SDGs、脱炭素化が求められる昨今、注目を集める投資テーマの1つが再生可能エネルギーであるバイオマス(生物資源)を用いたバイオマス発電だ。政府は、脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーの普及を後押ししており、国内の電源構成に占める割合を、2030年度に向けて約10年で2倍に伸ばそうとしている。この大きな流れのなかで、太陽光発電や風力発電とは異なる特徴をもつバイオマス発電に注目が集まっているのだ。今回はバイオマス発電について、将来性や課題に触れたうえで関連銘柄の投資妙味を解説したい。

目次

  1. 1. バイオマス発電とは
  2. 2. バイオマス発電の将来性
  3. 3. バイオマス発電の課題
  4. 4. バイオマス発電が普及するカギは?
  5. 5. バイオマス発電の投資妙味は? バイオマス発電関連銘柄5選
  6. まとめ:バイオマス発電は2030年に向けて将来性あり。政府の方針にも注目

1. バイオマス発電とは

「バイオマス発電」の投資妙味は?将来性と課題、普及のカギ
(画像=PIXTA)

まず、バイオマス発電とは何か、そして発電の仕組みやメリット・デメリットについて解説したい。

1.1. バイオマス発電は生物資源を使った発電

バイオマス発電とは、バイオマス(生物資源)を燃料とする発電方法だ。代表的なバイオマスには間伐材や家畜の排泄物、食品廃棄物などがあり、再生可能エネルギーの1つに分類されている。

バイオマス発電は一般的に、石油や石炭などの化石燃料を用いた発電と比べて脱炭素化につながることが特徴とされている(その理由は後述)。地球温暖化が進み世界的に脱炭素に向けた機運が高まるなか、注目度が高まっている発電方法だ。

1.2. バイオマス発電の仕組みと種類

バイオマス発電では、バイオマスを燃焼させたりガス化したりすることでタービンやガスタービンを回転させ、発電する。主な発電方式は、直接燃焼方式、熱分解ガス化方式、生物化学的ガス化方式の3つだ。それぞれ発電工程に違いがあるほか、使用する燃料も異なる。

直接燃焼方式では、木質ペレットや木質チップに加工した間伐材や木くず、可燃性ごみ、廃油などを燃料とする。これらを燃焼させて発生した水蒸気でタービンを回転させる。

熱分解ガス化方式では、直接燃焼方式と同様の間伐材や木くずのほか、食品工場から出る野菜のくずなども燃料として使われる。こうした燃料を加熱してガスを発生させ、ガスタービンを回転させる。

生物化学的ガス化方式では、家畜の排泄物や生ゴミ、下水の汚泥などを燃料とする。これらを発酵させ、メタンガスなどのバイオガスを発生させることでガスタービンを回転させる。

>>>あわせて読みたい
バイオマス発電とは? メリット・デメリット、交付金や導入事例を紹介

1.3. バイオマス発電のメリット・デメリット

バイオマス発電のメリットは、脱炭素(カーボンニュートラル)の視点で二酸化炭素の排出を抑えながら発電できることだ。

バイオマス発電で利用する主なバイオマス資源に植物がある。植物はその成長の過程において、光合成により二酸化炭素を吸収する性質がある。また、発電のために植物を燃焼させると二酸化炭素が発生するが、伐採後に新たな植物を育てることで二酸化炭素を吸収につながるため、理論上、二酸化炭素の量をプラスマイナスゼロにできると考えられている。

光合成で二酸化炭素を吸収して成長するバイオマスを燃料とする発電は、温室効果ガスを削減するための国際的な取り決めである京都議定書において、二酸化炭素を排出しないものとされている。

【参考】資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは バイオマス発電」

またバイオマス発電は、再生可能エネルギーによる発電のなかでも、安定的に発電できる方法であることもメリットだ。

再生可能エネルギーの代表格は太陽光や風力だが、これらを使った発電は気候に左右される。その点、バイオマス発電は燃料さえあれば発電できる。

一方、バイオマス発電のデメリットは、太陽光発電や風力発電にはない燃料調達のコストがかかることだ。バイオマス発電では、燃料を集めたり発電所に運搬したりする必要があるため、過程でコストが発生する。

また、バイオマス発電のサプライチェーン全体に目を向けると、バイオマスの栽培や加工、輸送といった工程では化石燃料が利用されるため、二酸化炭素が発生してしまう点もデメリットと言える。

2. バイオマス発電の将来性

続いて、バイオマス発電の将来性について解説しよう。

2021年10月、第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。この計画では、2030年度における国内の再生可能エネルギーの比率を36~38%に拡大することを目指している。このうち、太陽光発電は14〜16%、風力発電は5%、バイオマス発電は5%を占める。

【参考】資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の概要」(PDF)

再生可能エネルギーの比率を36〜38%にするという目標は、2019年度実績の18%を倍増させるものであり、バイオマス発電は2030年度に向けてさらなる盛り上がりを見せそうだ。

日本有機資源協会などのまとめによると、木質系バイオマス発電の導入容量は、2020年は2.13GW程度だったが、2030年には6.26GW規模まで増加するという。2030年時点の発電量は409億kWhを見込んでいる。

▽2030年までの木質バイオマス発電の導入見通し

一方、家畜の排泄物や食品廃棄物を燃料とするメタン発酵ガス系バイオマス発電も、2030年にかけて伸びが予想されている。日本有機資源協会などのまとめによると、2025年度にかけて年間1万2,000kW、2030年度にかけて年間1万8,000kW増加し、2030年には0.21~0.24GW規模の導入容量となるという。2030年時点の発電量は13.6〜15.6億kWhを見込んでいる。

【参考】一般社団法人日本有機資源協会、一般社団法人木質バイオマスエネルギー協会「国産バイオマス発電の導入見通し」(PDF)

