樹の上に置かれた電球
(画像=NOBU / PIXTA(ピクスタ))

目次

  1. 脱炭素化(カーボンニュートラル)の概要
  2. 世界的な傾向から知る脱炭素化とは?
  3. 脱炭素化で各国が力を入れているテーマは?
  4. 国内企業の脱炭素化の具体的な取り組み
  5. まとめ:脱炭素化ビジネスは大きな潮流

脱炭素化(カーボンニュートラル)とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味する。脱炭素が世界的な潮流となり、日本でも急速に広まりつつある。環境投資で動くお金をグリーンマネーと呼ぶが、3,000兆円を超えるともいわれる巨額のグリーンマネーは、どんな市場へと流れるのだろうか? この記事では脱炭素を巡る各国の動向や戦略、具体的な取り組み事例をマーケット動向に注目しながら紹介する。脱炭素やグリーンマネーをめぐる動きを把握し、今後の投資・経営戦略へと活かしていただきたい。

脱炭素化(カーボンニュートラル)の概要

脱炭素(カーボンニュートラル)の意味や、脱炭素化ビジネスの市場規模を知る上で参考となるデータを紹介する。

脱炭素化(カーボンニュートラル)とは?

脱炭素化の潮流が生まれた背景を簡単に解説する。

産業革命以降の工業化により、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスが増加した。温室効果ガスの影響で地球温暖化が進み、気候変動が起こると、農作物が被害を受けたり、生物種が絶滅したり、豪雨や洪水による被害が増加したりといったさまざまな問題が生じる。今後は冠水の影響で沿岸都市が消滅し、難民が増えることも予想される。

気候変動は、私たちの命や健康が脅かされる可能性のある深刻なテーマだ。このような環境問題の深刻化を食い止めるため、脱炭素化の潮流が生まれた。

脱炭素化(カーボンニュートラル)とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味する。

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、おもに自動車や工場など人為的な活動によって排出される。この排出量が、樹木による吸収量を上回る状態が続くと、環境に悪影響を及ぼし、気候変動問題が生じる。

一方、排出量と吸収量が均衡していれば、理論的には温室効果ガスはゼロとなる。これを実現した社会が脱炭素化社会というわけだ。

脱炭素実現に向けたアプローチ方法には、炭素の排出量を減らすことや植林等で吸収量を増やすなどがある。

脱炭素化ビジネスの市場規模

続いて、脱炭素化ビジネスの市場規模を知る上で参考になるデータを紹介していく。

環境省が2020年に公表した「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によると、2018年の環境産業の市場規模は約105兆円で、過去最大となった。2000年と比べると、約1.8倍に増加している。また、同報告書の将来推計では、市場規模は2019年以降も拡大を続け、2050年には約133兆円になると見込まれている。

さらに、国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年の脱炭素投資額は約7,500億ドルにのぼる。投資比率は今後も上昇する見通しだ。

世界的な傾向から知る脱炭素化とは?

脱炭素化は世界的な潮流だ。脱炭素化のスタート地点ともいえる「パリ協定」と、各国の脱炭素化の動きを後押しした「1.5℃特別報告書」について解説する。

脱炭素化「パリ協定」とは?

パリ協定とは、2015年に合意された気候変動に関する国際的な枠組みのことだ。次のような内容に55ヵ国以上が同意した。

  • 世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)
  • 21世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること

この他、各国の削減目標が具体的に約束草案として提出された。日本は2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減するという目標を設定した。

各国の温室効果ガス削減目標
(画像引用:JCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター:各国の温室効果ガス削減目標)

IPCC「1.5℃特別報告書」とは?

パリ協定が採択されたあと、温暖化対策の科学的側面を担うIPCC(195の国・地域が参加する気候変動に関する政府間パネル)がどのような評価を示すかが国際的に注目されていた。そして2018年、IPCCは「1.5℃特別報告書」を提出した。

同報告書は、現状の進行速度では2030~2050年に気温上昇が1.5℃に達する可能性があるとした。1.5℃を超えて2℃、またはそれ以上になることを防ぐには「前例のない移行」が必要だと強調した。地球温暖化を抑制することで、健康面などで明らかなメリットがあることも示した。

たとえば、2℃に比べて1.5℃の地球温暖化においては、暑熱に関連する疾病及び死亡リスクが低減するという。マラリアやデング熱などの一部の動物媒介性感染症のリスクは、1.5℃から2℃のイオン上昇にともない増大すると報告されている。

同報告書の影響で、各国は改めて社会の脱炭素化を目標に掲げ、これまで以上に強力に推し進めていくことになった。

脱炭素化で各国が力を入れているテーマは?

