ビジネスでよく使われるスキームの種類

「スキーム」は、さまざまな言葉と組み合わせて使われている。その中から誰でも一度は聞いたことがある代表的なスキームの事例を見てみよう。

販売スキームを例にスキームの考え方を具体的に解説

スキームの使い方をイメージしやすいように「販売スキームを分析することでどうすれば売上増加を図ることができるか」、例を挙げて見てみよう。販売スキームは、企業が提供する商品やサービスを販売するうえでの一連の流れや枠組みを指す。販路拡大を図るべく販売方法の見直しをする際は、メーカー・販売会社・消費者など販売にかかわるすべての関係先を軸に問題点を洗い出すことが必要だ。

販売会社では、受注・在庫確認・仕入・出荷・代金請求の各ステップにおける販売管理のフローが業務を遂行するうえで発生する。顧客からの受注段階では、見積書の作成と契約や在庫の確認が必要だ。在庫が不足していれば仕入により不足している在庫を補充しなければならない。そこでも仕入先からの見積もりを取り、契約および発注が必要となる。

仕入で商品がそろえば出荷し取引先に商品を納品後、販売代金を請求する。受注してから仕入をするのでは、出荷・納品までに時間がかかり納期が遅くなるだろう。納期に間に合わなければクレームとなり顧客満足度を下げることになる。

このような場合に販売スキームの分析が必要だ。例えば受注から出荷に時間がかかる問題点が指摘できれば、在庫を見える化するシステムを導入し受注から納品までを効率的に行うことが期待できる。在庫を見える化するシステムの導入が問題解決方法の1つとなるのだ。売れ筋の商品を把握できれば仕入をあらかじめ行い、在庫をそろえておくことができる。

同時に売れ筋以外の商品の在庫削減もできるようになるだろう。営業や顧客からの商品在庫の問い合わせにすばやく対応できるシステムを導入することで問題点が解決できれば、在庫の回転期間の短縮が可能となる。在庫や棚卸資産の回転期間の短縮は、売上増加だけでなく顧客満足度の向上にも結びつくのだ。

受注から代金請求までの各ステップにおける販売管理のフローの中でクレーム対応やアフターサービス、フィードバック、顧客満足度などがそれぞれどのステップとどのように結びつき、どのような影響を与えるかを把握することが重要になる。販売スキームを分析することは、多くの問題点を洗い出したり改善したりすることに役立つだろう。

販売スキームを分析し問題点を解決できれば企業は売上増加や売上回復・改善を図ることができる。また受注・在庫確認・仕入・出荷・代金請求の各ステップにおける流れとクレーム対応・アフターサービス・フィードバック・顧客満足度との関係性についてスキーム図などを作成し、見える化することも効果的だ。

ビジネスで使われるスキームの種類

その他にもビジネスで使われる代表的なスキームの事例には、以下のようなものがある。

1.返済スキーム
返済スキームは、企業の返済計画を立てる際の根拠となる返済源を生み出す一連の流れや枠組みを指す。金融機関などから資金調達を行う際には、綿密な資金計画・返済計画が必要不可欠だ。中小企業が生産性の向上や増収増益を図ることを目的に設備の導入をする場合は、金融機関から融資を受けるケースが多いだろう。

融資を返済するには、導入した設備効果によって増収増益を図り、その利益によって返済を行わなければならない。また設備投資により業務の効率化を図る場合は、設備導入による人件費の削減や業務効率化による経費削減も融資の返済源となる。裏付けのある数値で具体化した返済計画や資金計画を作成するための枠組みがなければ大きな金額の融資を受けることは困難となるだろう。

借入金利が同じ場合、借入額に比例して支払利息や返済元金も大きくなるため、返済に見合った資金を事業活動・事業収益から捻出できなければ債務不履行となり経営が破たんする恐れがある。経営破たんに至らないためには、金融機関から受けた融資の返済金をどのようにして捻出し、どれくらいの期間で返済できるかが重要だ。

経営者は、自社に返済能力があることを銀行などの金融機関に説明できなければならない。中小企業は、上場会社のように株式や債券を発行して証券市場で直接資金調達をすることは困難であり、銀行融資に頼ることなく事業拡大を行うことは難しいのが現状だ。企業の財務状況や、事業の将来性などを踏まえた返済計画を作成するためには、綿密な返済スキームを構築しなければならない。

2.企業再生スキーム
企業再生スキームとは、財務状況が悪化している企業を経営不振から再建するために用いる一連の流れや枠組みを指す。企業を再生するためには、経営不振から脱却して再建するための施策を組み入れた再生計画を作成することが必要だ。しかし再生計画の作成には、再建を必要とする企業の現状を把握して事業の収益化を図るための仕組みを構築しなければならない。

再生計画には、人員整理や資産の売却、設備投資の見直しなども含まれるため、収益構造自体の抜本的な見直しが必要だ。時には、債権放棄や借入金のリスケジュールの交渉などで早期に財務基盤を整えることも選択肢の1つといえる。中小企業庁では、中小企業再生支援協議会などが債権者の債務免除を含む再生計画の策定を支援する際の手順や要件をまとめた「中小企業再生支援スキーム」を公表している。

このスキームに従って再生計画の策定支援を受けると金融機関からの債務免除を受けた際に税制上の措置を受けることが可能だ。中小企業再生支援協議会は、中小企業の再生に向けた再生計画策定についてのアドバイスが受けられる公的機関であり各都道府県に設置されている。

