ビジネス界をリードする経営者は、今の時代をどんな視点で見ているのか、どこにビジネスチャンスを見出し、アプローチしようとしているのか。特集「次代を見とおす先覚者の視点」では、現在の事業や未来構想について上場企業経営者にインタビュー。読者にビジネストレンドと現代を生き抜いていくためのヒントを提供する。

会社員としてのキャリアを捨て、1985年に30才で起業。代表の下平雄二氏が裸一貫で立ち上げた土木管理総合試験所は民間では数少ない土質・地質調査会社として、今や全国にネットワークをもつ東証一部上場企業へと成長した。

現在では土質・地質調査会社だけでなく、測量・設計、コンクリートや鋼の非破壊試験や環境試験、防災システムと幅広い事業を展開。社会インフラ全体の整備に寄与し、設立以来36年間、業績は連続成長という優良企業だ。たった一代で上場企業を築き上げた下平氏に、時代を超えて躍進する経営者としての矜持と未来像を伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

株式会社土木管理総合試験所
(画像=株式会社土木管理総合試験所)
下平 雄二(しもだいら・ゆうじ)
株式会社土木管理総合試験所代表取締役社長
1955年生まれ
京都府出身
1985年に長野県長野市にて当社創業
ALL OKを掲げて建設コンサルタント業を展開
当初は土質試験を中心に活動し、お客様の要望に応じて取り扱い業務を拡大
非破壊試験(コンクリート、鋼)
環境試験(環境アセス等)
等々
土木建築分野で必要となる調査・試験・分析に幅広く対応することで、ワンストップサービスを実現
以降、拠点展開を進めるとともに事業を拡大
2015年東証2部上場
2016年東証1部指定
以降、既存の建設コンサルタント業の枠にとらわれることなく、新規事業の立上げM&Aの実施を進め業界のリーディングカンパニーを目指すとともに、インフラの維持管理問題、自然災害の激甚化に対する防災減災に対応にも取組む

公的機関に依存していた土質・地質検査を民間がサポートするビジネスモデルを確立

――貴社の創業から現在までの状況をお聞かせください。

株式会社土木管理総合試験所

学生時代から土質・地質といわれる分野が好きで、20代の頃は得意分野を生かして名古屋にある企業に勤務していました。当時は60才が定年でしたから、30才は折り返し地点。ここで奮起するのも一つの人生だと、30才で起業を決意しました。

選んだ場所は縁もゆかりもない長野。当時はインフラが整っておらず、これから10年、20年と少しずつ整備されるだろうと思いました。自身の経験を生かし、物理的な土質・地質調査で長野の発展にかかわっていきたい。そんな想いを胸にスタートしたのです。

当時、室内における土の分析・検査は、基本的には公的な機関や大学に発注するというのが常でした。ゼネコンの中には自社で検査機能を持っている場合もありますが、1年中フル稼働することはないのに維持コストはかかる。お金を生み出す部署ではないわけです。それなら我々民間企業で受託するという流れを作れれば、多くのニーズをつかめるはずだと。こうして、民間では珍しい室内調査とフィールド調査を行う土質・地質調査事業をスタートさせたのです。

土木建築の現場では土だけでなく鉄やメタルといったさまざまな構造物を使います。お客さまからのご要望と共に我々は領域を拡大。土質調査の枠を超え、次第に構造物を総合的に試験する分野へ進出しました。現在は社会インフラ全体の調査や環境分野へ幅を広げています。

2015年に東証二部へ上場、翌年10月には東証一部へ指定替えを行いました。現在は長野と東京それぞれに本社を置く「2本社体制」のもと、国内とベトナムを含む17支店、5社の連結子会社、そしてFCは10店舗まで拡大しています。

迫られる防災対策と社会インフラの老朽化でニーズが拡大

――民間で試験事業を行ったのは先駆的な試みだったのですね。近年では深刻な自然災害や社会インフラの老朽化も問題となっていますが、業界やニーズに変化はあったのでしょうか?

気候変動により災害が激甚化していますね。インフラが整備された状態であるにもかかわらず、甚大な被害が出ている現状を考えると、将来的にも被害の発生は避けられないように感じています。そうした中、業界全体で防災に対する取り組みを進めているのですが、大きな課題の一つに「少子高齢化」があります。

土木建設にかかわる人材は決して増えていませんから、将来コアとなって活躍する人材育成ができない。ここが一番危惧しているところです。人材不足が続けば技術の継承もままならず、防災対策への迅速な対応ができる企業が少なくなっていくのではないかと心配しています。

特に山を抱えている長野県は日本有数の地滑り地帯です。災害時には国と県、市町村連携で24時間対応するというケースが増えています。堅実な対策を講じるために、山の動きなどの調査が増えてくると思います。

社会インフラに関しては高度経済成長期から50年以上が経ち、橋やトンネル、道路で床板の落下や陥没といった障害が起きています。どんなにしっかり作られたものもいつかは劣化します。まさに今、対策が必要なものもあれば、新しく作られたものも将来は必ず対策が必要になります。実際に公共事業予算の多くはストックに対するメンテナンスにシフトしていますから、我々もニーズに合わせて対応しなければならないと考えています。

当社では公共事業も手掛けながら、ゼネコンを中心とした設計会社からのご依頼も受け付けております。民間からのご依頼では、建築や環境関係の調査案件がありますね。顧客の割合としては純粋な民間は2割程度、元請けが1~2割、残りが公共の一次請け業務になります。