脱炭素化に向けた世界の動きを具体的に解説する。今後要注目の業界や技術、政府・企業の動向も紹介する。

各国の動向からグリーンマネーの行方を知ろう

近年、環境/社会/ガバナンスを重視して投資先を選ぶESG投資が注目を集めている。GSIA(世界持続可能投資連合)の報告書によると、2020年のESG投資額は約35.3兆ドルだ。ESG投資額は急速に増加しており、今後さらに加速すると予想されている。ESG投資の主要マーケットである環境分野にも、巨額のマネーが流れ込んでくる可能性が高い。

米国の脱炭素化戦略

2021年2月、民主党のバイデン大統領は、前大統領トランプ氏が離脱した「パリ協定」への復帰を果たし、大胆な温室効果ガス削減目標を設定した。環境保全分野に約210兆円を投資し、2050年までに社会の脱炭素化実現を目指す。

今後、アメリカでは太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーに関連する技術を持つ企業が躍進する可能性が高い。アメリカの巨大IT企業群「GAFAM」の1社であるAmazonは、三菱商事と再生可能エネルギーを活用した長期売電契約を締結した。巨大IT企業もまた、脱炭素化に向けた動きを加速させている。

中国の脱炭素化戦略

世界規模で脱炭素化を実現するには、世界一の人口を有し、急速な経済発展を遂げた中国の協力が欠かせない。世界の二酸化炭素排出量のうち、約3割を中国が占めるという報告もある。

中国は、2018年度の太陽光発電・風力発電の導入量で世界1位になるなど、意欲的に脱炭素化に取り組んでいる。

また、中国はバッテリー電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)へのシフトを推進している。BEVとPHEVの新車登録は、中国と欧州で世界全体の85%のシェアを占める。検索大手のバイドゥ(百度)やスマートフォンメーカーのシャオミ(小米科技)もEV事業への参入を表明している。中国のEV市場は今後要注目だ。

欧州の脱炭素化戦略(グリーンディール)

欧州は脱炭素化の先頭を走っている。欧州委員会(欧州連合(EU)の政策執行機関)は欧州グリーンディールに基づく制度改革を推進している。EU域内の国々のうち、特に欧州経済を牽引するフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、そして、イギリスの動きには要注目だ。

コロナ禍によって脱炭素化の取り組みに遅れが生じることがないよう、EUはグリーンリカバリー計画を公表、景気刺激策として、EU予算約250兆円のうち30%を気候変動対策に割り当ることとなった。

欧州では、陸上風力発電と太陽光発電に続き、洋上風力発電の存在感が増している。イギリスの導入量は、2010年から2019年にかけて約9.8倍に増加した。欧州はプロジェクトを後押しするため、大規模な入札を頻繁に実施する政策をとっている。洋上風力発電に注力する資金力のある大手電力会社には要注目だ。

日本の脱炭素化戦略

日本政府は、アメリカと同じく2050年までに脱炭素化の実現を目指す。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に10年間で2兆円の基金を造成し、2兆円の資金を呼び水として15兆円規模の企業の研究開発・設備投資を促す。また、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設等によって、10年間で約1.7兆円の民間投資を創出することを目指す。

日本政府は、水素発電技術をカーボンニュートラルのキーテクノロジーとして位置づけ、インフラ整備によって同産業の創出、発展を目指している。2021年には、水素政策の情報交換やサプライチェーン構築、規制の整備に向けてアラブ首長国連邦と協力するとの覚書に署名をした。

