年収1,000万円超と聞くと「高年収」というイメージを抱かれることが少なからずある。一方で「税金が高いため手取りはそれほど多くないのでは?」といわれることもあるだろう。本記事では、年収1,000万円超の人を取り巻く税制度について解説したうえで節税対策として有効な方法を紹介する。

日本で年収1,000万円超の人の割合は?

所得税の最高税率は55%!年収1,000万円超の方が合理的に節税する方法とは?
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

国税庁が実施した「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると給与所得者の給与額・人数・割合は、以下の表の通りだ。

給与額人数割合
1,000万円超~1,500万円以下約175万3,000人3.4%
1,500万円超~2,000万円以下約38万4,000人0.7%
2,000万円超~2,500万円以下約12万4,000人0.2%
2,500万円超約14万5,000人0.3%
合計約240万6,000人4.6%
※給与階級別給与所得者数・構成比
出典:国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」より株式会社ZUU作成

年収1,000万円を超える給与を得ているのは全給与所得者のうちの4.6%と約22人に1人未満の割合であることが分かる。

年収1,000万円超の人の税率は最大55%!

2022年2月現在の日本の税制においては、累進課税という課税方式が採用されているため、所得が高いほど税率が上がる仕組みだ。

ここで、給与の場合の収入と所得の違いについて説明しておこう。給与所得は、源泉徴収前の給与および賞与等の合算額である収入金額(額面年収)から、給与所得控除額を差し引いた金額である。

所得税は、給与所得に所得税率をかけることで算出される。年収と所得は同じではないということを認識しておこう。

具体的に課税所得の金額と税率は、以下の表の通りである。

課税所得の金額税率合計税率
所得税住民税
900万円~1,800万円以下33%10%43%
1,800万円~4,000万円以下40%50%
4,000万円超~45%55%
出典:国税庁ホームページより株式会社ZUU作成

課税所得が4,000万円超になると所得税率が45%、住民税率が10%で合計55%もの税金が課される。高所得者は、課税所得の半分以上の税金を支払わなければいけない可能性があるため、資産を守ることを考える際は、合法的かつ合理的な節税対策を検討するのが有効な選択肢の一つだ。

年収1,000万円超の人に適した節税方法

年収1,000万円超の人に適した節税方法の例をいくつか紹介する。

  • iDeCo
  • 不動産投資

いずれもメリット・デメリットがあり節税効果の大小も異なるため、自分に合った方法を選ぼう。

iDeCoのメリット・デメリット

iDeCoとは、個人型確定拠出年金とも呼ばれ国民年金や厚生年金に上乗せされる私的年金のことである。年金という性質も持ちながら自分で掛け金を拠出および自分で商品を選び、自分の責任で運用する点がiDeCoの特徴の一つだ。iDeCoのメリット・デメリットは、以下の表の通り。

メリットデメリット
・掛け金が全額所得控除になる
・運用益が非課税で再投資される
・受給時に所得控除を受けられる
・60歳になるまで引き出せない
・資産価値の変動リスクがある
・各種手数料がかかる
(加入時・移換時手数料、口座管理手数料、信託報酬等)
(加入時・移換時手数料、口座管理手数料、信託報酬等)

iDeCoは、年金資産の構築が前提の制度であるため、「積み立てた資産を引き出せる年齢に制限がある」「資産運用である以上はリスクを伴う」といった点に留意したい。

・NISAについて
よくiDeCoと同列で話されることの多いNISAは、毎年一定金額の範囲内で投資した金融商品から得られる利益が非課税になる制度のことだ。通常の資産運用においては、投資した金融商品(株式や投資信託等)を売却して得た利益や受け取った配当に対しては約20%の税金がかかる。NISA制度を活用すれば上記の約20%の税金が一定期間にわたって免除されるのだ。この制度は所得税に対する控除がないことから、このコラムの趣旨である1,000万円超の節税方法ではないが、iDeCoとの併用もできることからうまく活用しよう。
NISAの主なメリット・デメリットは、以下の表の通りである。

メリットデメリット
・いつでも売却、払い出しが可能
・売却益、配当金が非課税となる
・売却益、配当金の確定申告が不要
・非課税期間に上限がある
・投資できる金額に上限がある
・投資できる商品に制限がある
・損益通算が使えない
・ロールオーバー時は、移管時の取得価格になる

資産運用によって得られた利益に対する税金を節税できる点は大きなメリットだ。しかし非課税となる期間および金額に上限があるため、永続的な節税方法ではない点に留意しよう。

不動産投資のメリット・デメリット

不動産投資とは、土地や建物(賃貸アパート等)を購入して第三者に賃貸することで家賃収入を得たり値上がりしたタイミングで売却して利益を得たりする投資方法である。不動産投資は、株式投資などと異なり金融機関から融資を受けることもできるため、自己資金以上の規模の投資ができる可能性があるという点が大きなメリットの一つだ。

不動産投資は、数千万円以上の投資規模になる場合が多いため、節税できる金額も投資規模に比例して大きくなり得る。ただし投資する物件(構造や築年数等)によっては節税効果がほとんど見込めない。逆に税額が増えてしまう可能性がある点にも注意が必要だ。不動産投資の主なメリット・デメリットは、以下の表の通りである。