中小企業再生支援スキームでは、再生の手順や要件だけではなく再生計画案に含めるべき内容や実態バランスシート作成のための評価基準、それぞれの資産ごとの評定基準にまで触れられており、企業再生スキームを策定するにあたって参考になるだろう。中小企業再生支援スキームでは、以下のすべての要件に合致する中小企業が対象だ。

【対象債務者となり得る企業】
1.過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再生が困難である
2.再生の対象となる事業に収益性や将来性があるなど事業価値があり、関係者の支援により再生の可能性がある
3.法的整理を申し立てることにより債務者の信用力が低下し、事業価値が著しく毀損するなど、再生に支障が生じるおそれがある
4.法的整理の手続きによるよりも多い回収を得られる見込みがあるなど、債権者にとっても経済合理性がある
引用:中小企業庁 「中小企業再生支援スキーム(改訂版)」

3.投資スキーム
投資スキームとは、どのような配分で株式や債券などの有価証券、不動産などの金融商品に投資していくのかを決めるための枠組みや仕組みを指す。主に金融業界で用いられる金融用語だ。その中でも証券会社や投資信託会社などが多くの投資者から資金を預かって運用する「集団投資スキーム」と呼ばれるものがある。

投資信託のような金融商品のことを「ファンド」と呼ぶことがあるが、そもそもファンドとは基金や資金を意味する言葉だ。一般的には、複数の投資家から集めた資金を1つの大きな資金にまとめて運用して収益を分配する会社や金融商品そのものを「ファンド」と呼ぶことが多い。ファンドと呼ばれる金融商品の運用方針を決めるための枠組みや仕組みとして集団投資スキームが必要になるのだ。

集団投資スキームには「資産運用型」「資産流動化型」の2種類がある。

・資産運用型
複数の投資家から集めたまとまった資金をファンドマネージャーと呼ばれる投資の専門家が運用し、出資した投資家に収益を還元する仕組みである。この代表的なものが投資信託だ。

・資産流動化型
企業が所有する不動産などの特定の資産が先にあり、その資産を企業から切り離して不動産などから生じるキャッシュ・フローを原資とする金融商品を作って販売すること。資金調達を行う仕組みである。

4.M&Aスキーム
M&Aスキームとは、他社を合併、吸収するなどの方法で事業拡大を目指すものであり、M&Aを戦略的に行う一連の流れや枠組みを指す。近年では、事業拡大や事業の多角化、事業承継を行う場合、税制面のメリットがあるため、中小企業でもM&Aが広く行われるようになった。M&Aとは、合併と買収(Mergers and Acquisitions)を意味する。

一般的には、企業の全部または一部の移転を伴う取引のことを指す。広い意味で複数企業間の組織の再編としても使われている。他社を吸収合併したり株式を取得して他社を子会社化したりすることで事業の多角化や企業規模の拡大を図るのがM&Aの特徴だ。M&Aスキームの目的は、「事業の多角化」「事業承継」「企業規模拡大」など企業ごとに大きく異なり手段も以下のようにさまざまだ。

  • 株式取得
  • 合併
  • 事業譲渡
  • 会社分割
  • 株式交換
  • 株式移転など

ここでは、上記の中で代表的なものを4つ紹介する。

・合併(2つ以上の会社が契約により1つの会社になる)
合併には、合併する会社がすべて解散して新会社をする「新設合併」と合併する会社の一方がもう一方の会社を吸収する「吸収合併」といった2つの方法がある。

・事業譲渡(ある事業の全部または一部を他の会社に譲渡する)
譲渡する事業には、事業用の財産や取引先、ノウハウなどが含まれる。引き継ぐ事業や資産、負債など譲渡の対象は、契約で自由に選択できることがメリットだ。しかし債務や契約上の地位を引き継ぐには、債権者の同意や譲渡対象となる事業の従業員についても個々の同意が必要となることはデメリットといえるだろう。時には、退職金の準備や許認可の取り直しが必要になるケースもある。

・会社分割(会社の事業の全部または一部を他の会社に分割して譲渡する)
事業譲渡と似ているが「原則対価を株式とする」「事業に関する権利義務が包括的に継承される」などが異なる。既存の事業を新しく設立した会社へ継承させる「新設分割」と既存の会社へ事業を承継させる「吸収分割」の2つの方法がある。

・株式取得(株式取得は会社の支配を獲得する)
株式取得は、「株式譲渡」「第三者割当増資」「株式交換」「株式移転」「TOB」などの方法がある。経営権だけが移り対外的にはほとんど変わらないためM&Aの中でも最も簡単な方法だ。

その他にも「資本参加」「資本提携」「業務提携」などもM&Aの一種といえるだろう。M&Aの方法は、多種多様であり企業の目的に応じたスキームが必要になる。

5.事業スキーム
事業スキームとは、企業が事業における経営目標に対して「具体的にいつまでにどのような方法で事業収益を上げていくのか」を一連の流れや枠組みで示したものである。一般的に事業スキームは、「事業計画」を指すことが多い。特に金融機関などから資金調達を行う際は「事業計画書」の提出を求められることがあるため、資金調達をする際にも重要だ。

「事業計画書」そのものを事業スキームと呼ぶこともある。詳細については、以下の「事業スキームを構築する方法」で解説する。