3. バイオマス発電の課題

バイオマス発電は、2030年度に向けて大きな伸びが見込まれるが、課題もある。1. でもバイオマス発電のデメリットに少し触れたが、課題として2つの点を挙げたい。

3.1. バイオマス発電の課題1:燃料調達のコストが大きい

課題の1つめは、燃料となるバイオマスを調達するコストが大きいことだ。たとえば木質バイオマスを燃料とする発電所の場合、原価構成の約7割が燃料費で、その内訳を見ると原料やチップの搬出・運搬にかかる費用が大半を占める。

▽木質バイオマス発電のコスト

この課題を解決するために、生産・輸送システムの効率化や広葉樹・早生樹の活用などが求められている。

3.2. バイオマス発電の課題2:資源によっては利用率が低い

課題の2つめは、バイオマスの利活用をめぐってはバイオマスの種類によって利用率にばらつきがあり、なかにはまだまだ利活用が進んでいないものもあることだ。

経済産業省によれば、2018年時点では家畜の排泄物は約86%がバイオマス発電に利用されているが、食品廃棄物や林地残材(樹木の伐採後に林地に残された枝など)は30%以下に過ぎない。

【参考】農林水産省「バイオマス種類別の利用率の推移」(PDF)

たとえば林地残材の利用率が低い背景には、山中に少量ずつ分散していることから発生量を把握しづらく、搬出コストもかかるという事情がある。効率的に搬出できる仕組みの構築が求められる。

4. バイオマス発電が普及するカギは?

前述のような課題があるバイオマス発電だが、脱炭素化や国内のエネルギーの安定供給に向けて重要な電源であることは間違いない。では、バイオマス発電が普及するためには、どんな要素が必要なのだろうか。

まず、普及のためにはバイオマス発電所の大型化が欠かせない。前述のようにバイオマス発電は燃料調達のコストが高いという課題がある。発電所を大型化すれば、一度に多くの資源を発電設備に運搬することができ、重量当たりの輸送コストが低くなる。

また、バイオマス発電の発電効率を高める技術も求められる。バイオマス発電は、木質バイオマス発電の場合で約30%とされており、化石燃料を使った火力発電の約55%に比べて発電効率が低い点も課題とされる。現在よりも高性能で高効率の発電機が開発・導入されれば、普及を後押しすることになるだろう。また、エネルギーを有効活用するには、発電時に発生する熱の活用も重要だ。

5. バイオマス発電の投資妙味は? バイオマス発電関連銘柄5選

バイオマス発電は、国のエネルギー基本計画を背景に2030年度に向けて将来性のある分野だ。では、バイオマス発電を投資テーマとして捉えたときの投資妙味について考えてみよう。

脱炭素の流れは、菅政権で大きく前進した。2020年10月、菅氏は2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した。

菅氏に続いて就任した岸田総理は、2021年11月にCOP26(気候変動対策に関する国連の会議)の首脳会合において、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた目標を說明。2030年度の温室効果ガスの排出量について、2013年度から46%削減を目指すことや50%に向けて挑戦すると述べている。

国を挙げて脱炭素に向かうなか、バイオマス発電に関連した銘柄にも多くの投資マネーが流入することになるかもしれない。バイオマス関連銘柄には下記のようなものがある。興味のある方は各社のIR情報を確認されたい(情報は2022年3月22日現在)。

▽大阪ガス<9532>
・株価:2,116円
・事業内容:2022年3月現在、国内で10基(建設中含む)のバイオマス発電所に参画。木質バイオマス発電の燃料用に早生樹の植林を行う。
・IR情報:https://www.osakagas.co.jp/company/ir/index.html

▽イーレックス<9517>
・株価:1,803円
・事業内容: パーム椰子殻を主燃料としたバイオマス発電所を日本ではじめて運転。グローバルなサプライチェーンの充実と強化で燃料調達に強みがある。
・IR情報:https://www.erex.co.jp/ir/

▽レノバ<9519>
・株価:1,716円
・事業内容:国内の未利用材等を利用した木質バイオマス発電に取り組む。秋田、福岡で発電所を稼働させているほか、全国各地に発電所を建設中。
・IR情報:https://www.renovainc.com/ir/

▽エフオン<9514>
・株価:586円
・事業内容:木質バイオマス発電に取り組む。燃料調達から保守まで一貫して自社で行う。省エネ支援などにも取り組む。
・IR情報:https://www.ef-on.co.jp/ir/

▽タクマ<6013>
・株価:1,532円
・事業内容:バイオマス発電ボイラー最大手で、2023年度から日本製紙とともにCO2回収装置の実証実験に取り組む。
・IR情報:https://www.takuma.co.jp/investor/

なお、バイオマス発電を含む再生可能エネルギーについては、関連銘柄に分散投資するテーマ型の投資信託も存在している。個別銘柄に資産を集中させるよりもリスクを軽減できるため、投資先の1つとして検討してもいいだろう。

まとめ:バイオマス発電は2030年に向けて将来性あり。政府の方針にも注目

バイオマス発電は、2023年度の再生可能エネルギー比率を36〜38%に高めようとする国のエネルギー基本計画を背景に、将来性が見込まれるテーマだ。脱炭素社会を実現しようとする流れのなかで、バイオマス発電の市場は拡大すると考えられている。

バイオマス発電をテーマとする投資には、国の制度であるFITを活用した売電がある。ただし、コストの問題やFITへの依存といった課題があることも忘れないようにしたい。また、バイオマス発電に取り組む企業の個別銘柄や、再生可能エネルギー関連のテーマ型投資信託にも注目だ。

バイオマス発電の今後の盛り上がりには、政府の方針が大きく影響してくるだろう。政府の動向は継続的にウォッチしておきたい。