本業支援・事業性評価の指南書【第3回】上席が本業支援の重要性を理解していない
(画像=PIXTA)

目次

  1. 要旨
  2. 財政支出は55.7兆円
  3. 物価目標達成見込める需要規模は38兆円
  4. GoToと国土強靭化が中心に

要旨

  • 岸田政権初の経済対策では、財政支出の規模は、国と地方の歳出で49.7兆円のうち国費は43.7兆円、財政投融資も含めた総額で55.7兆円程度と過去最大になった。しかし、政策効果が未知数の事業や不公平感が強い支援も混じったものになっている。
  • 11月15日に公表された7-9月期のGDP1次速報に基づいて試算すると、7-9月期時点でのGDPギャップは▲4.8%(27兆円)に拡大している。ただ、内閣府のGDPギャップと消費者物価の関係によれば、2%インフレ目標を達成するためには、GDPギャップは+2%になることが必要と推定される。したがって、インフレ目標達成のために必要な需要額は、GDPギャップを埋めるため必要な27兆円に加え、+2%の超過需要を発生させるための+11兆円を加えた38兆円以上必要となる。
  • 今回の経済対策のGDP押上げ効果は合計すると14.2兆円、率では+2.7%程度となる見通し。主にGoTo事業と防災国土強靭化の公共投資が中心的役割を担うが、GDPギャップ解消に必要な27兆円のうち半分程度を埋めるにすぎず、インフレ目標達成に必要な需要額に24兆円程度不足する。今回の経済対策の財政規模は少なくとも金額面だけで見れば、2%インフレ目標を達成するのに必要な需要規模には不十分ということになる。

(*)本稿は、ダイヤモンドオンライン(11月25日)への寄稿を基に作成。

財政支出は55.7兆円

政府は新型コロナウィルスの感染拡大防止や経済活動再開の支援などを掲げた経済対策を11月19日に決めた。

岸田政権初の経済対策となったが、財政支出の規模は、国と地方の歳出で49.7兆円のうち国費は43.7兆円、財政投融資も含めた総額で55.7兆円程度と過去最大になった。

コロナ関連のほか、首相が掲げる「新しい資本主義」の起動として10兆円の大学ファンドや半導体の国内生産拠点確保の基金、さらにはガソリン価格を抑える元売り業者へ補助金などが盛り込まれたことで、規模が大きく膨らむことになったが、政策効果が未知数の事業や不公平感が強い支援も混じったものになっている。

物価目標達成見込める需要規模は38兆円

経済対策の規模を評価する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率だ。直近の2021年4-6月期のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば▲3.9%。マイナス幅を縮小してきているとはいえ、年換算で▲22兆円の需要不足が存在していることになる。

11月15日に公表された7-9月期のGDP1次速報に基づいて試算すると、7-9月期時点でのGDPギャップは▲4.8%に拡大している。従ってこのGDPギャップを解消するのには、財政支出(真水)で27兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

ただ、内閣府のGDPギャップと消費者物価の関係によれば、2%インフレ目標を達成するためには、GDPギャップは+2%になることが必要と推定される。実際、過去のインフレ率とGDPギャップに基づけば、内閣府のGDPギャップに2四半期遅れてコアCPIインフレ率が連動している。

したがって、インフレ目標達成のために必要な需要額は、GDPギャップを埋めるため必要な27兆円に加え、+2%の超過需要を発生させるための+11兆円を加えた38兆円以上必要となる。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

GoToと国土強靭化が中心に

ただ、重要なのはこうした需要創出によってGDPがどれだけ新たに増えるかだ。

そこで、経済対策のメニューをもとにGDPの押上げ効果を試算した(下図)。経済対策は新型コロナ感染拡大防止などの4つの柱で構成されているが、まず新型コロナ感染防止として、医療体制強化やワクチン接種促進、さらに売り上げが減少した事業者への最大250万円の支給、住民税非課税世帯に現金10万円給付などで計22.1兆円の財政支出となっているが、これによるGDP押上げ効果は4.9兆円程度と試算される。

経済活動再開支援や次の危機への備えとして、GoToトラベルの再開やワクチン・治療薬の国内開発などに計9.2兆円が計上されているが、主にGoToの効果で3.7兆円のGDP押上げ効果が見込まれる。

「新しい資本主義」の起動としては、デジタル田園都市国家構想や経済安保強化のための先端技術の実用化支援や先端半導体の国内拠点確保の基金、看護・介護・保育・幼児教育分野の従事者の賃金引き上げ、18歳以下の子供に対する10万円給付、マイナンバーへおポイント付与などで計19.8兆円が計上されているが、これらによるGDP押上げ効果は2.3兆円にとどまると試算される。

子供を持つ世帯への10万円給付などのように貯蓄に回る可能性が高かったり、グリーン化やデジタル化、経済安全保障関連では基金の創設などを受けて中長期的に支出され、短期的な経済効果は大きくなかったりするからだ。

そして、防災や国土強靭化による安全・安心の確保として、自然災害の復旧工事、国土強靭化5か年計画の加速化対策などに計4.6兆円が計上されているが、これによるGDP押上げ効果は3.2兆円となる。国土強靭化関連の公共投資は従来の計画に基づく既定路線のため前年度対比でみたGDPの押し上げ効果はそれほど高くはない。

このように、今回の経済対策のGDP押上げ効果は合計すると14.2兆円、率では+2.7%程度となる見通しだ。主にGoTo事業と防災国土強靭化の公共投資が中心的役割を担うが、GDPギャップ解消に必要な27兆円のうち半分程度を埋めるにすぎず、インフレ目標達成に必要な需要額に24兆円程度不足することになろう。

こう考えると、今回の経済対策の財政規模は少なくとも金額面だけで見れば、2%インフレ目標を達成するのに必要な需要規模には不十分ということになる。(提供:第一生命経済研究所

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