このような動きによって、液化水素メーカーや水素設備関連技術を持つ企業、燃料電池自動車(FCV)メーカーなどが、水素関連銘柄として注目を浴びている。

国内企業の脱炭素化の具体的な取り組み

日本政府の脱炭素化の取り組みと並行する形で、企業の脱炭素化の動きも加速している。続いて、脱炭素化に向けた国内企業の具体的な取り組みを紹介する。

脱炭素化経営に向けた国内企業の取り組み

多くの日本企業の間で、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の活動やSBT(Science Based Targets:温室効果ガス排出削減目標) 、RE100(企業が自らの事業の使用電力を100%再生エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)といった脱炭素化に関連する枠組みへの協力が広がりつつある。これらの枠組みを活用して脱炭素化に取り組んでいる業態は、建設、食糧、電気機器、化学、医薬品、情報通信、小売り、不動産などさまざまだ。

TCFDやSBT、RE100それぞれの言葉の定義と、脱炭素化に取り組んでいる企業名を紹介していく。

TCFDとは?

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とは、企業の気候変動への取り組みや影響に関する情報の開示を促す国際的なタスクフォースのことだ。世界で2,435の金融機関、企業、政府等がTCFの活動に賛同を表明している。日本では479機関が賛同している。賛同機関数では世界1位だ。TCFDに取り組んでいるのは、次のような企業である。

TCFDに取り組んでいる企業:サントリーホールディングス/日産自動車/YKK/日本郵船……

積水ハウスでは、TCFD REPORTを発行し、「省エネ・防災住宅の開発」「環境配慮型住宅グリーンファースト発売」などの取り組みを紹介している。

アスクルは、物流施設の自動化・無人化を進め光熱費を削減することや、再利用可能なコピー用紙の調達を検討することを経営計画に盛り込んでいる。

SBTとは?

SBT(Science Based Targets)とは、企業の科学的な中長期の目標設定を促す枠組みのことだ。世界で875社が認定されている。日本の認定企業は128社で、世界2位である。SBTに取り組んでいるのは、次のような企業だ。

SBTに取り組んでいる企業:日本板硝子/テルモ/アステラス製薬/参天製薬……

アサヒグループホールディングスは、CO2排出量ゼロを目指す中長期目標「アサヒカーボンゼロ」を掲げている。2021年には、2030年の目標値を従来の30%削減から50%削減に上方修正すると発表した。

RE100とは?

RE100(Renewable Energy 100%)とは、企業が事業活動に必要な電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指す枠組みのこと。世界で323社が参加している。日本の参加企業は59社で、世界2位だ。RE100に取り組んでいるのは、次のような企業である。

RE100に取り組んでいる企業:旭化成ホームズ/熊谷組/エンビプロ・ホールディングス/東急……

富士通は、再生可能エネルギーの利用を2030年までに40%以上、2050年までには100%にすることを目指している。2021年4月からは、川崎工場(本店)で使用する電気をすべて再生可能エネルギーによる発電でまかない始めた。

J-クレジット

J-クレジットとは、脱炭素化の取り組みによる温室効果ガスの削減量・吸収量を「クレジット」として国が認証する制度だ。認証されたJ-クレジットは企業や自治体に売却できる。

省エネルギー機器を導入して温室効果ガスの排出量を削減した場合や、森林経営によって温室効果ガスの吸収量を増やした場合にJ-クレジットの認証を受けられる。

認証を受けるメリットとしては、J-クレジットの売却益を得られることが想定される。J-クレジットの認証を受けた企業だけでなく、J-クレジットを購入した企業も、環境問題の解決に真剣に取り組む企業としてブランドイメージの向上が見込めるかもしれない。

まとめ:脱炭素化ビジネスは大きな潮流

以上、脱炭素化は世界的な動きであり、ビジネスにおいてもますます重要視される活動だということがおわかりいただけたのではないだろうか。グローバルな経済活動が展開される現代においては、世界全体の潮流を無視することはできないはずだ。

国外、国内問わず、大企業の多くが脱炭素化の視点をビジネスに取り入れている。脱炭素化の潮流に乗ってシェアを拡大することに成功すれば、ベンチャー企業や中小企業でも、飛躍的に成長できる可能性がある。投資先の選定という視点においても、脱炭素化の動きには注目しておきたい。

水瀬理子

水瀬理子(みずせ りこ)
税理士法人での勤務経験を持つファイナンシャルプランナー。「お金の相談役」として、投資、相続、ライフプランに関する数多くの提案をしてきた。現在は執筆業を中心に幅広く活動している。