとは
「イグジット」とは、ベンチャー企業への投資家が、投資額を回収することを意味し、「エグジット」と表記される場合もある。投資額を回収は、IPOでは上場により市場に売却することで、M&Aでは他の企業に売却することで行われる。なお、M&AとIPOを組み合わせた「二段階イグジット」もある。