バイオマス発電が新時代の発電方式として注目を集め、投資や経営などさまざまな文脈で引き合いに出されることが増えてきた。バイオマス発電は、太陽光発電や風力発電にはない強みをもつ再生可能エネルギーであり、国が交付金などの支援制度を設けて普及を後押ししている。今回はバイオマス発電とは何か、どんなメリットやデメリットがあるのか、そして支援制度や企業の導入事例について解説していく。
目次
1. バイオマス発電とは
脱炭素やカーボンニュートラルに向けた取り組みが世界中で進められる中で、新たな発電方式としてバイオマス発電に注目が集まっている。まず、バイオマス発電とは何か、なぜ注目されているのかなどを解説する。
1.1. 生物由来の資源で電気を生み出すバイオマス発電
バイオマスとは、動物や植物など生物由来の資源の総称だ。廃材や木くず、生ごみ、家畜のふん尿などはすべてバイオマスだ。英語では、バイオ(bio)は生物を指し、マス(mass)は量やかたまりを意味する。
バイオマス発電とは、上記のようなバイオマスを用いた発電のことである。バイオマス発電では、バイオマスを燃焼させたりガス化したりすることでタービンを動かし、電力を生み出す。
バイオマスと対比されるのは、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料だ。化石燃料は、過去の動物や植物の遺骸が長い年月をかけて変化したものだ。18世紀後半に始まった産業革命以降、化石燃料の利用が急増し、21世紀のはじめには世界のエネルギー供給の約90%を占めるまでになった。
しかし、化石燃料ができあがるまでには数百万年の時間がかかり、その埋蔵量にも限りがある。現在の埋蔵量から推計すると化石燃料は数十年後には底をつくと考えられており、化石燃料に代わる資源としてバイオマスが注目を集めることとなった。
1.2. バイオマス発電が注目される背景
石油や石炭などの化石燃料を燃やすと、温室効果ガスの一種である二酸化炭素が発生し、地球温暖化が進む。周知のとおり、地球温暖化は農作物の被害や生態系の絶滅、自然災害の発生、健康への影響など多くの問題を引き起こす。また、化石燃料を燃やすことで窒素酸化物や硫黄酸化物などが発生し、大気の汚染や酸性雨の原因となる。
環境汚染や環境破壊は、人類全体に不利益をもたらすものだ。そのため、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑える脱炭素の考え方が生まれた。
2015年、気候変動に関する国際的な枠組みとしてパリ協定が採択された。パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑えることを長期目標としている。
パリ協定を受けて、各国は具体的な温室効果ガスの削減目標を設定し、脱炭素に向けて動き出した。日本政府は2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言した。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から森林による吸収量を差し引き、全体として温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指す考え方だ。
バイオマス発電は、脱炭素に向けた世界的な潮流の中で、従来の発電方式に代わる存在として注目を集めている。バイオマス発電で燃焼させる植物は成長過程で二酸化炭素を吸収している。発電のため燃焼する過程ではもちろん二酸化炭素が放出されるが、結果としてプラスマイナスゼロ、つまりカーボンニュートラルである、となるわけだ。詳しくは1.4.で後述する。
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1.3. バイオマス発電の燃料の種類
ひと口にバイオマスと言っても、その実態は多種多様だ。経済産業省はバイオマスを次のように分類している。乾燥系と湿潤系、その他という3分類をベースに、木質系や食品産業系などさらに細かく分かれており、さまざまなものがバイオマス発電の燃料となることがわかる。
▽バイオマスの分類
分類 | 木質系・産業系 | 農業・畜産・水産系 | 廃材・生活系 |
---|---|---|---|
乾燥系 | <木質系> ・林地残材 ・製材廃材 | <農業・畜産・水産系> ・農業残残渣 ・家畜排せつ物 | <建築廃材系> ・建築廃材 |
