この記事は2022年4月15日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「貸出・マネタリー統計(2022年3月)~指し値オペの影響で資金供給量の伸びが上昇、貨幣流通高は連月で前年割れに」を一部編集し、転載したものです。
目次
1 ―― 貸出動向: 都銀貸出が10ヵ月連続の前年割れに、不動産向け貸出が初の90兆円突破
1 ― 1 貸出残高
4月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.50%と前月(同0.31%)をやや上回った。伸び率の上昇は2ヵ月ぶりとなる。昨年半ば以降、前年比0.5%前後の小幅な伸びが続いている(図表 - 1)。
引き続き、円安の進行による外貨建て貸出の円換算残高嵩上げが多少の押上げ要因となっている(図表 - 3)。一方、大企業向けが引き続き前年割れに留まっているほか、海外向けの伸びが一服したことが重荷になっている(図表 - 4)。
業態別に見た場合には、都銀の伸び率が前年比-0.87%(前月は-1.30%)と10カ月連続の前年割れとなっているが、マイナス幅はやや縮小した。一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比1.68%(前月は1.72%)とプラス幅がやや縮小している(図表 - 2)。地銀では、相対的に資金需要の根強い中小企業向けが主力であるため、都銀に比べて堅調な伸びが続いているものの、増勢はじわりと鈍化してきている。
1 ― 2 業種別貸出動向
昨年12月末時点の業種別貸出データを見ると、製造業向けの寄与度が前年比▲1.04%(9月末は▲1.09%)と大幅なマイナスを維持し、引き続き全体の伸び率(9月末0.94%→12月末1.09%)を大きく押し下げている(図表 - 5)。
また、対面サービス業(飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業)向けの寄与度も2期連続のマイナス(9月末▲0.11%→12月末▲0.13%)で、マイナス幅も若干拡大した。残高は飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業ともに減少傾向にあるが、特にコロナ禍入り後に急激に残高が増えた飲食での減少が目立つ(図表 - 6)。
コロナ禍初期の借り入れた資金の一部で返済が始まっているためとみられ、資金繰りが圧迫されないかが注目される。
一方、不動産業向けやその他向けの寄与度は依然としてプラスを維持している。とりわけ不動産向け(9月末寄与度0.42%→12月末0.58%)は長期にわたって増勢を維持しているうえ、直近でも増勢がやや強まっており、貸出全体の支えになっている。同業種向けの残高は初めて90兆円台に乗せている。
2 ―― マネタリーベース:指し値オペの影響で伸び率が上昇、貨幣流通高は連月で前年割れに
4月4日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比7.9%と、前月(同7.6%)を上回り、2カ月ぶりに上昇した(図表 - 7)。
上昇の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率が持ち直した(前月8.8%→当月9.1%)ことである。金利抑制のための指し値オペを複数回実施した影響で日銀当座預金の増加要因となる長期国債買入が増加したほか、国庫短期証券買入れ額も増加したことが寄与した(図表 - 8)。
その他の内訳では、日銀券発行高の伸びが前年比3.2%(前月は3.0%)とやや上昇した一方で、貨幣流通高の伸び率は前年比▲0.7%(前月は▲0.2%)と2カ月連続で前年の水準を割り込んだ。
3月末時点のマネタリーベース残高は688兆円と前月末比で24兆円増加した。もともと年度末には増加しやすいという季節性があるものの、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみても、前月比7.6兆円増と11カ月ぶりの増加幅となっている(図表 - 10)。指値オペなどが寄与した形だ。
マネタリーベースの先行きについては、コロナオペの一部打ち切りなど資金供給策の縮小が実施されることが伸び率の低下要因となるものの、日銀が金利抑制のために4-6月の国債買入れ額(通常オペ)を増額したことが支えとなる。また、今後も金利上昇を抑制するための指し値オペが追加実施されれば、さらに低下圧力は緩和されることになる。
3 ―― マネーストック:伸び率は引き続き低下基調
4月13日に発表された3月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.50%(前月は3.55%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.13%(前月は3.18%)と、ともにわずかに低下した(図表 - 11)。伸び率は緩やかな低下基調にあり、水準はそれぞれ2020年3月、4月以来の低水準にあたる。
銀行貸出の伸び率低迷や日本の貿易収支赤字化が伸び率の低下に影響しているとみられる。
M3の内訳では、主軸である預金通貨(普通預金など・前月6.8%→当月6.7%)の伸び率低下の影響が大きかった。CD(譲渡性預金・前月10.4%→当月6.2%)の伸び率も低下した。一方、現金通貨(前月3.0%→当月3.2%)の伸び率上昇と、準通貨(定期預金など・前月▲3.1%→当月▲2.9%)のマイナス幅縮小が一定の支えとなった(図表 - 12・13)。
広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比4.24%(前月は4.22%)とわずかに上昇した(図表 - 11)。
内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したうえ、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月1.5%→当月1.0%)の伸びも低下したが、規模が大きい金銭の信託(前月11.1%→当月11.3%)、外債(前月2.0%→当月4.7%)の伸び率が上昇したことが全体の上昇に寄与した(図表 - 13)。
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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト
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