要旨
- 政府のガソリン補助金制度により、ガソリン・灯油価格の抑制を通じて消費者物価指数(生鮮除く総合)は、制度がない場合と比較して0.1%Pt押し下げられる。
- トリガー条項は現在凍結されている。法改正が必要なこと、税収への影響が大きいことなどハードルは高いが、仮に凍結が解除された場合には、ガソリン価格の下落を通じて消費者物価指数(生鮮除く総合)は0.36%Pt程度押し下げられる。
ガソリン補助金制度で2~3月のCPIコアが0.1%Pt押し下げか
1月27日に、政府のガソリン補助金制度(コロナにおける燃料油価格激変緩和対策事業)が始まった。これは、全国平均ガソリン価格が1リットル170円を超えた分について、1リットルあたり5円を上限として燃料油元売りに補助金を支給する制度である。初回の支給金額は3.4円だが、足元の原油価格の動向を踏まえると引き上げは必至であり、当面、支給金額は上限である5円で推移することになるだろう。
この制度は元売りに対しての支給であるため、実際の小売価格の抑制には繋がらないとの声も聞かれる。だが、補助金が適切に反映されているかを確認するため、 給油所(約3万)に対する調査が実施されるなど、政府が目を光らせていることとを考えると、最終的には概ね小売価格に反映される可能性が高いとみて良いと思われる。
制度の対象となるのはガソリン、軽油、灯油、重油であり、このうち消費者物価指数に影響するのはガソリンと灯油である(重油と軽油の価格は消費者物価指数に反映されない)。ここで仮に上限である5円分、ガソリンと灯油の小売価格が抑制されると仮定すれば、補助金が無い場合と比較してガソリンが▲2.9%、灯油が▲4.3%程度抑制されることになる。CPIコアへの寄与度でみれば▲0.1%Ptとなる。
なお、この制度は期間限定であり、現時点では3月末が期限となっている。そのため、2、3月のCPIコアが、制度が無い場合よりも0.1%Pt抑制され、4月には元に戻ることになる。
トリガー条項凍結解除がCPIに与える影響
ガソリンに関連してもう一つ話題となっているのが、トリガー条項の凍結解除問題だ。これは、ガソリンの全国平均小売価格が3ヶ月連続で1リットル160円を上回った場合、ガソリン税(揮発油税、地方揮発油税)53.8円のうち25.1円分の課税を停止、軽油についても、軽油引取税32.1円のうち17.1円の課税が停止されるというものである。なお、3ヶ月連続でガソリン価格が130円を下回った場合には元の税額に戻すこととなっている。もっとも、現在この制度は適用が停止されているため、ガソリン価格が3ヶ月連続で160円を上回るなかでも、この制度は発動されていない。
ここで仮に、このトリガー条項の凍結が解除され、制度が発動される場合を考えてみよう。消費者物価指数に影響するのはガソリン(※)であり、制度発動によって(上述の補助金もない場合と比較して)ガソリン価格が▲14.7%抑制されることになる。CPIコアへの寄与度でみれば▲0.36%Pt程度と、影響はかなり大きい。
(※)厳密には、CPIの「ガソリン」のウェイト作成には軽油の支出金額も考慮されている。もっとも、CPIの「ガソリン」価格はレギュラーガソリンの価格を元に作成されているため、軽油の価格変動はCPIに影響しない。
トリガー条項の凍結解除には法改正が必要になることに加え、税収へのインパクトが大きいことから、発動へのハードルは高い。仮に1年間継続すれば、年間1兆円を優に超える税収が減ることになるため、政府は難色を示すだろう。前述のガソリン補助金(800億円)とは金額が大きく異なる。もっとも、ガソリン価格の高騰については国民の関心が非常に高く、不満も蓄積している。今後も価格上昇が続くようであれば、経済対策の一環として凍結解除に踏み切る可能性も否定はできない。
より現実的なものとしては、ガソリン補助金制度の延長・増額が挙げられる。この制度は3月末までの期間限定となっているが、ガソリン価格高騰が続いている場合には、これを4月以降も延長する、補助の金額を5円から増額するといったことは考えられるだろう。トリガー条項発動よりはハードルが低そうだ。この場合、CPIへの押し下げ効果は4月以降も残存・拡大することになる。
筆者は22年4月のCPIコアが前年比+1.7~+1.8%程度にまで上昇し、場合によっては+2%への到達もあり得ると予想しているが、本稿で述べた補助金、トリガー条項の動向次第で数字は変わってくる。今後の政府の動きに注目しておきたい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所
経済調査部長・主席エコノミスト 新家 義貴