湿潤系 | <食品産業系> ・食品加工廃棄物 ・水産系残渣 | <農業・畜産・水産系> ・家畜排せつ物 ・牛豚ふん尿 | <生活系> ・下水汚泥 ・し尿 ・厨芥ごみ |
その他 | <製紙工場系> ・黒液・廃材 ・セルロース(古紙) | <農業・畜産・水産系> ・糖・でんぷん ・甘藷 ・菜種 ・パーム油(やし) | <生活系> ・産業食用油 |
参考:資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは バイオマス発電」
このほか、バイオマスの状態によって、食品廃棄物や家畜排せつ物などの廃棄物系バイオマス、麦わらや林地残材などの未利用バイオマス、さとうきびやとうもろこしなどの資源作物の3つに分類する方法もある。
【参考】九州農政局「バイオマスとは?」
1.4. バイオマス発電は脱炭素につながる
バイオマス発電の魅力は、脱炭素につながることだ。しかし、燃料を燃やして発電するという点では化石燃料を用いた火力発電と同じであり、その過程で二酸化炭素が排出される。それなのに、なぜ脱炭素につながるエネルギーとされているのだろうか。
その理由は、植物などのバイオマスは、成長の過程で光合成により二酸化炭素を吸収しているからだ。植物は、燃焼時は二酸化炭素が発生するが、成長過程では二酸化炭素を吸収する。新たに植物を育てれば、理論上、二酸化炭素の量はプラスマイナスゼロとなり、カーボンニュートラルであるという考え方だ。さらに二酸化炭素を吸収することもできる。
このような理由から、光合成で二酸化炭素を吸収して成長するバイオマスを燃料とする発電は、温室効果ガスを削減するための国際的な取り決めである京都議定書において、二酸化炭素を排出しないものとされている。
【参考】資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは バイオマス発電」
バイオマスは化石燃料のように枯渇してしまう恐れがない。そのため、バイオマス発電は再生可能エネルギーの1つとして位置づけられている。太陽光発電や風力発電等と並び、今後の脱炭素社会において重要なエネルギー源となると考えられる。
2. バイオマス発電の種類
バイオマス発電ではバイオマスの燃焼や発酵により電力を生み出すが、その方法は3つに分類される。直接燃焼方式と熱分解ガス化方式、生物化学的ガス化方式だ。
2.1. バイオマス発電の種類1:直接燃焼方式
直接燃焼方式とは、バイオマスを直接燃焼し、燃焼時に発生した水蒸気でタービンを回して発電するものだ。燃料に使うのは、木くずや間伐材、可燃ごみ、廃油などだ。
燃料は、そのままの状態では燃焼効率が悪いため、事前に加工することが多い。たとえば、木くずは木質ペレットという小さな固形状の燃焼物に、間伐材は粉砕して木質チップに加工する。このような処理を行うことで、燃焼効率が上がり、エネルギー変換効率を高めることができる。
直接燃焼方式をさらに分類すると、バイオマスを石炭などの化石燃料と同時に燃焼させる混焼方式と、バイオマスのみを燃焼させる専焼方式の2つがある。
▽直接燃焼方式による発電
2.2. バイオマス発電の種類2:熱分解ガス化方式
熱分解ガス化方式とは、バイオマスを加熱することでガスを発生させ、ガスタービンを回して発電するものだ。直接燃焼方式と同じく、木くずや間伐材、可燃性ごみなどを燃料とする。木くずや間伐材を木質ペレットや木質チップに加工することが多い点も、直接燃焼方式と同じだ。
▽熱分解ガス化方式
2.3. バイオマス発電の種類3:生物化学的ガス化方式
生物化学的ガス化方式とは、バイオマスを発酵させることでメタンなどのバイオガスを発生させ、ガスタービンなどのタービンを回して発電する。燃料に使うのは、家畜のふん尿や生ごみ、下水汚泥などだ。
▽生物化学的ガス化方式(メタン発酵による発電)
3. バイオマス発電のメリット
脱炭素に向けた世界的な潮流の中で注目される、バイオマス発電。新たな二酸化炭素を排出しないという点以外にも、社会にとってのメリットがある。代表的なメリットを4つ解説しよう。
3.1. バイオマス発電のメリット1:エネルギーの安定共有につながる
1つめのメリットは、エネルギーの安定供給につながることだ。
日本のエネルギーは、輸入された化石燃料によって供給されてきた。日本のエネルギー自給率は12.1%と低い(2019年度)。このままエネルギー資源を輸入に頼る状況が続けば、化石燃料が枯渇に向かうにともなって、国内の経済や国民生活に大きな影響を与えることは明らかだ。
その点、バイオマス発電は燃料となるバイオマスを国内で確保できるため、エネルギーの安定供給につながると考えられる。