メリットデメリット
・金融機関のローンを活用すれば自己資金以上の規模の投資ができる可能性がある
・投資金額以上に節税できる可能性がある
・リスクを一定程度コントロールできる
・投資する物件によっては税額が増える可能性がある
・運用に費用と手間がかかる
・売却に時間と手間がかかる

高い節税効果を求めるなら築古中古物件への不動産投資がおすすめの理由

節税を重視した投資をしたい場合は、築古中古物件への不動産投資がおすすめだ。なぜなら不動産投資は「減価償却」を活用することで購入年以外は実際の現金出費を伴わずに所得を圧縮できるからである。減価償却とは、経年により価値が下落する資産(不動産投資では建物)を取得した場合、取得にかかった費用をその資産の耐用年数に応じて分割して計上していく会計処理のことをいう。

賃貸アパートなどの建物は、賃貸している期間にわたって収益を生み続けるため、取得費用を取得した年度に全額経費計上してしまうと年度ごとの収益と費用のバランスが損なわれる。そのため賃貸アパートなどの建物の取得費用は、耐用年数に応じて分割して経費として計上されるのだ。なお会計上土地は、建物と異なり経年劣化しないと考えられている。

そのため「土地は減価償却できない」という点は押さえておきたい。減価償却費は、帳簿上のみに発生する経費のため、実際の現金出費を伴うことなく経費を増やして所得を圧縮することができる点が不動産投資における節税のキーポイントである。投資する物件の構造や築年数によっては、短期間で大きく減価償却費を計上することができるため、高い節税効果が期待できるのだ。

節税重視の不動産投資に適した物件の3つの条件

節税重視の不動産投資に適した物件の条件は、以下の3つ。

  • 土地価格よりも建物価格の方が高い物件
  • 軽量鉄骨造または木造の物件
  • 築19年(軽量鉄骨の場合)または22年(木造の場合)を超える築年数の物件(法定耐用年数を経過した物件)

建物価格が高い

減価償却費は、以下の表によって算出される。

1年あたりの減価償却費
建物金額×定額法の償却率※
耐用年数(中古物件の場合)
法定耐用年数>築年数の場合法定耐用年数≦築年数の場合
(法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2法定耐用年数×0.2
※償却率は「耐用年数」に応じて定められており、「減価償却資産の償却率表」で参照できる。
出典:国税庁ホームページより株式会社ZUU作成

減価償却は建物のみに行われる会計処理のため、建物価格が高い物件ほど計上できる減価償却費の金額が大きくなる。物件価格(土地と建物の合計価格)において建物部分の比率が高い物件のほうが節税の観点からは有利といえるだろう。

軽量鉄骨造または木造の物件

築年数が法定耐用年数以上の場合、耐用年数を法定耐用年数の20%という短期間とすることができる。法定耐用年数が短いほど築年数が法定耐用年数以上の場合の耐用年数を短くできるため、1年あたりの減価償却費を高められるのだ。物件の構造ごとの主な法定耐用年数は、以下の表の通りである。

構造法定耐用年数
軽量鉄骨造19年
木造22年
重量鉄骨造34年
RC造・SRC造47年
出典:国税庁ホームページより株式会社ZUU作成

各種別で法定耐用年数が短いのは、軽量鉄骨造・木造のため、「耐用年数を短くする」という観点からは両者が適しているといえる。

築19年(軽量鉄骨造の場合)または22年(木造の場合)を超える築年数の物件(法定耐用年数を経過した物件)

減価償却費を短期間で大きく計上するには、法定耐用年数が短い軽量鉄骨造・木造の物件かつ築年数が法定耐用年数を経過した物件が重要である。なぜなら例えば軽量鉄骨造と木造の耐用年数は以下のようになり1年あたりの償却率を大きくできるからだ。

  • 軽量鉄骨造:3年(法定耐用年数19年×0.2=3.8→端数切り捨てで3年)
  • 木造:4年(法定耐用年数22年×0.2=4.4→端数切り捨てで4年)

ただし減価償却費の計上ばかりを重視し過ぎないことも忘れてはならない。たしかに上記のように築19年超の軽量鉄骨造アパートや築22年超の木造アパートに投資すれば3年または4年で減価償却ができる点はメリットだ。しかしそれ以降は、減価償却費の計上ができなくなる点も押さえておきたい。

3年間ないし4年間保有した後、売却する場合に買値以上で売れれば問題ない。しかし逆の場合は、節税できた金額以上の売却損が出るリスクがある点も認識しておく必要がある。超高所得者層であれば仮に売却損が出ても節税メリットのほうが上回る可能性はおおいにある。しかし減価償却費の計上による節税は、必ずしも万人に通用する方法ではないといえるだろう。

不動産投資では節税のみに重きを置きすぎないことも重要

不動産投資による節税は、必ずしも万人に通用する方法ではないため、節税のみを重視し過ぎないことが重要だ。物件の売却も見越して適正価格で買い手を見つけることができるか、家賃収入を安定的に得られるかという点も加味して物件を選ぶ必要がある。

宮路 幸人
税務に関する記述の監修

宮路 幸人
税理士・CFP・宅建士・マンション管理士

会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。

(提供:manabu不動産投資

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