要旨
- 2022年の春闘賃上げ率を1.98%と、21年の1.86%から伸びが高まると予測する。背景にあるのは経済状況の改善。21年春闘では、大幅に悪化した20年度の業績を元に交渉が実施されたことからベースアップを見送る企業が続出し、ベアはほぼゼロにとどまっていたが、足元で企業業績は大幅に改善しているため、22年はベアを復活させる企業が増えるだろう。
- もっとも、コロナ前の伸びには距離が残る結果となる可能性が高く、コロナ前回復は23年以降に持ち越しとなる。企業によって業績のバラつきが大きいことから、業種の横並びや各社一律の賃金引き上げは現実的でなく、業績が悪化する企業ではベアの実施は引き続き困難。業績が好調な企業では賃上げが見込まれるが、ベアの大幅増額までは難しい。依然として先行き不透明感が強いなか、経営側は固定費の最たるものである基本給の大幅引き上げには踏み切りにくい。
- 春闘では、月例給与に加えてボーナスについても交渉が行われる。21年度の業績改善を受けて22年のボーナスは夏・冬とも伸びが高まるとみられる。22年は、小幅とはいえ月例給与の引き上げが行われること、ボーナスが増加することなど、21年と比べて賃金を取り巻く環境の改善が見込まれる。この点は、個人消費にとって好材料。
- 懸念されるのが生活必需品価格の上昇。原油等の資源価格の上昇により、エネルギー価格、食料品価格等で今後上昇が見込まれる。コストプッシュ型の物価上昇により家計の実質購買力が毀損され、個人消費回復の頭を押さえる可能性があることに注意が必要。
2022年の春闘賃上げ率を1.98%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。春闘賃上げ率は2014年から2019年にかけて2%台で推移し、2%超えが定着しつつあったが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、2020年は2.00%(19年:2.18%)、2021年は1.86%と、2年連続で伸びを大きく低下させていた(伸び率縮小は3年連続)。一方、2022年の春闘賃上げ率は4年ぶりに伸びが高まることが予想される。なお、賃上げのうち定期昇給部分は1.8%程度とされる。2022年は小幅とはいえベースアップが実現するだろう。
背景にあるのは経済状況の改善だ。2021年春闘では、極めて業況が厳しく、大幅に悪化した2020年度の業績を元に交渉が実施されたことからベアを見送る企業が続出し、ベースアップはほぼゼロにとどまっていた。一方、足元で企業業績は大幅に改善しているため、2022年はベアを復活させる企業も増えるだろう。また、政府は分配政策の目玉として賃上げを掲げており、税制優遇の拡充の検討に加え、企業にも強く賃上げを求めている。こうした政府の姿勢も幾分押し上げに繋がる可能性がある。
もっとも、前年から改善が見込まれるとはいえ、コロナ前の伸びには距離が残る結果となる可能性が高い。新型コロナウイルスによるショックが一様なものではなかったことから、企業によって業績のバラつきが大きくなっていることが背景にある。業種の横並びや各社一律の賃金引き上げは現実的ではなく、業績が悪化する企業ではベアの実施は引き続き困難だろう。
また、業績が好調な企業でもベアの大幅増額は難しい。新型コロナウイルスの感染再拡大への懸念、資源価格高騰による業績悪化リスク、中国経済減速懸念等、リスク要因は多く存在しており、春闘の交渉が本格化する2~3月の段階で先行き不透明感が払拭される状況になることは見込み難い。経営側としては、先行き不透明感が強いなかで固定費の最たるものである基本給の大幅引き上げには踏み切りにくく、賃上げには慎重になるだろう。消費者物価指数(コア)は2021年度に前年比横ばい程度にとどまると見込まれるなど、物価面からの後押しが期待できないこともマイナス材料だ。
結果として、春闘賃上げ率は前年から高まるが、改善幅は限定的なものにとどまるだろう。コロナ前の伸び回復は2023年以降に持ち越しとなる。
春闘では、月例給与に加えてボーナスについても交渉が行われることが多い。2021年冬のボーナスは前年比+0.7%と小幅な伸びにとどまると予想しているが、2022年のボーナスは夏・冬とも改善が見込まれる。ボーナスは業績動向を比較的素直に反映することから、2021年度の増益を受けて伸びが高まる可能性が高い。
2022年は、小幅とはいえ月例給与の引き上げが行われること、ボーナスが増加することなど、2021年と比べて賃金を取り巻く環境は改善が見込まれる。この点は、個人消費にとって好材料だ。
一方で懸念されるのが生活必需品価格の上昇である。原油等、資源価格の上昇が続いており、今後、ガソリン、灯油などに加え、電気・ガス代などで伸びが大きく高まる可能性が高い。食料品価格の上昇も見込まれている。こうしたコストプッシュ型の物価上昇により家計の実質購買力が毀損され、個人消費回復の頭を押さえる可能性があることに注意が必要である。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 経済調査部部長・主席エコノミスト 新家 義貴