3.2. バイオマス発電のメリット2:廃棄物を有効利用できる
2つめのメリットは、廃棄物を有効利用できることだ。1.3. で挙げたとおり、バイオマスの多くは廃棄される予定のものだ。たとえば、木くずや間伐材、可燃ごみ、建築廃材、食品加工廃棄物、家畜排せつ物など、あらゆる廃棄物をバイオマス発電に利用できる。
また、バイオマス発電は間伐材の問題解決にもつながっている。森林の成長を促すには、成長過程で間伐し、木々を間引く必要がある。こうして生まれるのが間伐材だ。日本では、多くの間伐材が未利用のままだという問題があった。
しかし、バイオマス発電の普及に伴って未利用間伐材が燃料として価値を持つようになり、適切な間伐を実施しやすくなったと言われている。間伐が進めば、森林の成長が促されて二酸化炭素を吸収する効果が高まることも期待できる。
このようにバイオマス発電によって廃棄物を有効利用できれば、ごみを有効活用する循環型社会の実現へと一歩近づく。
3.3. バイオマス発電のメリット3:発電所の設置場所の自由度が比較的高い
3つめのメリットは、発電機を設置する場所の自由度が比較的高いことだ。太陽光発電所や風力発電所、水力発電所などを建設する際は、効率的に発電できる条件が整った環境が必要だ。一方、バイオマス発電はこれらの発電所ほどは立地の制約を受けない。
バイオマス発電所にとっての理想的な立地は、ごみを燃料にするならごみ処理場の近くに、木くずを燃料にするなら木材事業所の近くにといったように、バイオマスを調達しやすい場所だ。燃料運搬の金銭的コストや手間だけでなく、二酸化炭素排出量も抑えることができる。
3.4. バイオマス発電のメリット4:エネルギーの地産地消や地域活性化につながる
4つめのメリットは、エネルギーの地産地消や地域活性化につながることだ。
エネルギーの地産地消は、平時はもちろんのこと、災害時にも安定的なエネルギー供給ができるという利点があり、東日本大震災以降に注目されている。地域で燃料を調達できるバイオマス発電は、エネルギーの地産地消という考え方と相性がいい。
また、将来的にバイオマス発電が新たな産業として地域に根付けば、地域の雇用が生まれ地域活性化へもつながっていく。
4. バイオマス発電のデメリット
さまざまなメリットがあるバイオマス発電だが、下記のようなデメリットもある。
4.1. バイオマス発電のデメリット1:発電前の工程で二酸化炭素が発生する
1つめは、燃料の加工や輸送などの工程を含めるとカーボンニュートラルとは言い切れないことだ。
前述のとおり、光合成で二酸化炭素を吸収して成長するバイオマスを燃料とする発電では、燃焼時に二酸化炭素が発生するものの、新たに植物を育てることで、トータルの二酸化炭素排出量はプラスマイナスゼロになるという考え方がされている。しかしバイオマス発電のサプライチェーン全体に目を向けると、バイオマスの栽培や加工、輸送といった工程では化石燃料が利用されるため、二酸化炭素が発生してしまう。
たとえば、木質バイオマス発電が進めば、国内の木くずや間伐材の活用が進むと見られていた。しかし実際はベトナムやカナダなど海外から輸入した木質ペレットを燃料とする発電所が大半となっており、輸送には二酸化炭素排出を伴う。
2020年11月には、FoE Japanと地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、バイオマス産業社会ネットワークという4つの環境団体が、バイオマス発電はカーボンニュートラルではないとする見解を発表している。
【参考】地球・人間環境フォーラム「見解:バイオマス発電は『カーボン・ニュートラル(炭素中立)』ではない」
4.2. バイオマス発電のデメリット2:森林破壊につながるケースもある
2つめは、森林破壊につながるケースもあることだ。
バイオマス発電のために木材が伐採されたあと、植林が行われないケースがある。木質ペレットの製造元が森林の再生を条件に仕入先を選んでいても、実際は費用がかかることを理由に所有者が植林しないこともあるという。
森林が減少すると、吸収できる二酸化炭素の量が減るだけでなく、土壌に貯蔵されていた大量の炭素が二酸化炭素として大気中に排出される点もデメリットだ。カーボンニュートラルを実現するには、木材を燃料として利用することにとどまらず、森林を元の状態へと再生することが必須だ。
4.3. バイオマス発電のデメリット3:発電だけではエネルギー利用効率が低い
