シンカー:おはよう寺ちゃんの会田の経済分析(加筆修正済み)

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

【アーカイブ放送のYoutubeリンク】 https://youtu.be/PcLY_Prk6Zw (1月7日放送分)

問:きのうの東京証券取引所で日経平均株価は急落して、終値は前の日に比べて844円29銭安の2万8487円87銭でした。
※アメリカの中央銀行にあたるFRBが開いた会合で、金融の引き締めを急ぐ可能性が示されたことなどから、ほぼ全面安となった。
※年明け最初の取引となる4日の大発会では、景気拡大への期待から510円以上の値上がりをみせたわけですが…、国内では新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増えています。この株の動き、どうご覧になっていますか?

答:12月の半ばから米国の長期の金利が上昇を始めました。
その背景には、オミクロン株の影響はあるものの、経済活動の回復と企業収益の拡大は堅調であるという認識がありました。
日本と米国の金利差の拡大が円安につながり、日本株は年初まで上昇しました。
しかし、FRBが金融引き締めへの動きをマーケットの予想より早く行う可能性が示されたことで、米国の金利は更に上昇し、今度は、その金利の上昇が景気を抑制するのではないかとの不安が生れ、株式市場は反落しました。
金利上昇のマーケットの解釈が変わった感があります。

問:そして、今年の春闘をめぐる動きですが、経済3団体の新年祝賀会に出席した岸田総理は「攻めの姿勢で協力をお願いする」と述べ、企業トップに賃金引き上げを改めて要請しました。
※コロナ禍からの景気回復には中間層への分配が欠かせないとの考えを示し、自身が掲げる「新しい資本主義」の実現に意欲を見せた。
※岸田政権が期待する賃上げについて出席した経営者からは前向きな意見が目立った。業績が堅調な金融界からは「3%引き上げる方向で検討している」と、具体的な水準に言及する経営者もいた。
※経営者からは、コロナ禍で傷ついた経済が回復しつつある現状を踏まえ、経済の先行きに対する明るい見通しが目立ったことについてはどう捉えていますか?

答:日本では経済活動の再開の動きが鈍く、政府の経済対策の決定も遅れました。
7-9月期の実質GDPは前期比年率-3.6%と落ち込みました。
しかし、10-12月期からようやく経済活動の回復がみられ、プラス成長に戻るとみられます。
そして、経済対策の効果もこれから現れます。
OECDの予測では、2022年の日本の成長率は+3.4%となります。
米国とユーロ圏は2021年から減速しますが、日本は2021年の+1.8%からの加速が予想されています。
企業のビジネスにも追い風になるとみられます。

問:ただ今年の春闘を控え、企業の賃上げに対する姿勢に温度差が目立ってきています。
※業績好調な企業からは前向きな受け止めが出たが、サービス・消費関連企業は慎重姿勢を崩さない。
※岸田総理の要請に全面的に応じられないのは、コロナ禍によって企業の業績格差が広がっていることが背景にある。
※例えば航空会社の社長は「ベアは難しい。黒字化とセットで賃金水準を戻していく」と述べた。
※足元で復調しつつある消費の現場に近い企業からも「業種で格差が激しく、サービス業は製造業とは別世界だ」などと慎重な声があがった。
※企業の賃上げに対する姿勢に温度差が目立ってきたことについてはいかがですか?

答:昨年、日経平均は5%の上昇となりました。
欧米の経済活動の再開と円安、そしてデジタル化の恩恵を受けた企業が上昇をけん引してきました。
業績好調な企業は、人手不足もあり、賃上げに前向きです。
しかし、対面サービスを中心に感染拡大抑制策の大きな負担を受けた企業との大きな業績の差が生れています。
オミクロン株の感染拡大も警戒され、更なる感染拡大抑制策が業績を下押す可能性もあり、サービス業はまだビジネスを維持するだけで精一杯な状況です。

問:岸田政権としては去年11月、業績がコロナ禍前の水準に回復した企業に関し、「3%を超える賃上げを期待する」と表明済みです。
※経団連の集計によると、去年の春闘で大手企業の定期昇給とベアを合わせた賃上げ率は1.84%だった。
※政府による賃上げ要請が始まる前の13年以降で、8年ぶりに2%を割り込んだ。
※岸田総理が経済の底上げには賃上げが欠かせないとの立場を貫いていることについてはどう受け止めていますか?

答:これまで、企業はリストラなどのコスト削減を続け、政府は財政赤字を過剰に懸念して消費税率引き上げなどで、家計に負担をかけてきました。
企業の貯蓄率と財政赤字の合計でみた、企業と政府の合わせた支出する力は消滅してしまっていました。
支出が所得を生むわけですから、消滅してしまうと、家計に所得が回らなくなってしまい、家計はどんどん追い込まれ、中間層まで疲弊していきました。
それが、企業の活動を更に弱くする悪循環に陥りました。
まずは、業績好調な企業の賃上げと、財政支出の拡大で、家計に所得が回る力を回復させ、悪循環を止める必要があります。

問:ただ、足元では感染再拡大の兆しがみられるほか、資源価格の高騰やインフレなど懸念材料も少なくありません。
※そのため、例年以上に危機感をあらわにする経営者も多い。
※オミクロン株やサプライチェーン=供給網の混乱、資源価格の高止まりなどのリスクについてはどうご覧になっていますか?

答:資源価格の高騰によるインフレは、最終的には家計の負担になります。
家計がその負担に耐えられなければ、景気は底割れてしまいます。
オミクロン株の感染拡大が抑制され、供給網が回復するまで、政府は家計を支援し続ける必要があります。
昨年の経済対策は、オミクロン株の感染拡大とインフレの加速の負担を十分に織り込んだものではありません。
この1月からの通常国会で、更なる追加経済対策が必要だと考えます。

問:また、今年の経営課題として脱炭素社会への対応を挙げる経営者が多くいました。
※経団連の十倉(とくら)会長は、巨額の費用を投じて脱炭素化を強力に推進している欧米と比べ、「日本が少し世界から遅れているのは明らか」と述べた。
※一方、日本商工会議所の三村会頭は、「原子力の位置付けを明確にしなければいけない」と述べ、30年度の温暖化ガス削減目標の達成に原発が不可欠との見方を示した。
※今年の経営課題、脱炭素社会への対応についてはいかがですか?

答:脱炭素社会への対応は、ビジネスをするためのグローバルな基準になってしまっています。
しかし、企業のみの対応では、コストの上昇、脱炭素社会の新たなインフラの必要性を含め、限界があります。
グリーンやデジタル、経済安全保障などを中心とする重点的な投資フィールドを政府が示し、継続的な支援と投資をすることにコミットする必要があります。
オミクロン株の感染拡大への対応としての家計支援、そして政府の成長投資を含む、追加経済対策を計画する必要があると考えます。

【番組紹介】
文化放送 「おはよう寺ちゃん」 月~金 5:00~9:00
パーソナリティ 寺島尚正
コメンテーター 会田卓司(金曜日レギュラー出演)

【会田の出演日時】
金曜日 6:00-7:30

【ニュースコメント】
▶沖縄•広島•山口にまん延防止
▶FRB 3月の利上げ示唆
▶金融庁 監査法人への制限緩和
▶起業失敗でも失業手当 3年延長

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来

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