2 ― 4 実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度
2021年10-12月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率5.4%の高成長となったが、2022年に入ってから状況は一変している。オミクロン株を中心とした新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、1/9に広島県、山口県、沖縄県でまん延防止等重点措置が適用された後、2/16時点で対象地域は36都道府県まで拡大している。まん延防止等重点措置の対象地域のGDPが日本全体に占める割合は91%となっている。
2021年9月末の緊急事態宣言の解除を受けて、小売・娯楽施設の人出は10月以降持ち直し、年末にかけては、コロナ前を上回る水準まで回復した。しかし、2022年に入ると感染者数の急増やそれに伴うまん延防止等重点措置の影響で人出の減少幅が拡大し、2月に入ってからは緊急事態宣言が発令されていた2021年の水準に近づいている。いったん持ち直した外食、宿泊などの対面型サービス消費は2022年1-3月期には減少に転じる公算が大きい。
2022年1-3月期の実質GDPは、民間消費が前期比▲0.4%の減少となる一方、高水準の企業収益、海外経済の回復を背景に設備投資、輸出が増加すること、ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が高めの伸びとなることから、前期比年率0.4%と小幅なプラス成長を予想する。緊急事態宣言などによって行動制限をさらに強化するようなことがあれば、消費の落ち込みはさらに大きくなり、マイナス成長に陥るリスクが高まるだろう。
2022年4-6月期以降は、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていること、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの措置が講じられないことを前提として、ゼロ%台半ばとされる潜在成長率を上回る成長が続くことが予想される。経済活動の制限がなくなれば、消費性向を引き上げることによって、外食、旅行などの対面型サービス消費が高い伸びとなることが期待できるが、感染動向とその対応策に関しては不確実性が非常に高い。
実質GDP成長率は、2021年度が2.5%、2022年度が2.5%、2023年度が1.7%と予想する。経済活動の制限がなくなったとしても、感染症への警戒感が一定程度残ることが対面型サービス消費を抑制するため、消費の本格回復までには時間を要するだろう。民間消費は2020年度の前年比▲5.4%の後、2021年度が同2.7%、2022年度が同2.4%、2023年度が同1.3%と大幅な減少の後としては低い伸びにとどまることが予想される。年度ベースの民間消費の水準が直近のピーク(2018年度)を上回るのは2024年度までずれ込むだろう。
一方、設備投資は、企業収益の改善傾向が続く中で、2020年度の前年比▲7.5%から2021年度に同1.4%と増加に転じた後、2022年度が同3.8%、2023年度が同3.7%と高めの伸びを維持すると予想する。
日銀短観2021年12月調査では、2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が前年度比9.6%となり、前年同期時の同▲3.2%(2020年12月調査の2020年度計画)を大きく上回っている。設備投資の内訳をみると、人手不足対応やテレワーク拡大に向けたソフトウェア投資がけん引役となっている。
先行きについては、収益環境が非常に厳しい対面型サービス業の投資が引き続き下押し要因となるものの、製造業の機械投資やデジタル関連投資を中心に増加傾向が続くことが予想される。
輸出は、半導体不足や東南アジアからの部品調達難といった供給制約の影響で、2021年後半は弱めの動きとなったが、基調としては回復が続いている。先行きについては、供給制約の影響が和らぐもとで、海外経済の回復を背景に増加傾向がより明確となるだろう。輸出は2020年度の2021年度に前年比▲10.5%と大きく落ち込んだ反動もあり、2021年度に同12.6%の高い伸びとなった後、2022年度が同4.5%、2023年度が3.9%と好調を維持し、成長率の押し上げ要因となるだろう。
実質GDPは2021年10-12月期にコロナ前(2019年10-12月期)比で▲0.2%まで回復したが、2022年1-3月期が前期比0.1%(年率0.4%)の低成長にとどまることから、コロナ前を上回るのは2022年4-6月期までずれ込むだろう。
