本記事は、藤井聡氏の著書『超入門MMT』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

Man,Money
(画像=PIXTA)

現代のオカネの価値は変わったの?

どうしてオカネの価値を国家が保証できるのか。それについて多くの人は、「権力のある国家が法律で価値のあるものだと決めたからだ」と考えています。つまり、「法定通貨」だから価値が保証されている、と考えます。

しかし、国家が法律で定めたからといって、それでいきなり価値が宿るものでしょうか。

たとえば政府が、これからは日本では「新円」が使えることとする、という法律を通したとしても、よっぽど「新円」を使うメリットがなければ、国民は結局、「円」を使い続けることでしょう。

法律に多少書かれたくらいでは、誰も新円など「欲しがる」ことはありません。この「欲しがる」というところがポイントです。単に法律で定めたからといって、その貨幣が国定貨幣化するわけではありません。

かつては仮想通貨、あるいは電子通貨と呼ばれた「暗号資産」が、最近さらに話題になっています。ここではわかりやすく電子通貨と呼ぶことにしますが、電子通貨は法定通貨ではありませんが一部の人に使われています。

こうした電子通貨は、「欲しがる」人がいる限りにおいて成立するものです。電子通貨の場合、その電子通貨でしか買えないものがあったり、その電子通貨で買うほうが簡単だといったメリットの存在が「欲しがる」理由になっています。

ただし、電子通貨を欲しがる人がいる一方で、まったく関心を持たない人も数多くいます。したがって、電子通貨が、現在の円やドルと同じレベル、同じ規模であらゆる場所で流通していくことは、現状ではちょっと考えにくいでしょう。

ということは、逆に言えば、円やドルは、それだけ人々が「欲しがる」理由を持っている、ということです。

その理由とは、なんでしょうか?

円やドルを人々が欲しがるのは、実は、「税金の支払いに使える」からです。これが、人々が円やドルを欲しがることの根幹にあります。

日本国内にいる限り、すべての人は日本政府に対して税金を支払わなければなりません。政府の徴税行為から逃げることはできず、政府に対する税金の支払い以上に、万人が避けられない支払い行為はない、と言えるでしょう。

逃げられない税金の支払いについて、「政府への税は円で支払え」と定めてしまえば、すべての人は、個人、法人を問わず、円を手に入れることが義務づけられることになります。

こうして、「税金」があるということが理由となって、日本に住むあらゆる人々が「円を欲しがる」ようになったのです。

徴税と切り離された電子通貨や地域通貨といったものの流通が限定化してしまう一方で、徴税と密接に結びついた円やドルの流通が支配的になっていく根源的な理由が、ここにあります。すなわちこれが、価値、なのです。

言い方を変えれば、政府が徴税と結びつける政治決定を行うなら、どんな通貨であっても一気に広まって支配的になっていく、ということです。

つまり、オカネの価値は、「徴税権」という国家権力によって成り立っています。オカネというものはオカネ自身に価値があるわけでもなく、なにか価値のある貴金属などと交換できるから価値があるわけでもありません。政府に対する納税において、そのオカネの使用が義務づけられているから価値のあるものとみなされているのです。

財布の中の1万円札に価値があるのは、いわば「納税クーポン券」として活用できるからです。そのために、1万円札は、日本政府に対して納税義務を負う日本国民の間に共通して価値あるものとして認められているわけです。

こうして皆が「円を欲しがる」ようになるわけですが、だからこそ、その円を獲得するためにあらゆる人が商売、ビジネスを始めるようにもなるのです。

ただし、いったんそうなると今度は、その商売、ビジネスで提供されるさまざまな商品やサービスを受けたいと考える人々が、税金の支払いとは関係なく、さらに「円を欲しがる」ようになります。

こうして今日のように、「納税のためにこそ円が欲しいのだ」とは特に意識せずに、ただただ、「(納税も含めた)いろんなことに使いたいから、円=オカネが欲しい」という気持ちが万人に共有されるようになったのです。

超入門MMT
藤井 聡
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学科教授。京都大学工学部卒、同大学大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授を経て、2009年より現職。2011年より京都大学レジリエンス実践ユニット長。12年から18年まで、安倍内閣・内閣官房参与(防災減災担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、『表現者クライテリオン』編集長。主な著書に『ゼロコロナという病』(共著・サンケイセレクト)、『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(共著・アスコム)などがある。

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