創業以来続けている新卒採用。上場によって文系学生・女性からの応募が増加

――土木建設業界の人手不足という問題にも触れられましたが、貴社の採用活動はどのような状況でしょうか? オリジナルアニメの動画配信といったユニークな採用広報も行っていらっしゃいますね。

当社も決して楽な状況ではないながらも、かなりの数の学生からご応募いただいています。アニメは採用広報の一環として利用していますが、当社では創業以来、新卒採用を続けてきました。コツコツと継続してきたことも功を奏しているのではないかと思います。

以前は社名のイメージが先行していたのか、説明会の参加者は100人中95人が理系学生でしたが、上場してからは文系学生や女性の割合が増え始めました。地元である長野県からはもちろん、全国から学生が集まってくれていることは非常にありがたいですね。当社の知名度や信頼度が向上して、技術職だけでなく営業職でも活躍できることを知ってもらえたのかなと思います。

――2015年8月に東証二部へ上場、2016年10月に東証一部銘柄に指定されましたが、上場を機に感じた変化はありましたか?

社員の意識が上がってきたと感じますね。地方の上場会社ということで地元の株主様も多く、地域ぐるみで応援していただいています。街ですれ違えば声を掛けてくださるような場面もありますし、モチベーションアップにつながっているのでしょう。

先進的なテクノロジーの研究開発で社会インフラの安全を確保する

――今後の将来的な構想についてお聞かせください。

以前より海外展開を進めていたのですが、コロナ禍で情報も入りにくくなってしまいました。現在はベトナムのみですが、コロナが落ち着いたら東南アジアを中心にエリアを拡大していく構想があります。

また今後は、当社の強みである「技術力」とICTを生かした取り組みも発展させていきます。具体的には道路の路面下情報のビッグデータ化を進めています。特に橋の床板調査はAI技術を用いた先駆的なものです。現在は作業者が橋を叩きながらコンクリートの反響を調査していますが、1ヵ月と長期に及び、橋の交通を止めなければいけないという問題があります。
開発中の技術は、橋上を瞬時に走行してデータ取得から解析まで行うというものです。ライフサイクルコストも削減できるとともに短時間で結果が出せますから、次のステップへ早くたどり着けるようになります。この技術は大事に育てて世の中へ提供したいですね。

公共物件は、道路や橋以外にもトンネルや河川もあります。ICT活用で可視化できれば、人海戦術から脱却し、遠隔監視で安全を確保できるようになります。技術精度を高め、テクノロジーで必要な情報を提供できるようなれば、インフラストックの公共事業費も抑えられますし、社会インフラの長寿命化につながるのではないかと考えています。我々は社会インフラを守るためのシステム化に挑戦していきます。

技術推進の取り組みとして、近年はラボを増設しています。2020年には初めての取り組みとしてDKCラボを立ち上げました。東京大学と連携しながら、AIなどの最新技術の研究を進めています。さらに2021年10月には苫小牧に新しいラボがオープンしました。FC店を含め外部企業との共同開発や研究によって新技術での社会貢献を目指しています。

株式会社土木管理総合試験所

少子高齢化に伴う業界の人材不足に対しては、FC化が解決の一助となるのではないかと考えています。FC化は地域活性化に貢献するための取り組みであり、全国展開を進めていきます。我々が長年培ってきた独自のノウハウをFC契約で地域の建設業者へ提供し、「街の一番店」を目指していただく。一番店になれば人材確保の面でも良い影響を及ぼせるはずです。

当社の技術やノウハウは積極的に他社に継承していきたいです。自分たちのことばかりでなく業界のことも考えながら、みんなで一緒に頑張っていきたいと思っています。

36年連続成長の秘訣は「着実に、地道に」

――一代で一部上場企業を築き上げた下平様ですが、日頃経営者として大事にされていることを教えてください。

当社は36年間継続して右肩上がりに成長しています。極端に売り上げが2倍、3倍、5倍ということではないですが、着実に業績を上げてきました。これは私の経営理念でもある「着実に、地道に一歩ずつ堅実に仕事をする」という姿勢が強みになり、成長につながった証ではないかと思います。今後も変わることなく、着実に進めていきます。

特別なことはしていませんが、経営者として日々アンテナを高く、吸収しようという気持ちを大事にしています。出張が多いので、新幹線や飛行機に乗る1~2時間は読書にあてています。情報を仕入れる貴重な時間です。

コロナ禍で以前のようにはいきませんが、人と会って情報を得ることは多いかもしれません。商談でも商談でなくても、お声がけをいただいたらお断りすることはほぼありません。社員との打ち合わせや交流も当然大事にしています。

一日の終わりにはジャズや落語を聞きながら一杯飲む、というのが楽しみです。長野はおいしい日本酒がたくさんありますが、血糖値に配慮してウイスキーや焼酎を嗜むようになりました。このひとときで気持ちをリセットする、というのが日々のルーティンですね。

――最後に、ご覧のみなさんへひとことお願いします。

我々の事業は急激に成長するようなものではありません。社会に着実に根付いた形で、安全・安心なまちづくりに貢献する、SDGsにつながる会社であると考えています。さらにテクノロジー活用により、エリアや分野を広げて社会貢献ができる可能性も秘めています。投資にご興味をお持ちの方には、息が長く、実直に成長する企業として関心を持っていただければ幸いです。

プロフィール

氏名
下平 雄二
会社名
株式会社土木管理総合試験所
役職
代表取締役社長
出身校
山梨大学 大学院 工学研究科