本記事は、藤井聡氏の著書『超入門MMT』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

レクチャー
(画像=PIXTA)

MMTは実践的? それとも空論?

あらためて、MMTはどのような理論でなにを目標としているか、わかりやすくまとめておきましょう。本書をここまでお読みの方は、かなりすっきりと理解していただけることと思います。

まず、MMTとは、次のような経済理論です。

《国債発行に基づく政府支出がインフレ率に影響するという事実を踏まえつつ、「税収」ではなく「インフレ率」に基づいて財政支出を調整すべきだという新たな財政規律を主張する理論》

そして、次の3点を主張します。

  1. 政府は、自国通貨建ての借金で破綻することなど考えられないのだから、借金したくないという思いにとらわれて政府支出を抑制するのはナンセンスである。

だから、政府の支出は、借金をどの程度以下に抑えるかということを基準にしてはならない。なにか別の、国民の幸福に資する〝基準〟が必要である。

  1. 経済が停滞しており成長が必要とされている場合、政府は財政赤字を拡大することを通して、その目的を達成することができる。

逆に言うなら、政府支出(あるいは財政赤字)の〝下限基準〟は、(金融政策を行ってもなお)経済が停滞してしまう程度の政府支出量である。

  1. 政府支出(あるいは財政赤字)を、その国の供給量を超えて拡大し続ければ、過剰なインフレになる。

したがって、政府支出(あるいは財政赤字)の〝上限基準〟は、(金融政策を一定程度行ってもなお)過剰インフレになってしまう程度の政府支出量である。

より具体的な〝下限基準〟と〝上限基準〟は、これまでのインフレ率の実績を踏まえて、〝下限基準〟はインフレ率2%程度、〝上限基準〟は4%程度となる財政支出(財政赤字)

量だと実務的に想定することができます。

式にすると次のようになります。

政府支出の「下限値」 < 政府の支出額 < 政府支出の「上限値」

下限値とは、デフレになってしまう程度に「少ない」政府支出額のことです。上限値とは、望ましくないインフレになってしまう程度に「多い」政府支出額のことです。

これが、MMTの考え方から導き出される政府支出の「制約式」です。制約のことを規律といい、上の式で表される制約が、MMTが考える「財政規律」です。

ところが、今の政府はこういう上限と下限を想定した上で財政額を調整しようとする「財政規律」ではなく、ただひたすらに支出をカットしていこうとする「プライマリー・バランス黒字化目標」という「財政規律」を採用してしまっているわけです。

この財政規律の下では、税収が少ない場合には、政府支出が、右の式の〝政府支出の「下限値」〟を下回ってしまうことになってしまいます。そして、これこそが長期間にわたって日本を苦しめているデフレの根本原因です。

MMTは、いくらでも好きなだけオカネを刷ればいいというようなトンデモ理論ではありません。

政府・中央銀行の財政政策(オカネを使う)は、金融政策(オカネを貸す)と一体的に推進することが必要である。したがって財政規律は、「政府支出(財政赤字)は金融政策を行ってもなお過剰インフレで不況に陥ってしまう危機を避ける程度の水準以内に収めるべきである」ということになる。この、いたって抑制的な考え方こそがMMTです。

MMTは、伝統的な経済理論を継承している、理性的・実践的な経済理論です。

次の項からはMMTに基づいた政策というものを見ていくことにしましょう。

現実を見据え、多面的に配慮することを念頭において展開されていくMMTの実践的な側面、つまりMMTの理論は実際にどう使われるのか? というお話です。

超入門MMT
藤井 聡
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学科教授。京都大学工学部卒、同大学大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授を経て、2009年より現職。2011年より京都大学レジリエンス実践ユニット長。12年から18年まで、安倍内閣・内閣官房参与(防災減災担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、『表現者クライテリオン』編集長。主な著書に『ゼロコロナという病』(共著・サンケイセレクト)、『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(共著・アスコム)などがある。

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