なお、日本はコロナ前の段階で消費税率引き上げの影響から経済活動の水準が大きく落ち込んでいたため、コロナ前の水準に戻るだけでは、経済の正常化とはいえない。実質GDPが直近のピークである2019年7-9月期の水準を回復するのは、2023年4-6月期と1年以上先になると予想する。
日本経済は、先行きも新型コロナウイルスの感染動向とその対応策によって経済活動が大きく左右される展開が続くだろう。日本は当初、諸外国に比べてワクチン接種が遅れており、そのことが景気回復の遅れの主因とする見方があった。しかし、2021年秋頃までにワクチン接種率(2回)が主要先進国並みかそれを上回る水準まで高まったにもかかわらず、オミクロン株の出現とその拡大によって行動制限を再び強化することとなった。
現在、政府は3回目のブースター接種を積極的に進めているが、必ずしもブースター接種が進んでいる国で新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられているわけではない。オミクロン株の感染がピークアウトした後も、新たな変異株の出現によって感染者が再び増加する可能性は十分に考えられる。その際にこれまでと同様に行動制限の強化に踏み切れば、個人消費を中心に経済活動が再び停滞するだろう。一方、変異株の特性(感染力、毒性等)に合わせた柔軟な医療提供体制を整備すれば、感染者数が増加しても経済活動を制限する必要性は低下し、景気が大きく上振れる可能性がある。
2 ― 5 物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2021年9月に前年比0.1%と1年6ヵ月ぶりのプラスとなった後、12月には同0.5%まで上昇幅が拡大した。携帯電話通信料の大幅下落がコアCPI上昇率を▲1.5%程度押し下げる一方、原油高に伴うエネルギー価格の上昇、「Go To トラベル」停止による宿泊料の上昇がコアCPIの押し上げ要因となっている。
一時、1バレル=70ドル台まで下落していた原油価格は、世界経済の回復に伴う需要の拡大、投資縮小に伴う生産能力の低下による需給の逼迫懸念に、ウクライナ情勢の緊迫化が加わったことで、90ドル台まで上昇している。政府はガソリン補助制度(*2)を発動したが、ガソリン価格の抑制効果は限定的であり、原油高の影響が遅れて反映される電気代、ガス代は今後上昇ペースが加速することが見込まれる。エネルギー価格によるコアCPI上昇率への寄与度は2021年度末にかけて1%台半ばまで高まるだろう。
今後、上昇ペースが一加速する可能性が高いのは食料品(除く生鮮食品)である。食料品は2021年7月の前年比0.1%と上昇に転じた後、12月には同1.1%まで上昇率が高まったが、川上段階の物価上昇率に比べれば伸び率は限定的にとどまっている。
足もとの食料品の輸入物価は前年比で20%台後半、食料品の国内企業物価は前年比で3%台の高い伸びとなっている。2000年以降で食料品(除く生鮮食品)の物価上昇率が2%を超えたのは、2008年4月~2009年4月と2015年10~12月の2回だが、川上段階の上昇率を比較すると、足もとの輸入物価上昇率は、2008年、2015年当時よりも高く、国内企業物価上昇率は2015年当時よりも高い。川上段階の物価上昇を消費者向けの販売価格に転嫁する動きがさらに広がることにより、食料品(生鮮食品を除く)の物価上昇率は2022年半ば頃には2%台に達し、コアCPI上昇率への寄与度は0.5%程度まで高まるだろう。
コアCPIは、「Go Toトラベル」停止による押し上げ効果が剥落する2022年1月にはいったん伸びが低下するが、携帯電話通信料の大幅下落の影響が縮小する2022年4月には上昇率が1%台後半まで加速し、2022年度中は1%台で推移することが予想される。
ただし、物価上昇のほとんどは、原材料価格の大幅上昇を販売価格に転嫁することによって生じたものであり、消費者物価指数の約5割を占め、賃金との連動性が高いサービス価格は低迷が続いている。春闘賃上げ率は2022、2023年と改善が続くものの、ベースアップでみればゼロ%台の低い伸びにとどまることが見込まれる。サービス価格の上昇を通じて物価の基調が大きく高まることは期待できない。原材料価格高騰による上昇圧力が一巡することが見込まれる2023年入り後、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで鈍化する可能性が高い。
コアCPI上昇率は、2021年度が前年比0.0%、2022年度が同1.5%、2023年度が同0.8%と予想する。
(*2) 1リットル当たり170円を超過した部分について最大5円
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斎藤太郎 (さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長
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