本記事は、藤井聡氏の著書『超入門MMT』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。
なぜ日本の消費増税は大失敗だったの?
消費税にはビルトイン・スタビライザーの機能はありません。
たとえば高額の贅沢商品にはより高い税率の消費税がかかる、といったようなことにはなっていません。消費税は、世の中の市場における貨幣の循環そのものに対して徴税する、という税金です。
したがって消費税の依存率が高いと、インフレになればそのインフレは放置され、同じくデフレになれば、そのデフレは放置されることになるのであり、必然的に経済は不安定化するのです。
つまり消費税というものは、過剰なインフレやデフレを回避する上で、不適当な税制なのです。ですからインフレ率のコントロールの観点から言うなら、できるだけビルトイン・スタビライザー機能がある法人税や所得税などの税率を高めておき、消費税は可能な限り低く抑え、可能ならばゼロにしておくことが得策なのです。
ただし、貨幣循環量の拡大が求められるデフレ期では、減税あるいは撤廃。貨幣循環量の抑制が求められるインフレ期では増税するように「政治的」に調整できるのなら、消費税のインフレ制御上のデメリットを相殺することもできます。
つまり消費税は、インフレ率に連動させるかたちで調整できるのなら、(「ビルトイン」つまり埋め込まれた、というわけではありませんが)スタビライザー(安定化装置)となりうるわけです。
消費税がそのように機能した例として、カナダがあります。
カナダでは1990年まで、日本の消費税にあたる「付加価値税」は導入されていませんでした。
1980年代後半にカナダのインフレ率が4%を超えました。
1991年に付加価値税をまず7%で導入したところ、1990年代のカナダのインフレ率は2%を下回る程度の水準に抑制されました。
そして2006年にカナダが景気後退の局面を迎えたとき、付加価値税は同年に6%へ、2008年には5%に引き下げられたのです。
イギリスもまた同様の対策をとっています。
イギリスでは1991年から17.5%の付加価値税を徴収していましたが、サブプライム・ローン危機に際してイギリスは、2008年12月から翌年12月まで税率を15%に引き下げています。
撤廃した国もあります。マレーシアは、4~5%程度の水準にあったインフレ率が1~2%程度にまで下落していた2018年に、物品・サービス税を廃止しました。
さらには、2020年からのコロナ禍の中で、世界中の国々が一斉に消費税減税を行っています。
こうした対策は、各国の政府が日本の消費税にあたる付加価値税あるいは物品・サービス税をスタビライザー(安定化装置)として活用したものです。
そして、ここにひとつ、重要なポイントがあります。こうした消費税の税率の調整は政治的プロセスで決定されるものである、ということです。所得税や法人税のように自動的に安定化装置として働くものではありません。
日本は、バブルが崩壊してインフレ率が低迷していた1997年に消費税を3%から5%に増税しました。カナダやイギリス、マレーシアがとった対策とは正反対です。
日本はまた、デフレに苛まれていた2014年に消費税を5%から8%に増税しました。2019年には消費税10%となりました。増税のせいで消費も賃金も低迷し、景気後退局面が続いています。
消費増税という政策は、政治的プロセスで決定されたものですが、この政治決定によって縮小していた貨幣循環量がさらに縮小し、デフレ不況が加速したのです。
日本の例は明らかに失敗例です。消費税の税率を政治的プロセスにまかせておくと、なすべき対策とは逆の政治判断が下されてしまう危険性があることを示しています。
では、どうしたらいいでしょうか。そのひとつの解決策として「消費税率はインフレ率に連動するかたちで調整するという方針を法的に決定しておく」という方法があります。
「インフレ率の2カ年平均が4%を超過すれば消費税を引き上げる」、「インフレ率の2カ年平均が2%を下回れば消費税を引き下げる」といった方針を法的に決定しておくのです。
調整率については、日本の場合、3%、5%、8%、10%という段階を想定しておいて段階的に調整する、といった方法が考えられるでしょう。