本記事は、藤井聡氏の著書『超入門MMT』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

Deflation
(画像=PIXTA)

やっぱりデフレは完全悪なの?

デフレでモノの値段が下がるのだから、デフレというのは生活には有利だ、と素朴に考える人は決して少なくありません。しかし、それは間違いです。

デフレがダメなのは、その本質が「スパイラル」にあるからです。スパイラルとは、螺旋(らせん)渦巻(うずまき)、クルクル回っている、といった意味です。

デフレがどのようなスパイラルに陥らせるか、ということを次に説明しましょう。

まず、私たちが貧乏になったとしましょう。所得が下がったということです。

使えるオカネが少なくなりますから、モノを買えなくなります。すると、あらゆるお店屋さんの売上が減ります。

お店屋さんの売上が減ると、お店屋さんで働いている人の給料や、そこに品物を納入している業者さんなど、あらゆる関連のビジネスの人々の給料が下がります。すると結局、日本全体で働いている人が使えるオカネが減ります。

日本人全員の使えるオカネが減るので、また再び、あらゆるお店屋さんの売上がさらに減っていきます。そうなるとあらゆる人々の給料が、もっともっと減っていくことになります。以下、この繰り返しです。

給料が下がることと、売上が下がることが、ぐるぐる螺旋状に進んでいきます。これが「デフレ・スパイラル」と呼ばれるものです。

こうやってデフレ・スパイラルによって皆がモノを買わなくなっていくと、当然、あらゆるモノの値段も下がっていきます。モノの値段が下がると、それを売っている人の売上も所得もさらに下落していきます。こうして、モノの値段が下がることを通して、人々の所得の下落が、さらに加速度的に進行していくのです。

こうして、デフレになれば、店の売上も、人々の給料も、モノの値段も一気に、スパイラル状に下落していくことになるわけです。

だから、モノの値段が下がるのはまったく良くないことなのです。

それは結局、皆さんの給料が下がっていくことを意味しているからです(そして誠に残念なことに、モノの値段が下がるスピードよりも、私たちの給料が下がるスピードのほうが速くなるのです。デフレになればそれぞれの店や会社が、倒産しないため、生き残りをかけて、必死になって「給料カット」を繰り返すからです。だから、デフレの中でいちばん激しく下落していくのは、給料なのです)。

さて、テレビや新聞のニュースなどを観たり読んだりしていると、「日本はもはやデフレではない」と言っている人が時々います。

本当に、日本はデフレから脱却したのでしょうか。違います。今の日本は見事にデフレです。

超入門MMT
(画像=IMF)
1980年代〜90年代にかけて日本のGDPは上昇したが、90年代の後半から下がる傾向にあり、長期低迷という状態が続いている

日本の経済は、膨張しているのではなく縮小しています。上の図は、日本および世界の主要各国のGDPの推移を描いたグラフです。GDPは国内総生産と訳されますが、簡単に言うと、国民の所得の合計値です。

これは1980年代、1990年代、2000年代に世界各国のGDPがどうやって推移したかというグラフです(ドル表記になっていますが、円に換算して説明しましょう)。

80年代から90年代にかけて日本のGDPは、ずっと大きくなっていっています。最初250兆円くらいだったものが、80年代から90年代にかけての10年ほどで500兆円くらいに伸びています。

これが、90年代後半に入って伸びなくなります。むしろ、下がり始めます。

90年代前半までは日本のGDPは伸びていました。つまり、日本はインフレの中にありました。それが、90年代の後半以降は、下がる傾向にあります。

つまり、現在の日本はデフレの中にあるのです。経済がどんどん伸びていく状況ではなくて、どんどん縮んでいく方向にあり、消費も投資も少なくなるし、給料も少なくなり、使うオカネも減っていき、物価も下がっていく。経済がゼロに向かって縮小している状況です。

このことを、インフレなのかデフレなのかということを示す「インフレ率」という数字の推移で見てみましょう(下図参照)。

超入門MMT
(画像=内閣府、総務省)
1997年、2014年が消費税を引き上げた年で、一瞬だけ上昇に転じるが、その後再び減少するのが見て取れる

インフレ率とは、簡単に言えば、その年に、サービスなどのかたちにならない商品も含めたモノの値段が、どれくらいのパーセンテージで値上がりしたかを表した数字です。

グラフを見ればわかる通り、70年代、80年代の日本は8%とか6%といった数字で推移しています。見事なインフレです。毎年こんなパーセンテージで値段が上がっていくということですから、すごいことです。

そして、1999年からは0.0%を切るようになりました。つまり、モノの値段が下がり始めたということです。

ここには、消費税を1997年に3%から5%に引き上げたという事実が関係しているのですが、その因果関係については次項で説明しましょう。

インフレ率が0.0%を切っているということは、先ほどの比喩で言えば「水の量」(オカネの総量)がどんどん減っていっているということです。0.0%を切っている中でも多少の上下はありますが、基本的には0.0%にべったりです。つまり、デフレです。

どうして「水の量」(オカネの総量)が減ったのかと言えば、消費税を引き上げたからです。マーケットに出回っている「水」(オカネ)を、政府が消費増税を通して、より多く吸い上げることになったのですから、「水の量」が減るのも当然です。

消費増税は、デフレを導くことが、このグラフからハッキリ見て取れるわけです。

ちなみに、デフレになってからの20年間のグラフをよく見ると、1997年と2014年に小さな山が一つずつできていることが見て取れます。これは一瞬だけ、物価がほんの少し上がって、その後また元に戻る、という現象を意味しています。

1997年、2014年というのは、どちらも消費税を上げた年です。つまり、消費税を上げると、長期的にはデフレになって物価の下落を導くのですが、その直後においては、一瞬だけ、物価がほんの少し上がるわけです。

これはなぜかと言うと、消費税率が上がることで、各業界で、その税率を価格に転嫁する動きが起こるからです。だから短期的には、消費税を上げると、物価が少し上がるのです。

でも、それは一瞬だけの話です。そんなわずかな物価上昇を見て「消費税を上げても、デフレになんてならないじゃないか!」などと言う人がいつも出てくるのですが、そんなのは、単なる勘違い、というか思いすごしです。そんな一瞬の物価上昇を除けば、消費増税は、デフレ圧力、つまり物価の下落圧力を、経済にかけるものでしかないのです。

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藤井 聡
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学科教授。京都大学工学部卒、同大学大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授を経て、2009年より現職。2011年より京都大学レジリエンス実践ユニット長。12年から18年まで、安倍内閣・内閣官房参与(防災減災担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、『表現者クライテリオン』編集長。主な著書に『ゼロコロナという病』(共著・サンケイセレクト)、『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(共著・アスコム)などがある。

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