3つめは、発電だけではエネルギー利用効率が低いことだ。発電と同時に生まれた熱も有効活用する工夫が求められる。国内では、バイオマス発電で発生した電気と熱をどちらも工場で利用する事例や、電気は電力会社に売電して熱は近隣の温浴施設で利用する事例などがある。
5. バイオマス発電の導入に使える交付金と支援制度
脱炭素社会の実現を目指す政府は、再生利用エネルギーの普及に取り組んでおり、バイオマス発電については導入事業者を対象に交付金や出資による支援などを用意している。代表的なものを2つ紹介しよう。
5.1. みどりの食料システム戦略推進交付金
農林水産省の「みどりの食料システム戦略推進交付金(バイオマス地産地消対策)」では、地域のバイオマスを活用した、エネルギーの地産地消に向けた調査や施設整備などを支援する。
令和4年度(2022年度)の予算概算決定額は8億3,700万円で、対象となる事業は下記のほか、バイオ液肥散布車の導入、バイオ液肥の利用促進と、農業支援に関連する交付金となっている。詳細は、各都道府県のバイオマス発電所管部署課に問い合わせたい。
・事業化の促進(事業性の評価、調査、設計)
・バイオマス利活用施設整備
・効果促進対策
【参考】大臣官房環境バイオマス政策課「令和3年度補正予算・令和4年度当初予算案の概要」(PDF)
5.2. 地域脱炭素投資促進ファンド事業
環境省の「地域脱炭素投資促進ファンド事業」は、再生可能エネルギー発電事業等の脱炭素化プロジェクトに民間資金を呼び込むことを目的に、プロジェクトを実施する民間事業者・団体に出資することで支援を行う。対象となる事業は次のとおりだ。詳細は、執行団体である一般社団法人グリーンファイナンス推進機構に問い合わせたい。
・二酸化炭素排出量の抑制・削減につながるもの
・地域の活性化に資するもの
・民間だけでは必要な資金を調達できない脱炭素社会の構築に資する事業(例:設備稼働までのリードタイムが長期に及ぶ、金融機関の事業性評価の知見が不足している等)
【参考】資源エネルギー庁「地域における脱炭素事業に出資を受けたい」
【参考】一般社団法人グリーンファイナンス推進機構
6. バイオマス発電を導入した企業の事例
前出のような政府の支援を背景に、バイオマス発電を導入する企業は増えていくと見込まれる。続いて、企業が取り組むバイオマス発電の事例を3つ紹介する。
6.1. バイオマス発電導入企業事例1:グリーン発電大分の木質バイオマス発電
大分県日田市の株式会社グリーン発電大分は、地域の主要産業が林業や製材業であることを活かして木質バイオマス発電に取り組んでいる。利用するバイオマスは、林地残材や未利用間伐材、製材課程で発生する木くずで、出力は約5,700kWだ。
また、発電所で生まれた排温水を隣接する園芸ハウスに安価で提供するなど、低コスト・低炭素化農業にも貢献している。
6.2. バイオマス発電導入企業事例2:くずまき高原牧場の畜ふんバイオマスシステム
岩手県岩手郡葛巻町のくずまき高原牧場は、牧場内の牛の排せつ物や一般家庭生ゴミ、事業所系生ゴミを発酵させて発電を行うバイオマスシステムを確立した。出力は37kWだ。発電時に生み出される熱や有機肥料も有効活用している。
6.3. バイオマス発電導入企業事例3:コープこうべの廃棄物処理施設
兵庫県神戸市の生活協同組合コープこうべは、直営の食品工場で豆腐や麺、パンなどを生産する過程で発生する生ごみ5トンと、排水処理施設から排出される汚泥1トンをメタンガスに変換し、バイオマス発電に活用している。出力は60kWだ。
この取組によって約97%の食品廃棄物をリサイクルしている。発電時に生み出される熱エネルギーも工場内で再利用している。
まとめ:バイオマス発電の課題を解決する企業に注目
バイオマス発電とは、動物や植物など生物由来の資源を用いた発電だ。エネルギーの安定供給や廃棄物の有効利用などさまざまなメリットがある。一方、サプライチェーン全体ではカーボンニュートラルとは言い切れない点やエネルギー利用効率の問題といった課題もある。
しかし、化石燃料の枯渇が危惧される今、政府は国を挙げての再生可能エネルギー導入促進へと舵を切っており、気候や天候に左右されないバイオマス発電は、再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力とは異なる重要性を帯びている。
バイオマス発電に課題があるということは、裏を返せば、解決につながる技術を開発した企業は飛躍的に成長する可能性があると言えるだろう。バイオマスの加工や輸送にまつわる技術開発など、バイオマス発電関連市場に注目したい。